April 27, 2018 / 6:04 AM / 6 months ago

コラム:限界に近づく円安ドル高、5つの要因が示唆=亀岡裕次氏

亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト

 4月27日、大和証券チーフ為替アナリストの亀岡裕次氏は、米国の経済成長期待ではなくインフレ期待と国債需給悪化懸念による長期金利上昇とドル高は長続きしにくく、ドル円は下落に向かうと予想。 写真は日本円と米ドル紙幣、都内で2010年9月撮影(2018年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 27日] - ドル円は3月下旬の104円台を底に109円台まで上昇したが、その変動要因には変化がみられる。4月2週目までは、クロス円も全般的に上昇し、ドル円上昇はリスクオンの「円安」による面が大きかった。米中が互いに輸入関税を引き上げる貿易戦争への懸念がピークアウトしたことや、米朝首脳会談で北朝鮮の非核化協議が進むことへの期待などが要因になったものと思われる。

その後、クロス円の円安が鈍くなる一方で、米国の長期金利が他国に比べて上昇したことから「ドル高」が進むようになり、ドル円が一段と上昇している。

米長期金利の上昇は、4月2週目までは期待インフレ率の上昇が主導していた。米中貿易戦争懸念の緩和などが米景気見通しを改善させたなら、実質金利の上昇が主導していたはずだが、そうではないことからすると、原油などの商品市況の上昇が期待インフレ率を高めたとみられる。

ここまでは、ドル円の上昇は緩やかだった。そして、4月3週目からは、米国の期待インフレ率が高まったことで利上げ期待が高まり始め、さらには米国債発行増への懸念が高まったこともあり、実質金利が上昇するようになり、ドル円の上昇が加速した。

ドル円の上昇がさらに続くか否かは、以下の要因が左右することになるだろう。1)トランプ米政権の政策姿勢、2)米国債供給見通し、3)米経済指標、4)米株価、5)原油価格、である。

<トランプ政権の動きでドル高が収まる可能性も>

保護主義的な通商政策をとり、ドル安は短期的に貿易に有利と公言するトランプ政権にとって、米長期金利上昇によるドル高は好ましくないはずだ。トランプ大統領が最近、石油輸出国機構(OPEC)が原油価格を人為的に引き上げており容認できないと批判したのも、米長期金利上昇を通じてドル高が進むようになったことを嫌気したからではないか。

また、ホワイトハウスの議会担当補佐官が、米議会が3月に可決した1.3兆ドルの歳出法案の減額を検討すべきとの見解を示したのも、米長期金利上昇とドル高を警戒してのことかもしれない。米政権が米長期金利上昇やドル高の抑制に向けた政策姿勢を示す可能性は高まりつつあるのだろう。

米減税による財政赤字の拡大とともに米国債発行が増加していくとの懸念は、実質金利の上昇要因だ。米議会共和党には、11月の中間選挙前に所得税減税の恒久化を検討する動きもある。5月初旬に米国債の四半期定例入札の詳細が発表されると目されるが、2月と比べて発行額が増額される可能性もあるので、当面は米長期金利が上昇しやすいだろう。

ただ、減税恒久化は民主党からの支持は得られにくいだろうし、共和党の財政保守派は反対しているので、実現は容易ではない。一方、米政権には歳出削減法案を準備する動きもあり、それに議会が応じる動きを見せれば、米国債供給増への懸念が弱まる可能性もあるだろう。

米経済指標は最近、市場予想を上回るものがやや増えた。3月米小売売上高が予想を上回ったことが実質金利上昇とドル高につながった面もあるだろう。ただ、値引きによる自動車販売増による面が大きく、減税効果があったにもかかわらず他の売上は低調なので、小売売上高の強さが4月以降も続くとは考えにくい。

米製造業の景況判断では、新規受注の減速と価格の上昇が目立つ。仕入コストの上昇が進んだために産出価格の上昇が若干進んだ。需要の強さではなく原油や金属などの商品市況上昇が価格上昇の原因であるならば、価格上昇が需要鈍化につながりやすい。最近のドル高も、いずれ輸出に逆風となるだろう。欧州や日本のように米国の経済指標が再び予想を下回り、実質金利の低下に働く可能性は高い。

<米長期金利上昇でリスクオフ・株安か>

長期金利の上昇はリスクオフ圧力を生む要因である。米10年国債利回りからS&P500株式益回りを引いたイールド・スプレッドは、1月25日にマイナス2.58%まで高まった後、株安により2月8日にマイナス3.15%まで低下したが、4月26日時点でマイナス2.97%へと高まっている。その水準だけを捉えれば、1月当時ほどの株価の割高感はないようにも思える。

ただ、当時よりも米企業景況感は悪化し、米国企業の予想1株利益(EPS)の3カ月前比は3月にピークアウトして急速に鈍化している。たとえ米中貿易戦争懸念が緩和しても、市場が抱く米企業利益の期待成長率は今の方が低いだろうし、そのことを加味すると、株価の割高感は1月当時とあまり差がないとも言える。最近、米株価やクロス円の一部に下落の兆しが出てきているのは、長期金利上昇がリスクオフ圧力となりつつあることを示しているだろう。

では、インフレ期待を通じて長期金利の上昇圧力となってきた原油価格はどうか。OPEC加盟国と一部非加盟国の協調減産により原油の供給過剰が解消されたとの見方が、原油高を支えている。国際エネルギー機関(IEA)は、供給が引き続き抑制されれば需給がひっ迫するリスクを警告し始めた。

もっとも、米国では原油増産ペースが高まっており、原油在庫は増加の兆しを見せつつある。需給ひっ迫懸念が緩和する可能性も出てきた。産油国の多くは現在の原油相場に満足し、年末までの協調減産は問題ないと考えているようだが、サウジアラビアは「不合理な水準」への原油価格上昇も望まないとし、IEAやサウジは一部産油国の生産減や新規投資不足に懸念を示している。イランは原油高が続けば協調減産延長の必要はないとしており、他国でも減産延長不要論が高まるようなら、原油価格の下落要因となろう。

以上のことから、5月初旬までは、米国債供給増への懸念や原油高から米長期金利に上昇圧力がかかり、ドル高がドル円上昇圧力になりやすいものと考えられる。ただし、米長期金利上昇によって米株価は下落しやすい状況になりつつあるので、リスクオフの円高がドル円の上昇を抑える可能性がある。最近は市場予想を上回るものが散見される米経済指標に再び予想を下回るものが目立ち始めると、リスクオフの円高圧力が優勢となってドル円は下落に転じることになるだろう。

米政権が米長期金利上昇やドル高の抑制に向けた政策姿勢を示し、議会がそれに応じる姿勢を見せることで、米長期金利上昇とドル高が反転する可能性もある。また、米原油在庫が市場予想以上に増加するか、産油国に減産延長不要論が高まると、原油価格が下落して、米長期金利低下とドル安に作用することにもなるだろう。

つまり、米国の経済成長期待ではなくインフレ期待と国債需給悪化懸念による長期金利上昇とドル高は長続きしにくく、リスクオフの円高圧力もあるので、近々、ドル円は下落に向かうと予想される。

亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト(写真は筆者提供)

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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