Reuters logo
コラム:ドル高支える「2つの期待」の賞味期限=亀岡裕次氏
2017年10月27日 / 07:24 / 1ヶ月前

コラム:ドル高支える「2つの期待」の賞味期限=亀岡裕次氏

[東京 27日] - ドル円は10月高値を更新して114円台に上昇した。世界的株高のなかでリスクオンの円安圧力があることも一因だが、米金利上昇とともにドル高が進んだことが大きな要因だ。

米2年国債金利は9月19―20日の連邦公開市場委員会(FOMC)以降、高値を更新し続けて9年ぶりの1.62%に到達し、米10年国債利回りは今年3月以来の高さとなる2.47%へと上昇した。こうした米金利上昇・ドル高の原因は、「利上げ期待」と「減税期待」の高まりにある。

そして、利上げ期待や減税期待が高まった背景には、1)米連邦準備理事会(FRB)当局者の多くが適切と考える利上げペースが市場予想を上回ること、2)ハリケーン被災からの復興需要が最近の米経済指標を押し上げていること、3)米上下両院で2018年度予算決議案が可決され、上院の過半数、つまりは共和党の賛成票だけで税制関連法案が可決できる見込みとなったことがある。

今後も米金利上昇とドル高が進み、ドル円は115円超へと上昇するのだろうか。

<長期的な金利先高観は高まらず>

米国では、イールドカーブのフラット化が進行中だ。米2年国債金利は2016年12月や2017年3月の水準に比べ現状の方が高いが、10年国債金利は現状の方が低い。米10年国債と2年国債の金利差は縮小し、近年の最小水準近辺にある。

要するに、短期的な金利先高観が高まる一方で、長期的な金利先高観は高まっていない。リスクオンの円安圧力があるにもかかわらず、ドル円が2016年12月の水準を下回っている原因も、米長期金利の伸び悩みにあると言えるだろう。短期的な金利先高観よりも長期的な金利先高観が強まるか否かが、ドル円相場にとって重要と考える。

市場が予想する12月の利上げ確率は9月上旬の40%近辺から90%近くに高まり、12月利上げは織り込み済みだ。そして、市場は今後1年間で2回(計0.50%)の利上げを織り込んでいる。

近年では2015年11―12月、2016年12月、2017年3月に、1年間の予想利上げ幅が0.60%を超えたことから、さらに利上げ期待が高まる余地はありそうだ。

だが、当時は1年後から2年後にかけての1年間の予想利上げ幅も0.5%超へ高まっていたのに対し、今回はそれが0.2%程度で低迷している。当面は利上げが行われても、先行きは利上げが続きにくいとみているわけだ。

すでに長期間続いてきた資産価格上昇と米景気拡大がさらに長期にわたり続くとは考えにくく、FRBがあと数回の利上げをする間に景気が頭打ちとなる可能性が高い、とみているからか。また、減税による景気浮揚効果は減税初期に表れた後、減衰するとみているからか。いずれにせよ、長期の利上げ期待は高まりにくい状況にあると思われる。

<減税期待が高まる余地も限定的か>

さて、ハリケーン被災からの復興需要が、自動車や建材などのほか、住宅の需要を押し上げている。雇用は、被災の影響で、飲食サービス業などを中心に一時的に減少したものの、すでに回復に転じている。現状は、被災による需要へのマイナス効果よりも復興需要によるプラス効果が勝り、米国景気には上向きの力がかかっているようだ。

復興需要が一巡するまでは景気指標は好調に推移するだろうし、10月の米企業景況感なども前月並みの高水準を維持しそうだ。当面は、好調な米景気指標が金利とドルの水準を下支えするだろう。ただ、復興需要が一巡して景気指標に陰りがみえ始める頃には、米長期金利とドルは反落するのではないか。

米国の減税法案が年内に成立する可能性も出てきたことが、長期金利とドルを押し上げた。だが、減税規模への期待が大きくなっているわけではないだろう。

米長期金利は、大統領選後の2016年12月と2017年3月に最も高くなり、3月16日の予算教書概要、4月26日の政権・税制改革案、5月23日の予算教書と、政策プランが具体化するにつれて、低下してきた。

共和党のトランプ政権が9月27日に示した税制改革案では、4月26日の税制改革案と比べ、法人税率が15%から20%に上方修正され、減税幅が圧縮された。減税内容や、財源確保のための歳出削減や税控除縮小を巡る共和党内の見解の相違が表面化すると、減税による景気回復や財政赤字拡大(国債発行増)への期待を抑える要因となるだろう。

米10年インフレ連動国債金利(実質金利)は2016年12月、2017年の3月や7月よりも低い水準にある。利上げ期待や減税期待が高まる余地は小さく、実質金利上昇は進みにくいだろう。

では、長期金利の変動要因となるインフレ期待はどうだろうか。米国のインフレ期待を左右してきた要因には、原油価格や現実のインフレ率などがある。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国の協調減産(延長期待)に加え、米国の原油生産が減少したことが、需給ひっ迫期待を生んで原油価格を押し上げてきた。

ただ、価格上昇によって採算が改善し、米国の原油生産が再び増加に転じる可能性が高まっている。近々、米国の原油生産や在庫が増え始めることにより原油価格に下落圧力がかかり、インフレ期待を抑える一因となるだろう。

以上のことから、米国の実質金利・名目金利ともに上昇余地は限定的で、米金利上昇によるドル高は続きにくいとみられる。

<「テイラーFRB議長」ならリスクオフの円高も>

次期FRB議長人事への思惑が、米長期金利とドル相場を支えている。報道によれば、次期FRB議長候補はパウエル氏(FRB理事)とテイラー氏(米スタンフォード大学教授)の2人に絞られている可能性が高い。トランプ大統領が上院議員との昼食会で、どちらを支持するか挙手を求めたところ、パウエル氏を支持する議員よりテイラー氏を支持する議員が多かったようだが、挙手せずに意見を示さなかった議員が大半だったらしい。

もしパウエル氏が選ばれれば現行の金融政策路線が維持されるとの見方、テイラー氏が選ばれれば「テイラー・ルール」を参考に利上げペースが速まるとの見方が多い。パウエル氏が選ばれた場合、FRBがタカ派に傾くリスクが低下したとみなされ、米長期金利とドルには若干の低下圧力がかかるだろうが、それが株価上昇圧力とリスクオンの円安圧力を招くことにもなるだろう。ドル円は安定的に推移しやすいのではないか。

一方、テイラー氏が次期FRB議長に選ばれた場合、米長期金利とドル相場には上昇圧力がかかるだろうが、米長期金利上昇とドル高が大幅に進むとリスクオフを誘発しやすくなる。

米長期金利から株式益回りを差し引いたイールドスプレッドは、すでに今年3月のピーク水準近くまで上昇している。景気指標の改善が進む場合は、期待成長率とともにイールドスプレッドは上昇しやすいので、長期金利上昇と株価上昇が同時に進みやすい。

だが、FRB当局者がタカ派的となる場合は、期待成長率とイールドスプレッドが変化しにくい(どちらかと言えば低下しやすい)ので、長期金利が大幅に上昇すると株価が下落しやすい。ドル高が進むと米企業収益にマイナスに作用しやすくなるので、なおさらだ。

テイラー氏が選ばれた場合、ドル円は当初、米長期金利上昇のドル高によって上昇するだろうが、リスクオフの円高が誘発されることによって反落する可能性も高まるだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below