June 28, 2018 / 6:11 AM / 21 days ago

コラム:トランプ保護主義の「武器」、関税からドル安へシフトか=亀岡裕次氏

亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト

 6月28日、大和証券・チーフ為替アナリストの亀岡裕次氏は、トランプ米政権はいずれ保護主義的スタンスの重点を関税などの通商政策からドル安志向の為替政策へと移す可能性が高いと指摘。写真はノースダコタ州ファーゴで演説するトランプ米大統領、27日撮影(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

[東京 28日] - 米中貿易戦争懸念が再燃し始めた6月15日以降、ドル円が下落している。当面の焦点は、米国が発表通りに第1弾として7月6日から340億ドル相当の中国製品818品目に対し、25%の輸入関税を適用開始するか否かだ。

トランプ米政権は中国が示した米国からの輸入拡大提案には満足していないようであり、中国の通商慣行変更に向けて圧力を強化する必要があるとしている。

もし第1弾の対中関税が発動されれば、第2弾の対中関税(160億ドル相当の中国製品284品目への25%輸入関税、7月末まで意見公募中)や、2000億ドル相当の中国製品への10%輸入関税(米通商代表部=USTRが品目を特定中)への懸念が高まることにもなるだろう。

<購買担当者景気指数が示す世界成長鈍化の兆候>

米国が関税発動するか否かは中国の対応次第だろうが、長期的な計画の下で漸進的に経済自由化や対外開放を進める中国が、まるで米国の圧力に屈したかのように早急に通商慣行の変更案を打ち出すとは考えにくい。米国が7月6日に対中輸入関税を発動する可能性は決して低くはないように思える。

また、米国は中国が将来的に技術覇権を握ることを警戒し、中国企業の米ハイテク企業への投資(買収)や中国への米ハイテク製品輸出を制限しようとしている。トランプ米大統領は、議会が法案成立に動いている対米外国投資委員会(CFIUS)の審査強化を活用して対米投資を制限する方針だ。

対米投資制限は特定国に限定したものではないが、中国を念頭に審査が強化されるようである。中国を標的とした米国の追加関税や投資制限、輸出規制強化は、技術流出を抑制できても米中や世界の経済成長にはマイナスで、リスクオフの円高や米経済悪化懸念のドル安に作用するのではないか。

米中通商摩擦に対する市場の懸念が大きくなるか否かは、今後の経済動向にもかかっているだろう。現状、世界的には経済成長が鈍化する傾向が見える。

ユーロ圏では6月にサービス部門の購買担当者景気指数(マークイット発表のPMI、以下同様)が5カ月ぶりに改善したものの、製造業PMIは6カ月連続で悪化した。米国を巡る貿易摩擦が欧州製造業の企業景況感に悪影響を与えている可能性が高い。

日本の製造業PMIも緩やかながら悪化する傾向にある。中国のPMIには5月まで目立った悪化は見られないが、中国版ベージュブック(CBB)によると、4―6月期に中国製造業の成長が鈍化したようだ。

そして、5月までは高水準にあった米国の製造業PMIが6月に大幅に悪化した。また、米地区連銀発表の製造業PMIには6月に改善した地区もあるが、明確に悪化した地区もある。欧州や日本に比べて堅調に推移してきた米国の経済成長にも鈍化の兆しが見えつつある。

今後の米製造業景況感にマイナスの影響を与える可能性がある要素が、ドル高だ。過去には、ドルの実効為替が上昇すると、それに数カ月遅れるように米経済指標が市場予想に比べて弱まる傾向があり、最近もそうした動きが認められる。少なくとも今後数カ月は、ドル高効果によって米経済指標が市場予想を下回る傾向が強まる可能性が高い。

また、すでに米国は多くの国に対し鉄鋼・アルミニウムの追加関税を発動し、多くの国がそれに対抗して報復関税を発動している。経済への悪影響が最も大きくなりやすいのは、複数の国から報復関税を受ける米国に他ならない。もし米国が中国に対して大規模な関税を発動することになれば、なおさら米経済成長は減速しやすくなるだろう。

<米保護主義的「通商政策」による円高リスク>

今年1月は、米長期金利や株価変化率がともに上昇する中、ドル円が下落した。米政権のドル安歓迎発言や保護貿易政策を受けてドル安に振れたためだ。そうした局面を除けば、ドル円は米長期金利や株価変化率と連動しやすい。

米国の保護主義的な通商政策は、米経済成長見通しを弱めることで米長期金利低下や株安を招きつつあり、日米金利差縮小とリスクオフの両面からドル円の下落圧力となりつつある。今後、米国を巡る通商摩擦が残る中で、米国や他国の景気減速が懸念から現実のものへと変わりやすいだろう。ドル高の影響もあって米経済指標が市場予想を下回る傾向となり、米長期金利と株価変化率の低下とともにドル円が下落する可能性は高い。

さて、米国が保護貿易主義をとる背景には、大規模な米貿易赤字がある。米国の財・貿易赤字は今年2月に過去最大(2008年7月の760億ドル)近くへと拡大後、3、4月と縮小したが、貿易赤字拡大に歯止めがかかったと言える状況にはない。石油関連財の実質貿易収支が改善する一方で、それを上回る速いペースで他の実質貿易収支が悪化する傾向にあるからだ。3―5月に米製造業の輸出受注指数が低下したことから、輸出が鈍化して米貿易赤字が再拡大する可能性は十分にある。

ただ、米国が他国からの輸入に追加関税を課すことで輸入を抑制しようとしても、米貿易赤字は減らないだろう。他国が米国からの輸入に報復関税を課すことで、米国の輸出も抑制されてしまうからだ。また、米国の輸入関税を回避するために企業が米国内に生産シフトするとも考えにくい。他国の報復関税を回避するために企業が米国外に生産シフトする動きもあるからだ。つまり、米国が追加的な輸入関税を課しても米貿易赤字は減らず、国内生産も増えないだろう。

輸入関税を拡大し過ぎれば、米国経済が悪化し、国内生産はむしろ減るリスクの方が高まる。トランプ政権が通商交渉を米国優位に進めようとして関税を発動しても、報復関税を受けるだけで、米貿易赤字の削減効果も米国内生産の拡大効果も乏しく、米国経済と市場を悪化させる効果しかないとなれば、政策を変更するしかないだろう。

<米保護主義的「為替政策」によるドル安リスク>

トランプ政権はいずれ、保護主義的な通商政策から為替政策へと重点をシフトするのではないか。現状、ドルの実質実効為替は過去20年平均を7%近く上回る高めの水準にあり、米国の貿易赤字縮小にはドル高是正が必要と考えている可能性がある。

しかも、2017年1月以降、対ドルで11%程度上昇してきた人民元が、2018年4―6月に6%近く下落し、中国人民銀行(中銀)が参考とする通貨バスケットに対しても明確に下落し始めている。中国の景気減速や金融緩和を背景とした資本流出に加えて、輸出と景気を支えようとする中銀の意図的な人民元安誘導も影響しているのではないか。

いずれにせよ、人民元安・ドル高が進行すると、米国にとって為替面の不満が高まることになる。米政権が他通貨安やドル高に懸念を示す口先介入を行うことによりドル安に振れるリスクが高まるだろう。

米国の保護主義的な通商政策による世界的な経済減速懸念とリスクオフの円高リスクに注意すべきだが、トランプ政権が保護主義的な為替政策をとることによるドル安リスクにも注意すべきだろう。

亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト(写真は筆者提供)

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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