April 13, 2018 / 9:24 AM / 7 days ago

コラム:日米首脳会談後に円高リスク後退か、5月109円視野=池田雄之輔氏

池田雄之輔 野村証券 チーフ為替ストラテジスト

 4月13日、野村証券チーフ為替ストラテジストの池田雄之輔氏は、日米首脳会談を乗り越えれば5月中にも109円台へのドル回復が見えてくる可能性があると指摘。写真は2017年11月6日、首脳会談後に共同記者会見を行うトランプ米大統領と安倍首相。都内で撮影(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)

[東京 13日] - 「米中貿易戦争」で大荒れとなった金融市場だが、ようやく落ち着きを取り戻しそうだ。3月初旬からのリスクオフに影響した4つの要因のうち3つが反転しそうなのである。

4月下旬からはリスクオンとドル円の上昇が展望しやすい。ただし、17―18日の日米首脳会談には円高リスクがあり、要注意だ。

<「貿易戦争」以外の要因も株安に同時作用>

3月の米株式市場は2段階でショックに見舞われた。「鉄鋼・アルミニウム関税」(1日にトランプ米大統領がSNS上で表明、23日に発動)および「対中関税措置」(22日発表)という、いずれもトランプ政権による保護主義的な貿易政策である。市場コメントは「貿易戦争」一色となった。

しかし、米国株の動向に目を凝らすと、違う側面が見えてくる。必ずしも貿易に直結しない金融やハイテクセクターが大きく売り込まれ、かつS&P500指数が200日移動平均などテクニカル指標に忠実に動いている点だ。

とりわけ「米中貿易戦争」がスポットライトを浴びた舞台裏では、次の3つの要因も同時に株安に作用していた可能性が高い。

第1に、追加利上げを決めた3月20―21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)から4月中旬の米企業決算シーズンまでは、強気材料が不足するため、もとよりポジション調整が働きやすい期間に入っていたと推察される。

第2に、グローバル景気は年初から力強さを欠き、一時的に足踏みの様子が強まった。

第3に、ハイテク企業では事故や不祥事が相次ぎ、将来の業績への不安感が高まった。

このうち、ハイテク産業の将来像については中長期的な再評価が必要になる可能性がある。しかし、季節性の問題はすでに到来した決算シーズンによって解消し、グローバル景気に関しても米国の減税効果が5月以降は現れやすくなると予想される。

最大の関心事だった米中貿易戦争(4つ目のリスクオフ要因)は、トランプ大統領の一存次第という面もあって読みにくいが、ボアオ・アジアフォーラムで市場開放路線を明らかにした中国・習近平国家首席スピーチ(10日)をトランプ大統領が「歓迎する。ともに大いに発展しよう」と率直に評価した。ようやく米中が交渉のテーブルにつく状況が整ったと言える。

米国側が1000億ドルの追加リストを公表し、中国側が対抗措置を打ち上げるリスクは残るが、市場は「場外での威嚇合戦にすぎない」と冷静に見守る公算が大きい。

なお、トランプ大統領が環太平洋連携協定(TPP)復帰の検討を指示したとの報道をもって「通商政策が現実路線に戻りつつある」とまでは楽観的に評価できない。中国が嫌がるカードをちらつかせ、今後の2国間交渉を優位に進めたいとの打算と見た方が自然だろう。

<最大リスクは円安けん制よりFTA交渉要請>

以上、金融市場不安定化の原因の多くが解消しつつある状況を見てきた。さて、目先には米政権に関わる3つのリスクイベントが控えている。これらをどう評価するか。

まず、米軍のシリア攻撃の可能性。これは2017年4月のケースと同様、巡航ミサイルによる限定攻撃になるとの見方が有力である。政権発足初期だった当時に比べ、トランプ政権の全体像はすでに明らかであるため、攻撃実施の際の市場の動揺はより小さいだろう。

次に、トランプ政権によるモラー特別検察官解任の可能性がある。同じような解任劇は、ニクソン大統領がウォーターゲート事件の渦中で繰り出しており、かえって自身の立場を悪化させた事例が連想されるだろう。

当時と異なり、議会は与党共和党が掌握しているため、「暴挙」に出るコストは小さく、その分、踏み切りやすいとの説がある。実際に「解任」となれば、市場はリスクオフに見舞われる可能性が高い。しかし、「トランプ大統領が高官を更迭」というニュースには市場も慣れているとみられ、影響は短期的にとどまる公算が大きい。

最大のリスクは、やはり17―18日の日米首脳会談である。日本は為替介入を行っておらず、かつ円安が進行しているわけでもないので、「通貨安政策へのけん制」が出てくる可能性は低いだろう。要注意なのは、日米自由貿易協定(FTA)交渉の要請である。

トランプ政権が打ち出した鉄鋼・アルミ関税は、通商交渉を進めている3カ国(カナダ・メキシコ・韓国)、米国が貿易黒字を稼いでいる相手国(豪州・ブラジル・アルゼンチン)、および知的財産権問題で対中共同戦線を張る欧州連合(EU)が適用除外となった。

日本が適用除外となっていない背景には、米政権内で通商政策を取り仕切っているライトハイザー通商代表部(USTR)代表が、日本とのFTA締結を望んでおり、鉄鋼関税をその際の交渉材料にしたい意向があると推察される。日本側はFTA交渉を拒否する可能性が高くとも、「交渉を要請された」となれば、「円安政策は取りにくくなる」との市場の曲解、それによる円高を招くリスクがあろう。

チェックポイントは、世耕弘成経済産業相が安倍晋三首相に帯同するか否かである。「否」であれば、ライトハイザー代表が登場する可能性は低下、首脳会談の主題は北朝鮮問題に絞られ、円高リスクは後退すると判定できる。

なお、茂木敏充経済再生担当相がTPPを説明するため、渡米メンバーに加わるとの情報があるが、これ自体はFTA交渉のリスクを高めるものではない。

世界景気不安、決算前のポジション調整圧力、そして「貿易戦争」といった市場の不安定要因が次々に反転しつつある。日米首脳会談が残された不安材料だが、それを乗り越えれば5月中にも109円台へのドル回復が見えていよう。

池田雄之輔 野村証券 チーフ為替ストラテジスト(写真は筆者提供)

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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