February 22, 2018 / 7:09 AM / 10 months ago

コラム:円高再開の現実味、ドル109円越えも困難か=亀岡裕次氏

[東京 22日] - ドル円の米金利離れなど、一見すると不可解に思える現象が起きているが、リスクオフ、米保護主義政策、日銀政策期待による3つの円高(またはドル安)圧力が為替に影響している。まず、2018年初めからの為替相場を整理する。

1月は、日銀の超長期国債買い入れ減額で円高に振れたが、じきに円高圧力は後退した。ただ、クロス円が堅調に推移する一方で、ドル円は113円台から108円台に下落。ドル円下落の主因は「ドル安」で、米長期金利と株価が上昇する一方でドル安が進行した。

もし、米国の長期金利上昇と株高の主因が「成長加速(利上げ)期待」であれば、「米金利上昇のドル高」が「リスクオンのドル安」を相殺し、ドルはもっと強くなっていたはずだ。だが、米長期金利上昇の原因が「インフレ(利上げ)期待」と「財政赤字拡大(国債需給悪化)懸念」にもあったため、ドルが弱くなったのだろう。米株高は、リスクオンだけでなくドル安によってもたらされた面も大きかったとみられる。

1月30日―2月2日は、海外金利上昇を受けて円安に振れたが、円安は限定的(ドル円上昇は110円台半ばまで)に終わった。米国の期待成長率が伸び悩む中で長期金利上昇と株高が進んだため、割高感が強まった株価が急落したからだ。2月5―9日のドル円下落は、「リスクオフの円高」によるものだった。「リスクオフのドル高(円以外に対し上昇)」に転じ、ドル円よりもクロス円の下落率が全般的に大幅となった。

2月12―16日のドル円下落は、「ドル安」と「円高」が要因だ。米政権が貿易相手国への報復関税や輸入制限を検討するとしたことが、ドル安に作用した。また、米景気指標が下振れする一方で、インフレ指標の上振れを受けて利上げ期待が高まり、米金利はフラット化しながら上昇。インフレによる金利上昇が米景気に悪影響を与えるとの見方もあり、ドル安が進んだ。米株安と金利低下で株価の割高感が弱まったところにドル安が進んだため、株価は反発した。

クロス円が下落(円高)傾向だったことからすると、市場は明確なリスクオンにはなく、ドル安効果により米株価や商品市況が反発したとみられる。ドル安と円高が重なり、ドル円は16日に105円台半ばまで下落したが、その後は米金利高効果によるドル高などで一時108円近くまで上昇した。

<リスクオフの円高圧力が浮上か>

では、今後はどうなるのだろうか。米金利上昇が景気減速懸念を誘発してドル安を招いたり、保護主義政策への懸念がドル安を招いたりする一方で、ドル安効果により株価は上昇してきた。だが、最近は米金利が相対的に上昇した影響からドル高に振れ、米株高の支えが後退している。また、米景気減速や保護主義政策への懸念が強まると、リスクオフ圧力を台頭させて株安や円高の要因ともなる。

米長期金利上昇を受けて、株価はすでに頭打ちだ。米10年国債金利からS&P500株式益回りを差し引いたイールド・スプレッドは、1月26日に2008―09年のピーク水準であるマイナス2.8%を上回るマイナス2.58%まで上昇した。だが、2月5日の株価急落でマイナス2.99%に低下し、8日にはマイナス3.15%まで低下。その後、米長期金利上昇と株高で2月15日にマイナス2.77%まで上昇し、株価急落が始まった2日のマイナス2.70%に近づくと、株価が反落してマイナス2.83%に低下した。

米小売売上高が市場予想を下回るなど、景気指標に悪化の兆しも出てきたので、米経済・企業収益の期待成長率は頭打ちとなっている可能性がある。また、米株価の予想変動率を反映するボラティリティー・インデックス(VIX指数)は株価急落前よりも高く、市場心理は弱めだ。株価急落前に比べて市場の期待成長率が高まらず、リスクプレミアムが上昇しているのであれば、イールド・スプレッドの上昇は限界に近いことになる。

米長期金利との比較でみた株価の割高感は再び強まっており、長期金利上昇と株高の同時進行は続きにくいだろう。資産効果の減退が消費者マインドを弱め、景気指標が市場予想を下回るケースが増えれば、リスクオフが強まりやすい。すると、円高が進みやすくなる上、ドル高(実効為替上昇)が米株安に作用しやすくもなる。

<米保護主義はドル安と円高を招きやすい>

米保護主義政策は、ドル安だけでなく円高に作用する可能性がある。トランプ大統領は米国製品に関税を課している貿易相手国に対し、報復関税として「相互税」を課す意向を表明した。鉄鋼とアルミの輸入品に対しては、関税や数量制限を検討しているとした。

米国が関税を引き上げるとドル高に作用するという見方は疑わしい。輸入物価上昇を通じてインフレ率が押し上げられ、米金利上昇のドル高に作用するとか、輸入品が米国製品で代替され、米国内生産が増加する一方で輸入が減少し、貿易収支改善がドル高に作用するという見方は、一部の効果しか見ていない。

むしろ、米国の輸入金額が増加して貿易収支悪化がドル安に作用したり、保護主義政策がドル安志向を連想させてドル安を招いたりする効果の方が大きいだろう。さらには、輸入物価上昇が米国内需要と米国向け輸出の減退を引き起こし、世界的な景気減速懸念を誘発してリスクオフの株安・金利低下と円高を招く可能性も高い。日本が報復対象国の1つとなれば、なおさら円高になりやすいが、米国が輸入品に報復関税や数量制限をかけることとなれば、ドル安と円高を招きやすいだろう。

<日銀政策期待による円高の可能性も>

米国のインフレや財政赤字を原因とした「悪い金利上昇」や保護主義政策が、景気減速懸念を通じてリスクオフを招き、経済に悪影響を与えることで、長期金利は低下に転じることになるだろう。世界的に長期金利が低下し、日本にも波及するだろう。

日本の長期金利が低下すると、イールドカーブ・コントロールを続ける日銀は、過度の金利低下を抑えるために国債買い入れを減額する必要性が出てくる。ただ、金利フラット化による利ざや縮小で金融仲介機能が一段と低下することを防ぐために買い入れを減額する必要がある一方で、円高を招かないように買い入れ減額を避ける(もしくは買い入れを増額する)必要もある。

日銀は難しい舵取りを迫られるだろうが、もし国債買い入れを減額すれば、これまで通りの減額傾向が続くとの見方を強めるだろう。金利上昇局面で国債買い入れを減額するケースと違い、「早期の出口政策」への期待を生むことはなくても、金融政策が「出口方向」に向かっているとの期待が円高に作用しやすいだろう。

以上をまとめると、第1に、「米長期金利上昇によるリスクオフ」から「景気減速懸念によるリスクオフ」へと次第に変化しながら円高が進みやすいだろう。第2に、「米保護主義政策」がドル安を招くだけでなく、世界経済に与える悪影響への懸念から円高を招きやすいだろう。第3に、日銀が過度の長期金利低下を抑えようと国債買い入れを減額した場合、「日銀政策期待」が円高圧力となる可能性もある。

ドル円は、「米金利上昇のドル高」で上昇しても「リスクオフの円高」で押し戻され、109円を超えないうちに再び下落に向かうと予想する。「米保護主義のドル安」と「リスクオフのドル高」が相殺し、実効為替のドル安は緩和しやすい。リスクオフ環境では実効為替のドル高に傾き、ドル円よりもクロス円の下落が進みやすいだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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