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コラム:ドル高に陰り、綱引きの軍配は円高へ=亀岡裕次氏
2017年2月22日 / 09:33 / 10ヶ月前

コラム:ドル高に陰り、綱引きの軍配は円高へ=亀岡裕次氏

[東京 22日] - トランプ米政権の減税など景気刺激的な経済政策への期待がドル高に作用する一方、保護主義的な通商政策がドル安に作用している。このところ、ドル円相場が安定的なのは、そのためだろう。では、今後の為替相場はどちらに傾くのだろうか。

まず、米国金利を左右する利上げ期待について注目したい。最近、米国の利上げ期待が高まっており、その背景にインフレ率の高まりがある。1月の米消費者物価は前年比プラス2.5%まで急上昇した。食品・エネルギーを除いたコア物価は同2.3%で大きな変化はなく、エネルギー価格が物価上昇に寄与している面が大きい。2016年1月に底打ちした原油価格がこの先、安定的に推移すれば、インフレ率は次第に落ち着きやすい。

ただ、米国では完全雇用に近づくにつれて賃金上昇率も高まってきていることから、コア物価も含めてインフレ率が一段と上昇する可能性は残る。

16年12月に1.6%だった個人消費支出(PCE)物価指数の前年比伸び率が、米連邦準備理事会(FRB)の目標とされる2%を超えてくるような状況となれば、早期利上げの可能性が増す。5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げもあり得るだろう。もし利上げが後手を踏んでインフレが想定以上に進んでしまうと、大幅な利上げを迫られることになるためだ。

フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む利上げ期待は、1月にトランプ政権の財政政策期待の反動とともに低下し、フランスの政治リスクが台頭した2月8日に直近の最低をつけた。

だが、その後は、トランプ大統領が2―3週間以内に税制改革で驚くべき提案を発表すると発言したことや、イエレンFRB議長が議会証言で「緩和措置の解除を待ち過ぎるのは賢明ではない」と発言したこと、米消費者物価上昇率が高まったことなどから、再び利上げ期待が上昇した。

<中長期的な米成長期待は頭打ち>

米利上げ期待の高まりはドル高要因だが、米利上げ期待を反映する金利動向に比べ、ドル相場は明らかに弱い。例えば、1月はFF先物金利が小動きの中、ドル円やドル実効為替が下落した。欧州などの長期金利上昇により米国の長期金利が相対的に低下したうえ、トランプ大統領が「我々の通貨は強過ぎる」とドル高に懸念を表明したことがドル安を増幅させたからだ。

また、米国の期待インフレ率を示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が上昇する一方で、実質金利を示すインフレ連動国債利回りとドル相場が下落した。ドル安は米国のインフレ期待を高めることで名目金利の上昇に働く。そして、ドルは名目金利に連動して上昇するのではなく、実質金利に連動するように下落した。インフレ期待の高まりによる米金利上昇はドル高につながりにくいのだ。

日米金利差の動きに比べてドル円相場が弱いのもそのためだ。2月に米利上げ期待が高まったわりにはドルの反発が小さいのも、利上げ期待の高まりが成長期待よりもインフレ期待による面が大きいからだろう。16年12月の利上げ直後と現状のFF先物金利を比べると、17年7月頃までの利上げ期待は現状の方が高いが、17年11月以降の利上げ期待は現状の方が低い。米国でインフレ期待により早期利上げ期待が高まる一方で、中長期的な成長期待が頭打ちにある表れだ。

米国の成長期待が高まるなら、利上げ期待や金利の上昇余地は大きいが、成長期待が頭打ちなら、利上げ期待や金利の上昇余地は限られるはずだ。ドル安などによりインフレ期待が高まる余地は多少残っていても、利上げ期待と金利の上昇余地は限定的なのでドル高を招きにくいだろう。たとえ日米長期金利差が16年12月のピーク並みに拡大しても、ドル円は当時の水準には達しにくいとみられる。

<ドル高より大きい円高の進行余地>

さて、米大統領選以降、トランプ政策による米国の経済成長やインフレを期待して株価や長期金利が上昇してきた。米10年国債利回りからS&P500株式益回りを引いた値はマイナス3.0%にまで上昇し、リーマン・ショック後のピークであるマイナス2.8%に近づいている。

株価は、政策期待だけでなく米経済指標の改善によっても支えられてきた。したがって、政策期待もしくは経済指標改善が頭打ちとなると、株価も頭打ちとなりやすい。さらに、成長期待ではなくインフレ期待によって金利が上昇すると、株価は割高となって下落リスクが増す。

政策期待が心理改善を通じて経済活動を好転させ、米経済指標は市場予想比で改善してきた。だが、米国と同様に改善していたユーロ圏、日本、中国の経済指標は、いずれもすでに悪化方向に転じている。米経済指標の暗転によるリスクオフの株安・円高に注意が必要だろう。

トランプ大統領は2月末の米議会演説で法人税改革案などを明らかにするようだが、リスクオンや米金利上昇の円安・ドル高を招くのだろうか。おそらく、法人税率引き下げ案は想定内でポジティブ・サプライズを生みにくいだろう。法人税の国境調整(輸出減税・輸入増税)案が示された場合、米貿易収支改善を期待したドル高よりも、輸入コスト転嫁によるインフレを期待した米金利上昇がリスクオフの株安や円高を招きかねない。

国際課税を見直すのか否かは要注目だ。米国に企業投資を回帰させる意図で時限型の本国還流(リパトリ)減税案を示すと、ドル高を招き、保護主義的な通商政策に逆風となる。もし、租税回避を防止する(欧州での課税強化に対抗する)意図で海外留保利益へのみなし課税(本国還流しなくても課税)案を示すと、米企業利益への懸念からリスクオフの株安・円高を招くはずだ。

欧州ではフランスの政治リスクが浮上している。世論調査で極右政党「国民戦線」のルペン党首が支持率を高めているうえ、仏大統領選で左派候補が共闘模索との報道もある。もし左派候補が協力して候補を一本化すれば、4月23日の第1回投票で中道・無党派のマクロン氏と中道・右派統一候補のフィヨン氏が2位以内に入れず、極右のルペン氏と左派統一候補が5月7日の決選投票に進む可能性もある。

仏政治リスクへの懸念から、ドイツと比べてフランスの国債利回りが相対的に上昇し、オプション市場ではユーロ安に備えるリスクヘッジが拡大している。状況次第では、リスクオフを強めてユーロ安や円高に作用するだろう。

<日銀緩和縮小も円高に作用>

米国の保護主義・ドル安圧力が日銀の金融政策に影響するか否かも注目される。ただ、日銀はすでに国債保有残高の増加ペースを落とし始めている。

日銀が保有する国債残高の前年比は16年2月に110兆円程度でピークをつけ、16年12月には80兆円を下回った。17年度内に日銀の国債保有比率が50%に達する可能性があり、国債保有の増加ペースを落とすためにも長短金利操作へと金融政策の枠組みを変更したのだろう。

国債金利の上昇局面では緩やかな金利上昇を容認しながら国債買い入れの増額を抑制し、低下局面では買い入れを減額していくのではないか。中長期的には日銀が国債買い入れを減額することとなり、円高に作用するだろう。

米金利上昇などによるドル高の進行に比べ、リスクオフや日銀緩和縮小などによる円高の進行余地が大きいようにみられる。いずれ、ドル円は下落方向の動きが明確化するのではないか。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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