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コラム:トランプ離れと米景気減速が招く円高=亀岡裕次氏
2017年5月25日 / 08:19 / 6ヶ月後

コラム:トランプ離れと米景気減速が招く円高=亀岡裕次氏

[東京 25日] - トランプ米大統領とロシアとの癒着疑惑がクローズアップされている。連日、マスメディアからロシア疑惑に関する報道が相次いでいるのは、トランプ政権を擁護する者が減り、情報をリークする者が増えているためだろうか。

来週30日以降には、大統領によって解任されたコミー前米連邦捜査局(FBI)長官が上院情報委員会で証言する予定であり、証言内容によってはドル安やリスクオフの円高に振れることもあり得る。

ただし、政権から独立した特別検察官の指揮下でFBI捜査が進むにしても、疑惑の真相が解明されて大統領弾劾の是非が結論付けられるにはかなりの時間を要するだろうし、この要因でドル安・円高が急速に進むとは考えにくい。

なお、ニクソン大統領のウォーターゲート事件では、コックス特別検察官任命の1973年6月から特別検察官解任(同10月)、下院・大統領弾劾勧告(74年7月)、大統領辞任(同8月)を経た74年9月までに米株価は40%ほど下落したが、第1次オイルショックによる原油急騰の悪影響が大きかった。

今はそうした悪影響はないので、たとえ大統領辞任に至っても株安効果は当時よりもはるかに小さいだろう。また、トランプ大統領当選後の米株高が15%ほどで、それには米景気回復効果も含まれていることを踏まえると、大統領辞任による直接的な株安効果が10%を大きく超えるとは考えにくい。

近年の株価と為替の相関からすると、短期的に10円を超えるドル円下落にはなりにくいとみられる。

<議会離反でトランプ政権再び「外弁慶」化の恐れ>

では、トランプ大統領が弾劾・辞任に至らないなら、リスクオンの円安が進むのだろうか。恐らくは、すぐに疑惑が解明されて潔白が証明されない限り、リスクオフの円高圧力がかかることになるだろう。

なぜなら、疑惑がくすぶり続けることで、トランプ政権への国民支持率はより一層低迷し、米議会に反トランプ的な動きが強まりやすい。そして、トランプ政策に対する期待が今よりも後退してリスクオフにつながりやすいからだ。

トランプ政権は、大型減税で短期的に財政赤字が膨らんでも長期的には経済成長によって財政赤字が縮小していくという考えだが、減税は財政赤字を増やさない歳入中立的であるべきという考えの共和党議員もいる。加えて、富裕層にメリットが大きい所得税減税の一方でメディケイド(低所得者向け公的医療保険)などの低所得者向け支援を削減するトランプ政権の方針に批判的な共和党議員もいる。

共和党内にトランプ政権と距離を置き、民主党支持も得やすい政策を成立させようとする勢力が増える可能性は高いだろう。その結果、減税などはトランプ政権の方針に比べて小規模となり、リスクオフの円高に働くだろう。

また、予算編成権を持つ議会がトランプ政権の予算方針を大きく修正しようとすれば、政権は大統領権限を持つ通商政策で実績を上げて国民評価を高めようとするはずだ。貿易協定交渉で相手国の市場開放や米国からの輸入品に対する関税引き下げを迫るだけではないだろう。

北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉で通貨安誘導を防ぐ「為替条項」を検討しているように、相手国の通貨安を防止・是正しようと圧力をかけるだろう。日本に対しても、日銀金融緩和を縮小して財政支出を増やすように要求するなど、円安を是正しようと圧力をかけてくる可能性は高い。

<6月米利上げでもドル円に下落リスク>

むろん、いくらこうした円高圧力があろうとも、米経済成長が力強くて米金利上昇が進むような状況であれば、ドル高・円安となり得る。現実には、その可能性はどうだろうか。

現状において、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ確率は83%と市場では予想されている。今後発表される米経済指標が非常に弱い結果となるか、大幅な株安にでも振れない限り、恐らく米連邦準備理事会(FRB)は3月に続く年内2回目の利上げを決めるだろう。だが、それでもドル円が上昇するとは限らない。

FOMCの15日前から政策発表日までの期間でみると、2015年12月の利上げ(ケースA)では、利上げ確率が63%から73%へ上昇、ドル円は122.7円から121.9円へと小幅下落。16年12月の利上げ(ケースB)では、利上げ確率が90%から95%へ上昇し、ドル円は111.0円から115.3円へ上昇。17年3月の利上げ(ケースC)では、利上げ確率が32%から95%へ急上昇し、ドル円は113.5円から114.7円へと小幅上昇した。

そして、これらABC3つのケースで順にみて、米2年国債金利はプラス0.096%、プラス0.075%、プラス0.104%、米10年国債金利はプラス0.064%、プラス0.161%、プラス0.089%、米S&P500株価はマイナス15.80ポイント、プラス68.78ポイント、プラス22.44ポイントとなった。

つまり、米利上げを100%近く織り込まないとドル円は上昇しにくい。米金利フラット化・株安の「ケースA」はドル円が頭打ちで、金利スティープ化・株高の「ケースB」はドル円が顕著に上昇したわけだ。

利上げ前の相場にこうした違いが生まれた原因の1つは、「ケースB」だけが大統領選挙後で政策期待が高まっていたことにあるが、もう1つは、米景気動向の差にある。「ケースA」は米経済指標が市場予想を下回る傾向、「ケースB」と「ケースC」は上回る傾向にあり、景況感の強弱が、金利、株価、為替の動きを左右した。

<年内3回目の利上げはない可能性も>

足元はというと、米経済指標が市場予想を下回る傾向が強まり、米10年国債金利が下落し、米株価は高値圏をキープしている。どちらかといえば、「ケースA」の動きに近い。

そして、市場が予想する6月利上げ確率が80%超と高い一方で、今後1年間の利上げ期待幅は0.4%程度にとどまり、過去3回のいずれの利上げ前よりも低い。トランプ・ロシア疑惑が影響している面もあるが、米景気減速見通しが先行きの利上げ期待を弱くしているとみられる。

2009年6月をボトムとして始まった米景気拡大は17年5月で95カ月目を迎え、過去3回の景気拡大(92カ月、120カ月、73カ月)の平均期間95カ月に並んだ。ただし、すでに今年1―2月以降、米国の新車販売台数や製造業企業景況感には悪化の動きがある。

また、住宅価格上昇により家計の住宅取得能力が低下し、住宅販売にも減少圧力がかかりつつある。失業率は4.4%まで低下して前回景気拡大時のボトムに並んだものの、それでも完全雇用には達していないためか、エネルギーと食品を除くコアインフレ率には低下の兆しも出てきた。景気減速とインフレ率鈍化が続くようなら、利上げの必要性は低下する。FRBは6月に年内2回目の利上げをした後、年内3回目の利上げは見送ることになることになるかもしれない。

6月利上げ期待は高水準のまま推移し、FOMC(6月13―14日開催)にかけてドル円を支える要因となるだろうが、それでも米長期金利とドル円の上昇は進みにくいだろう。そして、過去3回の利上げ後には、米長期金利・株価とドル円が下落した。最近のように景気減速感があるなかでの利上げは景気見通しを悪化させやすく、なおさらそうしたリスクオフの相場変動を生みやすい。

トランプ・ロシア疑惑が波乱要因とならなくても、ドル円の下落リスクは比較的大きいだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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