January 19, 2018 / 8:52 AM / 7 months ago

コラム:円安シナリオは冬眠中、ドル全面安の主犯を探す=池田雄之輔氏

[東京 19日] - 為替市場では昨年11月以降、難解な現象が起きている。米金利上昇に逆行し、ドルが全面安となっているのだ。米利上げ期待の上昇が鮮明になる中で、ドルが対円のみならず全面安の様相を示している。この現象は1月後半に入っても続いている。19日には米10年金利が、昨年3月の高値(2.63%)を突破した。それでもなお、ドル安である。

米金利上昇に逆行するドル安をもたらしているのは何か。筆者は原油価格の上昇を「主犯」とみている。

過去、米金利とドルレートの方向性が大きく食い違った時期を振り返ると、2014年後半から2015年前半にかけての局面が浮かび上がる。この時は、現在とは逆で、米金利が緩やかな下落傾向にあったにもかかわらず、ドルが全面高だった。一因としては、日銀の追加緩和と公的年金の外貨シフト加速が円安をもたらしたことも影響していた。しかし、対円だけでなく、ドルは全面高だった。

当時、特徴的だった市場の現象といえば、原油価格の急落である。2014年6月時点で約115ドル/バレルまで上昇していたWTIは、翌年1月には一時50ドルを割り込むという急落を記録した。その間、ドル実効レートはほぼ一貫して上昇している。このような逆相関はなぜ生じるのか。

<ドル実効レートの75%占める原油連動通貨>

「原油価格はドル建てで表示されるため、ドルの通貨価値と逆方向に動くのは当然」との見方はある程度正しい。しかし、原油対金(ゴールド)の相対価格をとっても、ドルレートとの逆相関は崩れない。

ドル実効レートとは何か。あらゆる通貨に対する米ドルの加重平均値である。従って、原油価格と正の相関を持つ通貨(対ドル)の合計の比重が高ければ、必然的にドル実効レートは逆に動いてしまう。

長期的傾向として原油価格と同方向に動きやすい通貨の筆頭格はカナダドル、メキシコペソなどの産油国通貨だ。英ポンドも、北海油田の存在から伝統的に「原油銘柄」と見なされる。ユーロも、インフレ環境に敏感な欧州中銀(ECB)の政策姿勢を反映し、原油価格との正の相関が極めて高い。

上記4通貨だけで、ドル実効レートの約55%を占める。さらに、中国当局が実効レートの安定を狙って管理している人民元も、ユーロおよび原油価格と同じ方向に動く傾向が強い。人民元を加えれば、ドル実効レートは、75%の「原油連動通貨」に対する価値として計算されていることになる。ドル実効レートが原油価格との逆相関を示すのは、必然的なのだ。

換言すれば、米連邦準備理事会(FRB)に対する市場の利上げ期待は高まっており、米金利は上昇しているが、それ以上に原油価格上昇がドル以外の通貨を押し上げる結果、ドルは負けてしまっている。筆者の試算では、昨年10月末から今年1月12日までの間に、米5年金利が約0.35%ポイント上昇したことは約3%のドル高要因である一方、原油価格が約10ドル/バレル上昇したことが、約4%のドル安要因になっている。ドル安圧力が優勢なのだ。

<地政学リスクへの警戒後退もドル安に作用>

米金利上昇に逆行するドル全面安の理由としては、市場の地政学リスクに対する警戒の緩和も影響している可能性がある。2018年のカレンダーを見渡すと、過去2年間に比べ、地政学イベントが明らかに小粒だ。

振り返れば、2016年は欧州連合(EU)離脱を問うた6月の英国民投票、11月の米大統領選挙、2017年は春の仏大統領選挙が極めて重要なイベントだった。しかもこの間、北朝鮮が軍事行動を頻発させていた。トランプ米政権の実態を見極めることも、2017年の重要なテーマだった。

しかし、北朝鮮は「核戦力の完成」を宣言するとともに対話路線にシフトし、トランプ政権は市場の最大の関心事だった減税法案を成立させた。2018年に残された、予定されている地政学イベントは、重大なものでは北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉くらいしか思い当らない。しかも、この通商政策に対してトランプ大統領は明らかに柔軟姿勢に転じており、交渉期限の延期がメインシナリオとなりつつある。

結果的に、地政学リスクに対する市場の警戒は和らいでおり、ドルベースの長期投資マネーが年初から積極的に世界各地に振り向けられることを助けているだろう。一方、短期プレーヤーにとっては、受難の時だ。イベント不足による為替ボラティリティーの低下は、マクロ経済の変化に敏感な彼らの動きを奪い、結果的に為替相場は金利動向と不整合な動きが放置されやすくなっているだろう。

<円高の背景にヘッジファンド勢のためらい>

ここまで、米金利上昇にもかかわらず、ドルが全面安となっている理由を2つ検討した。しかし、解明されない問題が残されている。なぜ、従来であればドル円の上昇を強く示唆する、米金利上昇、リスクオンという2つの要因がそろっているにもかかわらず、ドル円はほぼ横ばい圏内での推移にとどまっているのか。

ヒントはやはり、相関が崩れ出したタイミングにあるだろう。米利上げ期待の上昇に対し、ドル円が連動しなくなったのは昨年11月以降だ。

仮説を立てれば、こうなるかもしれない。日経平均が、1日の値幅が860円という乱高下を演じた11月9日以降、マクロヘッジファンドは米感謝祭(11月下旬)の休暇シーズンに向けて早々にポジションを縮小させてしまう。一方、原油価格の上昇にも勢いを得て、アルゴリズム系プレーヤーが存在感を高めた。その結果、為替市場はドルインデックスを機械的に売るような取引に影響されやすく、ドルが「リスク通貨」「リスク回避通貨」の区別なく、あらゆる通貨に対して一律に下落しやすくなっている可能性がある。

つまり、本来、株高局面であれば円ショートに傾斜するはずのヘッジファンド勢が、市場への影響力を失ってしまっている状況である。

ヘッジファンド勢による円ショート戦略の欠如は今年1月以降、さらに「日銀タカ派化」への警戒感で決定的になっただろう。日銀が9日に国債買い入れオペの金額を小幅に減額すると、海外投資家は「明らかなテーパリング(緩和縮小)だ」「日銀は金融政策を正常化したがっている」と、単純な解釈に飛びついた。その後も、日銀タカ派化への警戒は根強く残っているとみられ、ヘッジファンド勢が円ショートをためらう理由になっている公算が大きい。

<米金利上昇に逆行するドル安は一時的現象>

最後に、以上の分析に基づき、今後の為替相場を展望してみる。最重要ポイントである、原油価格上昇と米金利上昇のバランスはどうか。

原油価格は、世界景気の強さを反映しつつも、北半球の厳冬の影響が和らげば、春先には落ち着く可能性がある。逆に、米金利の観点からは、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で今年2度目の利上げが打ち出されることへの織り込みが不十分で、4―5月には金利がさらに上がりやすそうだ。この時期にドルが反転上昇に向かうシナリオは描きやすい。

加えて、日銀が「政策方針に変更なし」との姿勢を明らかにすることも円安の助けになるだろう。まずは1月23日の黒田東彦・日銀総裁会見が重要だ。

米金利上昇に逆行するドル安は、1)原油価格上昇、2)地政学リスクへの警戒緩和、3)マクロヘッジファンドの存在感低下、4)「日銀タカ派化」への警戒、という要因が重なったことによる一時的な現象とみられる。春先には、ドル高・円安シナリオが冬眠から目覚めるチャンスがまだ生きているだろう。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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