Reuters logo
コラム:年内ドル100円に導く3大要因=亀岡裕次氏
2017年4月20日 / 09:02 / 7ヶ月前

コラム:年内ドル100円に導く3大要因=亀岡裕次氏

[東京 20日] - 年初118円台だったドル円が108円台まで下落してきたが、要因は何だったのか。2月にかけて111円台へ下落した局面では、ドル実効為替が顕著に下落していた。トランプ減税・インフラ投資の規模に対する過剰な期待が後退したこと、トランプ米大統領が保護主義姿勢を強めてドル高に懸念を示したことが、米金利低下・ドル安に作用したからだ。

ただし、当時は米景気が回復基調を強め、米株価は上昇基調にあった。リスクオフ志向は台頭せず、クロス円の下落にみる円高進行は限定的だった。米連邦準備理事会(FRB)が追加利上げした3月中旬には、利上げ加速期待から115円台を回復した。

その後、相場の様相が変わった。まず、FRBの利上げは加速せず、追加利上げが年内2回にとどまるとの当局者見通しが、米金利低下とドル安を招いた。そして、それまでは市場予想を上回るケースの多かった米経済指標が弱まり始め、米株価までもが下落するようになった。市場にリスクオフ志向が台頭し、ドル円だけでなくクロス円までもが下落し始めたのだ。

リスクオフに追い打ちをかけたのが、トランプ政権が医療保険制度改革で難航し、減税実施が大幅に遅れるとの懸念が台頭したことだ。さらには、シリアや北朝鮮情勢などを巡る地政学リスクの高まりが加わってドル円は108円台に下落した。

<米景気減速懸念でリスクオフの円高進行か>

つまりは、米景気回復の減速、米減税実施の遅れ、地政学リスクに対する懸念が、リスクオフ志向を生んでドル円を下落させた。ただし、トランプ大統領がドル高に懸念を示すなど、ドルにとってマイナス要因が相次いでいるにもかかわらず、4月のドル安(ドル実効為替下落)は緩やかだ。

一方、円高(クロス円下落)は加速している。仏大統領選の結果を警戒したユーロ安がドル安を抑制しているほか、リスクオフが対資源・新興国通貨を中心にドル高に作用しているからだ。そして、リスクオフがドル高以上に円高に作用しているため、ドル安よりも円高が主導してドル円が下落している。

ドル円相場は、リスク許容度、米保護主義、日銀量的緩和、の3点がカギを握るだろう。米10年国債金利は2016年11月以来の低水準に低下したが、米株価の反発は鈍い。米景気減速懸念があるために、金利低下が株高につながりにくいようだ。

トランプ政権は減税法案の年内成立を目指しているが不透明であり、減税の景気浮揚効果が表れる時期はかなり先になるとみられる。そうしたなかで、資産の目減り(株安)が個人消費を抑制し、米景気減速と株安が続きやすくなるだろう。

また、足元で中国の経済指標は堅調だが、秋の共産党大会を前にした公共事業拡大が一巡すると減速しやすく、世界景気の浮揚効果は限定的だろう。北朝鮮を巡る地政学リスクもすぐには後退しにくい情勢だ。仏大統領選でマクロン氏が当選すればユーロ安リスクの後退でリスクオンに振れるだろうが、長くは続かないだろう。リスクオフが一段とドル円下落に作用するのではないか。

<米国の円安けん制で円高に動く可能性>

では、米保護主義が為替に与える影響はどうか。米国は巨大な貿易赤字の縮小に向け、2国間通商交渉で米国に有利な条件を引き出そうとしている。トランプ大統領は、90日間で相手国ごとに貿易赤字の要因を特定するように商務省と米通商代表部(USTR)に指示する大統領令を出した。トランプ大統領は「ドルが強くなりすぎている」との懸念を表明しており、相手国によっては為替水準が米貿易赤字の一因とみなす可能性がある。

ムニューシン米財務長官は、「短期的にはドルの強さが輸出に打撃となる」との大統領の見方に同意しつつ、「長期的にはドルの強さは良いこと」としている。ドル高が抑制されて貿易不均衡が是正されることで米国経済とドルが強くなることが望ましいという意図ではないか。

米国は貿易赤字要因として、為替の「操作」よりも「不均衡」を重視しているとされる。2国間通商交渉で相手国に市場開放やダンピング解消を要求するほかに、相手国通貨の安さを問題視して指摘する可能性がある。4月の米財務省・為替報告書では為替操作国の認定はなかったが、前回(16年10月)と同様、中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイスの6カ国が監視対象国に指定された。日本については、「円が高すぎるという証拠はほとんどない」「円の実質実効為替は過去20年間の平均に比べて20%安い」という文言が新たに加えられた。

実質実効為替を過去20年平均比でみると、ユーロは10%安く、ドルは10%高い。また、主要27通貨の実質実効為替について過去20年平均比をとると、高い方から、人民元1位、スイスフラン7位、ドル12位、ウォン13位、台湾ドル16位、ユーロ20位、円25位と、円の安さが際立つ。米国が適正水準よりも安いとみなす通貨の1つに円が入っている可能性は非常に高い。

人民元は中国当局が2005年以降、相場管理を弱めながら切り上げたために高いのであり、従前から完全な変動相場制にある他通貨と同列には比較できない。米国は今も人民元が対ドルで割安な水準にあり、米国企業が公正に競争できないと考えているようだ。

トランプ大統領はドル高に懸念を表しているが、貿易赤字要因を特定して2国間通商交渉に臨む段階では、相手国の通貨安や金融緩和をけん制する可能性がある。大統領は1月末に「他国は通貨安誘導に依存している。中国は行っているし、日本は何年も行ってきた」「他国は通貨供給量で有利な立場をとっている」と述べ、日銀などの量的緩和が通貨安要因との考えを示唆した。

米財務長官は4月の「ドルが強くなりすぎている」との大統領発言がドルの押し下げを狙ったもの(口先介入)ではないとする一方で、他国の為替介入が米国の利益になるのであれば為替操作とはみなさないと述べた。

米国は自ら通貨安誘導するつもりはないが、他国が通貨高誘導するのは好ましいとも受け取れる。米政権が為替に関連して日本にどのような要求をするかは不透明だが、円安や日銀緩和をけん制するような発言があると、米国からの円高圧力が意識されて円高に動くだろう。

<日銀量的緩和の縮小も円高要因に>

米国など海外長期金利の低下が日本に波及し、10年国債金利はゼロ%近くに低下した。日銀のイールドカーブ・コントロールは、長期金利の低下が進むと低下しすぎを防ぐために国債買い入れの減額につながるので、金利と量の両面から円高要因となりやすい。長期金利が低下しても円高を招く懸念から国債買い入れを減額しないと、イールドカーブ・コントロールではなくて為替コントロールの金融政策とみなされてしまうだろう。

日銀保有長期国債の年間増加額は緩やかに縮小しつつあるが、縮小が加速しやすい市場環境となってきた。米国からの圧力の有無にかかわらず、日銀の量的緩和ペースが縮小して円高に作用しそうだ。

米景気減速懸念などを背景に世界的にリスクオフ(株安・金利低下)に傾きやすく、景気を回復させる意味で米国の保護主義(円高圧力)が強まりやすいだろう。そして、米国の金利低下と保護主義は、日銀量的緩和の縮小を招きやすいだろう。リスクオフ、米保護主義、日銀緩和縮小という円高要因が重なり、年内にドル円は100円程度に到達する可能性がある。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below