December 21, 2017 / 7:45 AM / 9 months ago

コラム:米減税成立後にドル円が向かう水準=亀岡裕次氏

[東京 21日] - 米税制改革法案が上下両院の本会議で可決され、トランプ大統領が署名して成立する見込みとなった。トランプ政権にとり、初めての大きな政策上の成果となる。

ただ、法案成立の見込みが高まった12月15日以降、米国の株価は最高値を更新し、長期金利は(米10年国債利回りは3月以来の2.5%に)上昇した一方で、ドル円の上昇は鈍く、ドル実効為替は下落している。なぜだろうか。

理由として、市場が税制法案成立を完全には織り込み切っていなかったこと、米国の財政赤字拡大と格下げリスクへの懸念が米長期金利上昇(米国債価格下落)とドル安に働いたことが考えられる。また、今回の減税は、米国の企業利益を押し上げるとの期待から株価を押し上げた一方で、経済成長とインフレを押し上げる効果が小さいとの見方から、利上げ期待を高めて米長期金利とドルを押し上げる力が弱いのではないか。

<米減税でも個人消費の拡大は限定的か>

法人減税(連邦法人税率を現行35%から21%へ引き下げ)によって米国企業の税引き利益が押し上げられることや、設備投資減税(当初5年間は購入した一部機器のコストを即時償却でき、6年目以降は即時償却可能な割合が逓減)は、米国経済にとってはプラス材料だ。しかし、企業が設備投資や生産を増やすか否かは、米国の国内総生産(GDP)の約7割を占める個人消費が拡大するか否かにかかっているだろう。

今回の減税が個人消費に与えるプラス効果が大きいとは言い難い。個人の所得税率は、現行の10%、15%、25%、28%、33%、35%、39.6%から、10%、12%、22%、24%、32%、35%、37%へと、0―4%引き下げられる。

ただし一方で、州・地方税(所得税・不動産税)控除や住宅ローン利子控除が縮小される。また、医療保険制度改革法(オバマケア)が定める個人の保険加入義務が廃止されることで、医療費や保険料の負担が増大するケースも出てくるとみられる。所得によっては減税と増税の差があまりなく、場合によっては増税というケースさえ出てくると思われる。

パススルー事業体の税優遇措置もあるので、富裕層は減税効果により可処分所得が増えるが、消費支出に回る割合を示す消費性向(消費支出/可処分所得)が低いので、消費の押し上げ効果はさほど大きなものを期待しにくい。消費性向が比較的高い中間層の減税効果が税控除縮小などにより小さなものとなれば、米国の個人消費拡大は多くを望みにくくなってしまうだろう。

米国では、株価や住宅価格の値上がりによる資産効果と減税期待を背景に、個人消費が所得の伸びを上回って拡大してきた。消費性向はリーマン・ショック前の2007年高値93.2%(同年11月)を上回る93.6%(2017年9月)にまで上昇し、過去最高値の94.1%(2005年7月)に近づいている。保有資産の含み益増加と減税による所得増加への期待から、個人消費が前倒しで増えてきたようなものだが、ここまで消費性向が上昇すると、さらなる上昇が続きにくくなるだろう。

いざ減税により所得が増えると、むしろ消費性向が低下して、貯蓄率(貯蓄/可処分所得)が上昇する可能性も十分にある。レーガン政権下の1981年6月に減税法案が成立後、米国の消費性向が低下(貯蓄率が上昇)し、景気が悪化に向かった。今は当時のように高金利でもドル高でもないので、同じように景気が悪化しやすいわけではないが、減税開始後に意外と景気が強くならない可能性は否めない。

<減税でもインフレと利上げの期待高まらず>

米国の金融政策を担う米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーは12月、経済成長見通しを上方修正する一方で、インフレや政策金利の見通しをほぼ据え置いた。

減税などの財政刺激効果を織り込んで2018年の実質GDP成長率見通し(中央値)を前回9月時点の2.1%から2.5%へ上方修正したが、2019年以降は2.1%以下へと減速する見通しで、失業率は2018年に3.9%まで低下した後は、それを超えて低下しないとの見通しである。

つまり、減税による景気刺激は一時的で、経済成長が持続的に高まるとはみていない。だからこそ、インフレ率は2019年にかけて2.0%へと上昇した後に横ばいとの見通しを前回から変えず、利上げ予想も変更しなかったものと思われる。市場も、減税が米国の経済成長を大きく押し上げてインフレ率を上昇させるとはみていないのだろうし、米長期金利が一段と上昇してドル高が進む展開にはなりにくいだろう。

もしドル円が上昇するとすれば、リスクオンの円安か、米国への資金還流(リパトリ)のドル高が進む場合だろう。近年のドル円相場は、米長期金利と米株価変化率の2つでほぼ説明がつく。株高はリスクオンを反映する円安要因だが、株高=円安とは限らない。実際にドル円が上昇するのは、株価上昇率が加速し、リスクオンが強まった場合だ。株価が上昇傾向にあっても、株価上昇率が鈍化すると、リスクオンの弱まりでドル円が下落することもある。

法人減税により米国企業の税引利益が10%近く増加する可能性があるが、市場はその多くを株価に織り込んできたと思われる。今後さらに株価が上昇するとすれば、減税効果を除く税引前利益が伸びる場合だろうが、もし米個人消費拡大による経済成長の加速が限定的ならば、利益の伸びも加速しにくいはずだ。

2017年4月以降、米株価上昇率(S&P500種株価指数の25日前比)はマイナス2%からプラス4%程度のレンジ内を推移してきた。足元でプラス4%をやや超えている株価上昇率は加速しにくく、リスクオンの円安は進みにくいだろう。

<リパトリによるドル高効果は大きくない可能性>

リパトリ減税によるドル高効果も、大きなものは期待し難いだろう。ブッシュ政権下のリパトリ減税(通常35%課税を1年間に限り5.25%へと引き下げ)は、2005年のリパトリ増加とドル高をもたらしたが、今回のリパトリ減税はインパクト不足とみられる。

米国企業が海外に滞留させている利益を米国に還流させる際の課税は一度限り(現金・流動資産は15.5%、固定資産は8%に)減税されるが、法人税率の21%とレパトリ税率の格差は、さほど大きなものではない。また、リパトリ需要が発生するにしても、時限措置ではないので、米国企業が急いでリパトリをする必要性は低い。集中的に大きなリパトリが発生しないとなると、顕著なドル高効果は発生しにくいだろう。

こうしてみると、米税制改革法案の成立後にドル円上昇が進む可能性は高くないと思われる。近年の傾向からすると、米株価上昇率がプラス4%、米10年国債利回りが2.6%となると、ドル円は116.4円程度になりやすい。だが、今後は米長期金利上昇と株価上昇が両立しにくくなるだろうし、米景気指標の改善が続いて金利が2.6%を超えて上昇する可能性も低いだろう。

米株価上昇率がマイナス2%、米10年国債利回りが2.6%となると、ドル円は113.8円程度になりやすい。一方、米株価上昇率がマイナス2%、米10年国債利回りが2.2%となると、ドル円は109.0円程度になりやすい。2018年は次第に先行きの経済成長鈍化を読み始めて米長期金利と株価が頭打ちとなり、ドル円が110円を割り込む可能性が高いのではないか。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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