July 26, 2018 / 8:12 AM / 3 months ago

コラム:根を張る円高リスク、トランプ貿易戦争が肥やしに=亀岡裕次氏

[東京 26日] - 為替を左右する要因として、米国の保護主義政策と貿易摩擦の行方が重要だろう。トランプ政権は、輸入制限のために鉄鋼・アルミニウム関税を発動し、中国の知的財産権保護や市場開放、通商慣行是正が不十分として対中制裁関税(340億ドル規模の輸入品に25%関税)を発動してきた。これに対し、中国、メキシコ、カナダ、欧州連合(EU)など多くの国・地域が報復関税に動いた。

 7月26日、大和証券・チーフ為替アナリストの亀岡裕次氏は、トランプ大統領(写真)によるドル高けん制の必要性が高まる状況ほど、リスクオフの円高が進みやすく、米利上げ抑制によるドル円下落リスクも高まると分析。写真はワシントンで7月23日撮影(2018年 ロイター/Carlos Barria)

トランプ大統領が5月の米中通商交渉において中国の輸入拡大で合意した後に、中国製品への関税賦課を発表し、6月に対象品目を発表して7月に発動したため、中国は米国に不信感を抱き、米中通商交渉は中断している。

中国は、米国が関税発動姿勢を改めない状況では通商交渉に応じない構えのようだ。米国は、8月に対中関税第2弾(160億ドル規模に25%関税)、9月以降に第3弾(2000億ドル規模に10%関税)を行う可能性がある。

一方、米国とEUは25日、「EUによる米国からの大豆や液化天然ガス(LNG)の輸入拡大」「サービス、化学製品、医薬品、医療機器の貿易障壁(関税、非関税障壁、補助金)削減」「米国によるEU製鉄鋼・アルミへの関税とEUによる報復関税の解消」に向けて取り組むこと、交渉中は自動車関税を含めて新たな関税の発動を控えることで合意した。

貿易戦争回避に向けて譲歩姿勢を示したEUと、中国などの米国産大豆輸入減が米農家に与える悪影響を緩和したい米国の意向が一致したようだ。米欧が対立姿勢を弱め、米国によるEU製自動車・同部品関税引き上げの発動リスクが低下したことは、リスクオンの円安要因だろう。

ただし、貿易障壁の削減は、米・EUの双方が取り組む事項である。保護貿易主義の米国が関税を引き下げないとEUの関税引き下げも進まないはずであり、貿易障壁削減が進むかは不透明だ。関税引き下げに取り組む対象に「自動車・同部品」が含まれていないことで、EUの自動車関税引き下げ期待は高まりにくいだろうし、米・EUの関税引き下げ期待による円安効果は限定的だろう。

また、中国の報復関税や対米輸入減少の悪影響が欧州の対米輸入拡大により緩和されるなら、米国は対中関税の発動を進めやすくなる可能性もある。米欧通商摩擦が弱まってリスクオンの円安に作用する効果よりも、米中通商摩擦が強まってリスクオフの円高に作用する効果の方が大きいのではないか。

<米経済に減速の兆し、世界景気減速を懸念した円高も>

これまでは、貿易摩擦があっても欧米や日本などの株価が下落せず、リスクオフの円高が進まずにいた。米国経済の成長率が上向き、世界経済の減速懸念が抑えられていたからだろう。

だが、米国経済に減速の兆しがないわけではない。貿易摩擦やドル高の影響で、米製造業の輸出受注指数は2月をピークに鈍化している。米ミシガン大・消費者現況指数は3月をピークに低下し、消費者期待指数も2―5月に比べ6―7月の水準が低い。

また、供給不足や関税の影響による住宅価格の上昇を背景に、米中古住宅販売戸数は4―6月に3カ月連続で減少し、6月住宅着工件数は昨年9月以来の低水準となった。5月にかけて伸びを高めた米小売売上高も6月には前月比が鈍化し、自動車、ガソリン、建材、食品サービスを除くコア小売売上高はわずかながら前月比で減少した。

