October 25, 2018 / 10:04 AM / 19 days ago

コラム:円安より円高か、為替相場8つのリスク=亀岡裕次氏

[東京 25日] - 為替相場を見通して当面のリスク要因を検証すると、総合的には円安リスクよりも円高リスクが大きく、円高が進行しやすいと筆者は考えている。

10月25日、大和証券・チーフ為替アナリストの亀岡裕次氏は、当面の為替相場を展望する総合的には円安リスクよりも円高リスクが大きく、円高が進行しやすいと指摘。写真はトランプ大統領のスピーチを待つ支持者。10月22日、米テキサス州ヒューストンで撮影(2018年/Leah Millis)

具体的には、円安リスクの要因として「米連邦準備理事会(FRB)のタカ化」、「米中対立の緩和」、「原油高騰」が挙げられ、円高リスクの要因としては「米景気減速」、「人民元安と米中追加関税」、「日米為替条項」、「米ねじれ議会」、「ハード・ブレグジット」が含まれる。

当面の為替相場を占う上で、円安と円高に分けて8つのリスク要因を分析したい。

<円安リスクの現実味>

●FRBのタカ化

まずは円安リスクの1つ目、FRBがタカ化する可能性を考えたい。タカ化は米長期金利の上昇を招き、ドル高に作用する。実際、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが2020年にかけて中立金利を上回る水準への利上げ見通しを示したことを織り込むかのように、米長期金利は上昇してきた。

ただ、この後でも説明するが、筆者は米国景気の先行きを楽観的にはみていない。輸入関税によるインフレリスクがあっても、それは景気減速リスクを高めることにもなるので、FOMCメンバーは米国景気が加速しない限りは、政策金利見通しを上方修正しにくいだろう。また、米長期金利上昇が株安を招いたことも、FRBのタカ化を抑える一因となりつつある。FRBがタカ化して、米長期金利上昇とドル高が進む可能性は大きくないだろう。

●米国の対中強硬姿勢は緩和するか

米中対立が緩和すれば世界的にリスクオンの地合いとなり、株高や円安に作用するはずである。だが、米中通商協議が休止する中、11月の20カ国・地域(G20)首脳会議で両国首脳が会談しても、歩み寄る可能性は低いだろう。これまで中国が米国に対して輸入拡大、市場開放、資本規制緩和、知的財産権保護で譲歩しても、米国は対中追加関税を発動し、中国の対米投資を抑制してきた。

中国の制度改革を不十分と判断しているだけでなく、中国が技術や軍事で覇権を握ることを阻む長期的な目的があるのだろう。トランプ政権は2020年の米大統領選に向け、保護主義的な対中通商政策を続ける可能性が高い。

●イラン制裁で原油は高騰するか

米国は11月、イラン産原油に対する禁輸制裁を発動する。生産量世界4位のイランからの供給減が見込まれる。それにより原油価格が高騰すれば、欧米を始めとした海外の金利上昇や日本の貿易収支悪化を通じ、円安に作用するはずだ。

だが、イランの主要輸出先である中国、トルコ、インドなどは輸入を続ける。米原油在庫も増える方向にあり、米国、サウジアラビア、ロシアなどの供給増で需要がまかなわれていることがうかがえる。

サウジアラビア人の記者殺害を巡り、同国のムハンド皇太子が関与したと米国が断定して大規模な経済制裁に踏み切る可能性は低いだろう。たとえ制裁を受けても、サウジは石油禁輸を再現する意向はないとしている。イランやサウジの供給減によって世界の原油需給がひっ迫し、価格が高騰する可能性は低そうだ。

<円高リスクにより注意>

●米景気減速のがい然性

では、円高リスクはどうか。米国の景気が減速すると、リスクオフと米長期金利低下を通じてドル円は下落しやすくなる。すでに欧州や中国の景気に減速の兆候がある上、ドル高の影響もあって米輸出は減速している。9月は対中追加関税を発動する前の駆け込み需要で輸出入が増加したとみられるが、10月以降は反動で減少しやすい。

