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コラム:米朝リスク緩和でも消えない円高サイン=亀岡裕次氏
2017年8月18日 / 07:16 / 3ヶ月後

コラム:米朝リスク緩和でも消えない円高サイン=亀岡裕次氏

[東京 18日] - 8月11日に108円台まで下落したドル円が、一時110円台後半へと反発した。「決定を下す前に米国の行動を注視」「危険な軍事衝突回避に向け米国は正しい選択をすべき」といった金正恩朝鮮労働党委員長による発言が報道されたことを受け、北朝鮮がグアム近海に向けてミサイル発射する可能性は低いとの見方が強まったことが一因となった。

また、7月米小売売上高が市場予想を上回る7カ月ぶりの大幅な増加となり、5月と6月分が上方改定されたこともドル円の反発を手助けした。だが、ドル円の上昇はすでに失速している。地政学リスクの後退によるリスクオン効果は限定的であり、それだけではドル円上昇は続かない。強い経済指標のリスクオン効果も続かないようだ。

<リスクオンが続かない為替相場>

ドル円相場をドルと円の動きに分解すると、以下のようになる。「円を除く主要通貨に対するドルの為替」は、7月に下落し、8月にやや反発している。7月は、米長期金利は低下したもののドイツなど主要国に比べて相対的には低下せず、世界的な株高や商品高などリスクオンの動きがドル安を招いたとみられる。

そして、8月は、7月の米雇用統計や小売売上高の強い結果を受け、米長期金利が他国に比べてやや上昇したことが、ドル高の一因となった。ただし、それだけではなく、株安や商品安などリスクオフの動きが、ドル高へと転じさせる一因となった。対円為替以外では、リスクオンでドル安、リスクオフでドル高になりやすい。

一方、「円に対するドルを除く主要通貨の為替(クロス円)」は、7月中旬から8月にかけて下落(円高)後、いったんは反発(円安)したが、再び下落している。7月は、海外の金利低下が円高を招き、リスクオン(株高)の円安効果を上回った。そして、8月上旬には、地政学リスクの高まりによる海外金利低下とリスクオフ(株安)で円高が進行。その後、地政学リスクの後退などによる海外金利上昇とリスクオン(株高)で円安に振れたが、再び金利や株価が下がり、円高に傾いている。

クロス円はリスク許容度を反映しやすく、クロス円が下落傾向に転じたことは、リスクオンが続かなくなり、リスクオフに傾きつつあることを示している。

<商品市場もリスクオフ傾向を示唆>

商品総合指数は7月に上昇した後、8月に反落している。原油や金の相場もそうした傾向を示している。

商品相場は、「ドル相場と逆相関」になりやすい面と、株価と同様に「リスク許容度と順相関」になりやすい面の2面性を併せ持つ。商品相場の動きは、7月に下落して8月に反発しているドル相場と逆相関であり、ドル相場の影響を受けているとみられる。

また、リスク許容度は7月に上昇した後、8月には頭打ちとなっていると思われる。もし、リスク許容度が上昇し続けているのであれば、ドル高でも商品相場は下落していないはずだ。商品安はドル高を反映している面と、リスクオフを反映している面の両面があるのではないか。

金相場は、他の商品と同様に「ドル相場と逆相関」になりやすい面を持つ一方で、他の商品とは異なり「リスク許容度と逆相関」になりやすい面を持つ。リスクオンの金安、リスクオフの金高である。

例えば、昨年のトランプ米大統領当選後は、市場がドル高とリスクオンとなる中、リスクオンの原油高が進行する一方で、リスクオンの金安が進行した。原油相場が資源国通貨と連動しやすいのに対し、金相場は円と連動しやすいことにもなる。リスクオンで相対的に原油高・金安となる局面では、資源国通貨高・円安となりやすく、リスクオフで相対的に原油安・金高となる局面では、資源国通貨安・円高となりやすいのだ。

最近はというと、7月は原油と金の相場がともに上昇し、相対的に原油高・金安が進み、8月は原油相場が下落する一方で金相場が上昇し、相対的に原油安・金高が進んでいる。このことから、7月はリスクオン、8月はリスクオフの傾向と言える。地政学リスクの後退によるドル円上昇は、すでに限界に達している。商品相場が示唆するように市場がリスクオフ傾向にあるならば、円高に傾きやすいだろう。

なお、7月は米国の原油在庫やガソリン在庫の減少を材料に需給ひっ迫期待から原油高が進んだが、8月に入りガソリン在庫が増加に転じている。これまでは、原油を石油製品へと精製する動きが増えて原油在庫が減少してきたが、供給過剰で石油製品在庫が増え続けるようになると、石油精製が減ることによって原油在庫が増加に転じ、それが原油安を招くことになりやすい。

そして、原油安の進行が、商品と逆相関のドル高に作用する以上にリスクオフの円高に作用し、ドル円の下落を招く可能性がある。

<4月安値の1ドル108.12円を下回る可能性>

また、米国の金利と株価の動きからも、リスク許容度は頭打ちとみられる。米10年国債利回りから米S&P500種益回り(予想1株利益/株価)を差し引いたイールド・スプレッドは3月13日マイナス2.877%、7月25日マイナス3.158%と上値が切り下がってきた。

8月11日にマイナス3.417%まで低下した後、いったんは反発も、17日にマイナス3.443%まで低下し、今年の最低値である4月18日のマイナス3.441%をわずかに下回った。イールド・スプレッドは、6月米企業景況感改善を反映して上昇し、7月米企業景況感悪化や地政学リスクの高まりを反映して低下した。地政学リスクが後退しても、イールド・スプレッドが低下しているのは、米成長期待が後退しているからだろう。

7月米小売売上高の7カ月ぶり大幅増で米長期金利が上昇したが、株価は上昇しなかった。売上増がセールなど一時的要因による面が大きく、持続性に欠けるとの見方が影響したのかもしれない。企業収益の期待成長率がさほど高まらなかったためにイールド・スプレッドの上昇が限定的となり、長期金利が上昇した分だけ株価の上昇が抑えられたようだ。

また、米国は長期間の景気拡大を経て、家計債務の大きさが成長のネックとなり始めた。米国民の「トランプ離れ」が進み、政権の政策執行能力への懸念も高まるばかりだ。米成長期待は後退しやすい状況にある。

8月以降の米企業景況感が明確に改善しないと、イールド・スプレッドの下落が続きやすいはずだ。それでも、長期金利が大きく低下すれば株価上昇余地が生まれるが、米金利低下のドル安がリスクオン(株高)の円安を上回り、ドル円は下落しやすいだろう。

8月米小売売上高が7月の反動で低迷し、米長期金利や株価を押し下げる可能性は十分にある。ましてリスクオフで実効為替がドル高となると、米企業の予想利益が鈍化し、株安を招きやすい。最近の商品、債券、株式市場動向は、リスクオン(円安要因)の限界とリスクオフ(円高要因)の兆候を示している。ドル円は、4月安値の108.12円を下回る可能性が高まっているだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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