つまり、関税の悪影響が輸出や住宅投資に出始めた上に、消費マインドや減税効果の衰えとともに個人消費が減速し始め、米経済指標は市場予想を下回る傾向が生まれつつある。米保護主義政策による貿易摩擦が続く中、米景気が弱まることで世界景気減速を懸念したリスクオフが強まり、クロス円もドル円も円高に傾きやすくなるだろう。

<リスクオフの円高に作用する米中「通貨摩擦」>

米国が関税により輸入を減らそうとしても、他国の報復関税により輸出も減れば、米国の貿易赤字は縮小しない。関税引き上げの範囲を広げれば、輸出と輸入の縮小が進んで経済が減速するリスクを高めるだけだ。

しかも、ドル実効為替が上昇し、米国の純輸出と経済にマイナスに作用する可能性が高まっている。いくら経済が堅調に推移してきた米国とはいえ、過度にドル高が進めば経済成長が阻害されてしまう。

そこで、トランプ大統領は、米連邦準備理事会(FRB)の利上げは喜ばしくない、強いドルは米国を不利にする、と懸念を表明した。また、FRBの利上げによりドルが強くなる一方で、中国やEUが金利を低くして通貨が安くなるように操作していると批判した。

トランプ大統領は2017年4月にも、「ドルが強くなり過ぎている」「低金利政策が好ましい」と発言したが、口先介入した際のドル実効為替の広義指数(対26通貨)は、当時と今回でほぼ同水準だ。ドル実効為替の主要通貨指数(対7通貨)は1月のボトムから7%余り上昇し、2017年7月以来の高水準だが、他の重要貿易相手国を含む広義指数は1月のボトムから8.5%上昇し、2017年3月以来の高水準となっている。

広義指数は、あと3%ほど上昇すると、2016年12月のピークに到達する。ドル実効為替の広義指数の方が主要通貨指数よりも上昇が進んでいる原因は、人民元が大幅に下落していることにある。

米国が対中関税の対象品目を発表し、ポンペオ米国務長官が中国の経済開放アピールは「ジョーク」などと批判した直後から、人民元が下げ始めたことからすると、市場主導で人民元売り・ドル買いが強まったのではなく、トランプ大統領が言うように中国当局が為替操作(人民元安誘導)を始めた可能性が高い。中国は米国の通商要求に譲歩するのではなく、関税が経済に与える悪影響を人民元安によって減殺しようとし始めたのではないか。

他通貨が対ドルで下落する状況では人民元も下落しやすいが、中国当局は為替介入で人民元安を止めようとするのではなく、むしろ他通貨以上に人民元が下落すること(通貨バスケットに対する人民元安)を容認している。米国が10月の半年次為替報告書で中国を「為替操作国」と認定するリスクも高まるだろうし、米中の通貨摩擦が通商摩擦を激化させ、リスクオフの円高に働く要因となりかねない。

<米利上げ抑制によるドル円下落リスク>

トランプ政権のドル高けん制には、市場の警戒を通じてドル高を抑制する効果(ドル安効果)があるだろうが、ドル安が進むとは限らない。

2017年4月のドル高けん制後には、ドル実効為替の下落(ドル安)が進み、その一方でドル円は上昇した。当時は、米税制改革(減税)への期待やフランス大統領選リスクの後退などから市場がリスクオンとなり、ドル安とそれを上回る円安が進んだためだ。

だが、今回はリスクオン要因に乏しく、通商摩擦や世界景気減速への懸念がリスクオフ要因となりかねない。リスクオフによるドル高とそれを上回る円高が進み、ドル実効為替の上昇(ドル高)とドル円の下落が進みやすいのではないか。

ドル高をけん制しても、リスクオフによりドル実効為替が下落せず、米貿易収支や経済成長に与えるマイナス効果が続くようだと、トランプ大統領は米利上げ、他通貨操作、ドル高へのけん制を強めるだろうし、いずれはFRBが利上げを抑制することにもなるだろう。

ドル高けん制の必要性が高まる状況ほど、リスクオフの円高が進みやすく、米利上げ抑制によるドル円下落リスクも高まるだろう。

亀岡裕次氏(写真は筆者提供)

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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