米金利上昇の影響から住宅販売が減少し、住宅ローン申請指数は4年ぶりの低水準となった。減税効果と資産効果の縮小が影響したためか、小売売上高にも減速の兆しがある。

トランプ大統領は所得税減税の恒久化や中間層向け追加減税を打ち出したが、前者は上院共和党内で反対があり、後者は今後数週間で法案を策定しても、中間選挙で共和党が敗北すれば成立困難となる。対中追加関税や株価下落の影響から米国景気が減速し、まだ割高な株価の調整が進めば、利上げ期待後退で米長期金利が低下する可能性は低くないだろう。

●人民元安と米中関税戦争

人民元安が進めば米国の対中通商政策が強硬化し、米中追加関税による景気減速を懸念したリスクオフの円高が進みやすくなる。10月の米為替報告書は中国を為替操作国に認定することを見送ったが、中国の対米貿易黒字を助長する可能性があるとして、人民元安に懸念を示した。その上で、今後も中国の為替慣行を注視し、精査するとした。米国は中国当局が人民元買い介入をしていても、輸出支援のために人民元安を容認(あるいは誘導)していると見ているのだろう。

最近、中国当局が理財商品の株式投資を認可したり、所得税減税に動くとの期待から、中国株高と人民元高に傾いた。しかし、減税が国内総生産(GDP)比1%程度では、米国による対中追加関税の悪影響は相殺できそうにない。中国の景気減速懸念から人民元安が進み、それを当局が容認し続ければ、トランプ政権が約2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国製品に対する関税率を10%から25%に予定通り引き上げるリスクが高まるだろう。

●日米為替条項の行方

日米通商交渉で為替条項が導入されれば、米国による円安是正圧力が意識され、円高が進みやすくなる。日銀の金融緩和が円安誘導とみなされて、米国が円安是正策を要求してくるリスクもある。もちろん、日本は為替条項が導入されないように抵抗するだろうし、導入の可能性は低いと筆者はみる。ただ、円安に誘導していないことを示すため、日銀が量的緩和の縮小を一段と進め、それが多少なりとも円高に作用するリスクはあるだろう。

●米中間選挙で「ねじれ議会」の可能性

11月6日の米中間選挙は、与党・共和党が上院の過半を維持する一方、野党・民主党が下院を制する「ねじれ議会」となる可能性が高い。そうなれば、トランプ政権の政策執行力が低下し、米国が保護主義を強めることが懸念され、ドル円は下落しやすくなる。

過去の中間選挙を振り返ると、共和党、民主党どちらにもかかわらず、与党が両院で過半数を維持するとドル円は上昇する傾向がある。一方、野党が両院の過半数を奪還した場合、野党が共和党ならドル円は上昇、民主党なら下落する傾向がある。共和党の方が減税、金利上昇、海外資本流入でドル高、民主党なら保護主義的な通商政策によりドル安になりやすいとの見方があるからだろう。

今回の中間選挙で与党・共和党が両院で過半数を維持すればドル円は上昇するだろうが、下院で野党・民主党が制するねじれ議会になれば、ドル円が下落するリスクの方が大きいだろう。

●合意なきEU離脱

英国が合意なしで欧州連合(EU)を離脱する「ハード・ブレグジット」となれば、ポンド安やユーロ安が進んでリスクオフ要因となる。英国のEU離脱後、北アイルランドとの厳格な国境管理を回避するため、EUは北アイルランドがこれまでの関税規則に従い続ける「バックストップ(安全策)」を提案している。離脱後も英国がEU関税規則に拘束される期間を2020年末までよりも延長する場合も、EUはバックストップなどを条件とする可能性が高い。

もし英国がEU案を受け入れると、北アイルランドの地域政党や英保守党、離脱強硬派の反対により、英議会で離脱合意が承認されないリスクが高まる。英国は国境問題でEUに譲歩しにくい状況にあり、最終的にはEUが譲歩するかどうかがカギを握りそうだ。

「合意なき離脱」となれば、英国やEUの経済に悪影響が及ぶだろうし、そうなるリスクが小さいとは言い切れないだろう。

以上、8つのリスク要因を分析したが、トランプ大統領の批判を無視して今後もFRBが利上げを続けるかもしれないし、米中が水面下で交渉し、劇的な和解に踏み切る可能性があるかもしれない。しかし筆者は、ここに提示したシナリオがより現実的と考える。その上で、ドル円はこの先、上昇ではなく下落していくとみている。

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

亀岡裕次氏(写真は筆者提供)

 *亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

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