March 5, 2018 / 7:48 AM / 9 months ago

コラム:一線越えたトランプ関税、米トリプル安も視野か=池田雄之輔氏

[東京 5日] - トランプ米大統領は、ついに一線を越えたかもしれない。3月1日、「鉄鋼に25%、アルミニウムに10%」との輸入関税措置を宣言したのだ。この「トランプ関税」を巡る国際政治が金融市場を大きく揺るがすことは必至である。

現時点ではどちらに転ぶか判定は難しいが、2つのシナリオが想定できる。うち1つはグローバル市場にとって極めて厳しい展開になる恐れがある。

<コーン補佐官辞任なら反グローバル化のサイン>

まず、楽観的な見方としては、トランプ大統領の強硬姿勢が変わるとの筋書きがある。今回の突然の発表は、3月13日のペンシルベニア州下院補欠選挙を意識した「演出」である可能性が指摘されている。また、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を有利に進めるための戦術という側面もあり得る。

そうであれば、他国の出方をうかがいながら、米政権がトーンダウンしていくことは想定可能だろう。あるいは、ツイッターでは強気の発言を続けているものの、欧州連合(EU)の本格的な対抗措置および株価急落に驚き、トランプ大統領が態度を軟化させることもあるかもしれない。

しかし、悲観的な見方も成り立つ。根本的な問題として、トランプ政権の通商政策が現実路線から過度の保護主義に回帰しているリスクである。単純に、「今秋に控える中間選挙への対策にシフトしている」との説明も可能だが、気掛かりなのは、ホワイトハウス内の「良識派」に近かったクシュナー大統領上級顧問の影響力が、ロシアに絡む捜査で、大きく低下しているとみられることだ。

その結果、保護主義政策に強く反対してきたコーン大統領補佐官(経済担当)の発言力が低下する一方、過激路線を主導したバノン氏(首席戦略官を辞任)に近かったロス商務長官が台頭し、同じくナバロ貿易担当アドバイザーまで復権しているとの指摘がある。仮にコーン補佐官が辞任という事態になれば、経済政策がいよいよ「反グローバル」に向かうサインと見なせよう。

<あらゆる米国資産への投資リスクが高まる恐れ>

この悲観シナリオの場合、為替相場をどうみるべきか。筆者は、「米政権の通貨安政策」といった言説には懐疑的である。為替介入ないし米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和がない以上、政策的にドル安を追求していることにはならない。

しかも、トランプ大統領は、得意のツイッターでさえ、大統領就任後は口先でドルを押し下げようとしたことが一度もない(唯一の口先介入は新聞インタビューだ)。しかし問題は、「米国の保護主義政策=ドル安志向」であると市場が忖度(そんたく)してしまうことであり、その点でのドル安リスクを否定することは難しくなっている。

より重大なのは、ドルが信認を失う危険だろう。世界の投資家にとって、各国の金融・財政政策への評価が分かれることはあっても、「自由貿易は世界経済に良いこと」というのは、数少ない共通認識である。この認識が脅かされれば、ただでさえ不安定化し始めたグローバル株式市場にとって明らかなマイナスだ。

これは米国では株安・債券安・ドル安という「トリプル安」のリスクにも直結する。もとより財政赤字の拡大、FRBによる売却という米国債需給の悪化が予想されている中で、関税率引き上げによる悪いインフレへの警戒と、ドルへの不信任が重なれば、世界の投資家はあらゆる米国資産への投資リスクが高まったと見直さざるを得なくなる。

<米トリプル安転落「見極め」のポイント>

現局面は楽観シナリオに踏みとどまるか、米トリプル安のシナリオに転落するかの瀬戸際とさえ言えるかもしれない。見極めのポイントは、1)近日中とされる大統領の「トランプ関税」への調印までに、どれだけ例外規定や期間の縮小が盛り込まれるか、2)巨大経済圏であるEUがどのような報復措置を打ち出すか、3)より中期的な政策の方向性を占う上では、コーン経済担当補佐官が勢力を保てるか、といったところである。

これらの展開次第で、ドル円のレンジは105―115円のレンジに復帰することも、95―105円に沈み込むことも、どちらも想定し得る状況になっている。

筆者は、米国の利上げ積み上げに対する市場の期待が高まるとともに、為替市場ではドル高・円安が展開すると予想してきた。昨年11月以降、米金利上昇に逆行してドルが軟化し始めた理由としては、1)原油価格上昇によるドル安効果(資源国通貨やユーロの押し上げ)、2)米財政リスクの高まり、欧州政治リスクの低下に伴うグローバル中銀マネーの脱米国債の動き、3)CTA(商品取引アドバイザー)などトレンド追随のアルゴリズム系プレーヤーによる金利と為替の逆相関の強化、4)日銀がタカ派化しているとの市場の誤解、という複合的な作用を究明した。

このうち、2番目と4番目の要因は居座るとしても、1番目と3番目の要因が一巡すれば、FRBの利上げ強化とともにドル高シナリオは復活する可能性が高いと想定してきた。

しかし、トランプ政権が仕掛けた「貿易戦争」が現実のものとなった場合、中銀マネーはおろか、グローバルな投資マネーが米国市場から逃避を開始し、金利急騰、株安、ドル安および円全面高が展開する危険が高まる。

関税を巡る国際政治の行方次第で、為替シナリオを大きく見直す必要が出てくると認識している。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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