January 30, 2018 / 7:00 AM / 9 months ago

コラム:ドル円下落示唆する米経済と原油生産の変調=亀岡裕次氏

[東京 30日] - 米国の長期金利や株価の上昇が進んでいるにもかかわらず、ドル円が下落している。米10年国債利回りは2017年11月27日の2.33%から2018年1月29日の2.70%へと37ベーシスポイント(bp)上昇した。

近年の米10年国債利回りおよびS&P500株価指数変化率との相関が続いていれば、ドル円は118円近くに上昇しても不思議ではないが、実際には11月当時の111円を下回る109円前後にある。

要因の1つは、日銀が超長期国債の買い入れオペを予想外のタイミングで減額したために、量的緩和縮小や長期金利誘導水準引き上げなどの出口政策への期待が高まり、円高を招いたことにある。

過去にも、日銀がマイナス金利を導入したことで国債買い入れが困難になるのではとの見方が浮上した際には、日米長期金利差の動きから離れるように円高が進んだ。他の要因は、米国の保護主義・ドル安志向と長期金利上昇の内容にあるだろう。

<米実質金利もドル円上昇を抑制か>

米長期金利の上昇は、期待インフレ率の上昇によるところが大きい一方で、実質金利の上昇によるところが小さい。昨年11月以降、米10年国債利回りが37bp上昇したうち、期待インフレ率を示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)の上昇が25bp、実質金利を示すインフレ連動国債利回りの上昇が12bp(米5年国債利回りが45bp昇したうち、期待インフレ率の上昇が25bp、実質金利の上昇が20pb)である。

従来からドル円と米国の実質長期金利の動きには相関性が認められるが、最近は米国の名目長期金利が上昇した割に実質長期金利の上昇が小幅にとどまっていることが、ドル円の上昇を抑制していると考えられる。

今後も米国の実質長期金利がドル円相場を左右する要因の1つとなるだろう。そして、実質金利と名目金利に影響を与えるものが期待成長率だ。期待成長率が高まれば、利上げ期待やインフレ期待が高まり、実質金利も名目金利も上昇しやすくなる。

昨年後半は、米経済指標が市場予想を上回るケースが増え、米国経済の期待成長率は高まる傾向にあったとみられる。ところが、今年に入ると、その傾向が明らかに変化し、米経済指標が予想を下回るケースが増え始めている。

2017年12月の米個人消費性向(=消費支出/可処分所得)は94.02%に高まり、過去最高の94.11%(2005年7月)に迫った。個人は、株高による保有資産の含み益拡大や減税による所得増加の期待を支えに、所得の伸び以上に消費を増やしてきた。しかし、これには限界があり、所得の伸びが加速しないと消費の伸びは減速しやすくなる。2005年には消費者マインドが悪化するともに消費性向がピークアウトしたが、最近数カ月も消費者マインドが頭打ちとなりつつある。

今のところは、減税により米企業収益が増えるとの期待や米経済成長率が高まるとの期待が優勢で、米長期金利や株価は上昇しているが、経済指標の予想外の弱さがさらに続くようだと、期待成長率が弱まり始めるリスクがある。米国の実質長期金利が低下してドル円下落に働く可能性が高まっているだろう。

<商品安が米名目金利低下に働く可能性>

また、名目金利や実質金利に影響を与えるものとして、期待インフレ率も重要だ。これまでは、商品市況の上昇が期待インフレ率を押し上げ、米国の5年物BEIは1.93%、10年物BEIは2.09%へと高まっている。期待インフレ率が2%を顕著に超えると、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ懸念を強めて利上げを加速するとの期待が強まりやすく、実質金利も上昇しやすくなる。

期待インフレ率がさらに上昇するか否かは、米国の賃金上昇率やインフレ率の動きにもよるが、商品市況の動きによる面も大きい。特に、商品高をけん引してきたエネルギー価格の動向が鍵を握るだろう。もし原油価格が下落に転じると、期待インフレ率を押し下げることで名目金利が低下しやすくなるだろうし、実質金利も上昇しにくくなると思われる。

原油価格が下落に転じる可能性は高いとみている。原油生産の先行指標と言えるオイル掘削装置(リグ)稼働数は、これから本格的な増加局面を迎えようとしている。リグ稼働数は原油価格の動きに4カ月程度遅れて連動する傾向があり、このことからすると、2月以降にリグ稼働数の増加が加速しやすいのだ。米国では、1月26日までの1週間のリグ稼働数が前週比12基増と10カ月ぶりの大幅増となり、増加加速の兆しを示している。カナダでもリグ稼働数が大幅に増え始めた。

原油生産の増加ペースはリグ稼働数に3―5カ月程度遅れて連動する傾向があるので、すぐに急加速するわけではないが、2月以降は次第に加速しそうだ。米国では、製油所稼働率が前年以上に高まったこともあり、原油在庫が前年を上回るペースで減少し、原油高要因となってきた。ただ、石油製品は生産増により在庫減が鈍りつつあり、需要が加速しているとは考えにくい。今後は米原油生産の増加が加速することで、原油在庫が増え始めて原油安要因となる可能性があるだろう。

商品市況が下落すると、「商品市況とドル相場の逆相関」から「ドル高(ドル実効為替上昇)」に作用する面があるものの、米金利変化を通じて「ドル安・円高」に作用しやすいだろう。商品安が米国の期待インフレ率を押し下げ、名目金利が低下することにより、「日米金利差の縮小」が見込まれるからだ。また、商品安が市場のリスクオフ志向を誘発して円高に作用する可能性もある。ドル円の下落に働く要因として、米経済指標の弱まりや商品市況の下落に注意が必要だろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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