September 21, 2018 / 10:18 AM / a month ago

コラム:トランプ政権の矛先、日米協議で円安に向く可能性=亀岡裕次氏

[東京 21日] - ドル円に上昇圧力がかかる中、2回目の日米通商協議(FFR)が24日に開かれる。米国は、対日貿易赤字が減らない理由として、日本の関税や非関税障壁に加え、円安もあると考えているのではないかと筆者はみている。

 9月21日、大和証券・チーフ為替アナリストの亀岡裕次氏は、貿易赤字削減を掲げるトランプ政権が日本に円安是正策を求めてくるリスクがあると指摘。写真は4月にフロリダ州で撮影(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

米国は日本に対して輸出数量の規制だけでなく、円安の是正も求めてくる可能性があるのではいだろうか。

そもそもドル高・円安が進みやすい背景の1つには、米長期金利の上昇がある。利上げが確実視される米連邦準備理事会(FOMC)を9月25―26日に控えていることに加え、米雇用統計や米供給管理協会(ISM)景況指数など指標の強さが長期金利を押し上げ、それがドル円の上昇につながっている。

トランプ政権が第3弾の対中関税を発動すると17日発表し、中国がその翌日に報復措置を表明したにもかかわらず、市場はリスクオンの株高と、クロス円では円安に振れている。

<対中関税が中国に与える悪影響は小さくない>

トランプ大統領は、もともと2000億ドルの中国製品に25%の追加関税を課すとしていただけに、今回関税率を当初は10%に抑えて来年から25%とするとしたことで、リスクオフを多少なりとも緩和する効果があったのかもしれない。

また、米国は通商を巡り中国と常に対話の用意があるとしている。中国も米国の追加関税が両国の交渉に新たな不透明感をもたらすとは述べつつも、交渉を中断するとはしていない。米中通商協議が再開される可能性は残っているため、年内に交渉が妥結して対中関税率25%への引き上げが回避されるとの期待もあるのだろう。

一方、600億ドルの米国製品に報復関税をかけるとした中国は、5%、10%、20%、25%にするとしていた関税率を当面は5%と10%にとどめた。中国の報復関税の規模は3分の1以下となり、米国の対中輸出に与える悪影響は当初想定されていたものよりも小さいとの見方が、リスクオンに働いた面もあるだろう。

ただ、これらは一時的にリスクオフを緩和する要因ではあっても、持続的にリスクオンに働く要因ではないはずだ。米国による2000億ドルの中国製品に対する追加関税は税率が10%でも、これまでの500億ドルの中国製品に対する25%の追加関税より規模が大きい。

今回の応酬が米国に与える悪影響は小さくても、中国に与える悪影響は小さくない。中国株は政府投資が拡大するとの期待もあって反発したが、債務抑制の必要がある中国政府は効果的な投資を促進するものの、成長押し上げのために投資には頼らないとしている。経済指標の減速で中国経済への楽観的な見通しが後退して、リスクオンの円安が頭打ちになるかもしれない。

<米国は円安是正策要求も>

米国が中国に対し、追加関税をテコに知的財産権の保護、企業への補助金廃止、市場開放などの制度・慣行改革を迫る裏には、米国が技術覇権を維持する目的のほかに、米中間の貿易不均衡を是正する目的もあるだろう。

ただ、米国が対中関税で輸入を抑制しても、中国が米国に報復関税を課せば中国への輸出も抑制されてしまう。同程度に抑制されるなら対中貿易赤字は減るが、人民元安・ドル高となれば輸入よりも輸出の方が大きく抑制され、赤字が減らないこともあり得る。事実、人民元はドルに対して今年3月のピークから9月にかけて9%程度下落しており、米国の対中関税は米中貿易不均衡是正につながらない可能性が十分にある。

米国の貿易赤字は拡大傾向にある。原因の1つは、米国の外需に比べて内需が強いため、輸出よりも輸入の伸びが大きくなりやすいことにある。もう1つの原因は、ドル高にあるだろう。米国の実質貿易収支とドルの実質実効為替には相関があり、ドル高が顕著に進み始めた14年後半以降、米実質貿易収支は悪化(赤字が拡大)している。

トランプ政権はこれまで、弱いドルは米国の貿易に有利、強いドルは不利と表明してきた。トランプ大統領政権が貿易赤字を減らそうとするなら、関税政策では不十分だろうし、ドル安政策を取る可能性がある。

こうした中、第2回日米通商協議が24日開催される。米国は対日貿易赤字が減らない理由として、日本の関税や非関税障壁に加え、円安もあると考えているはずだ。13年以降、円の実質実効為替が大幅に円安に振れるなか、価格変動を除く日本の実質輸出は実質輸入に比べて増加した。15年半ばに比べると実質実効為替は円高に振れたとはいえ大幅ではなく、実質貿易収支の改善傾向に明確な変化は見られていない。

日本がトランプ政権の要求に応じて、米国から農産物やエネルギー等の輸入を拡大できる余地や、年間7兆円程度の対米貿易黒字の大半を占める自動車輸出を現地生産に切り替えられる余地が大きくないとすれば、米国は自動車の輸出数量規制や円安の是正を要求してくる可能性もあるだろう。

<米が円安懸念を示すリスクの高まり>

トランプ大統領は今年7月、中国や欧州連合(EU)、その他の国々が通貨操作していると批判した。18年の実質実効為替レートは、ドル高の一方で人民元安が進み、ユーロや円についてはは小動きだ。ドルの実効為替レートは近年のピークである17年1月の水準に近づいており、トランプ政権のドル高懸念は高まっているだろう。

米財務省は18年4月の為替報告書で、円の実質実効為替レートは過去20年平均よりも25%近く円安水準にあるとしたが、現在の水準も当時と大きく変化していない。

国際決済銀行(BIS)の発表では、8月時点で円は1998―2017年の20年平均を21%下回り、ユーロが1%下回っているのに対し、ドルは8%上回る。主要27通貨のなかで、実質実効為替レートの過去20年平均比がドルを上回る通貨は、人民元、タイバーツ、フィリピンペソの3つしかなく、円を下回る通貨は、アルゼンチンペソとトルコリラの2つしかない。

為替水準からすると、米国のドル高懸念の矛先が、中国やEUだけでなく日本の通貨安にも向きやすい状況だ。トランプ政権が円安懸念を示して円高を招くリスクは、以前より高まっているだろう。

亀岡裕次氏(写真は筆者提供)

 *亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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