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コラム:ドル115円回復の4条件、3つまでクリア=池田雄之輔氏

[東京 21日] - 市場がこれほど素直に反応したのは久しぶりではなかったか。9月20日、「タカ派的」と解釈された米連邦公開市場委員会(FOMC)発表に対し、米金利は大きく上昇、ドル円も2カ月ぶりに112円台を回復した。

本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。写真は著者提供。

9月8日の107円台から、2週間足らずで約5円のドル高・円安である。市場は、2つのリスク要因の後退を前向きに評価した後、米追加利上げの織り込みに向けて一気に動き出した。

2つのリスク要因とは、米ハリケーン被害と北朝鮮の挑発的軍事行動である。前者については、「ハービー」に続いて米本土を襲った「イルマ」が当初想定された「マイアミ直撃」という最悪の事態を回避したことにより、被害規模の見積もりが縮小したと推察される。

一方、北朝鮮は9月3日に核実験を実施、さらに15日には日本上空を通過する中距離弾道ミサイルを発射した。しかし、核実験実施に至った以上、市場はもはや北朝鮮に関して「これ以上の悪材料にはならない」と受け止めている可能性が高い。

15日のドル円は条件反射的に70銭程度円高に振れる局面があったが、その後はほとんど影響なく、円安に転じている。ハリケーン、北朝鮮という相場のかく乱要因が過ぎ去ったことで、市場は反転の力を得るとともに、マクロファンダメンタルズに焦点を移していよう。

<FRBの利上げシナリオに狂いなし>

筆者は1ドル=115円へのドル高・円安再開をメインシナリオと想定しつつ、4つの必須条件を掲げている。

すなわち、1)ハリケーンの影響が米景気見通しを大きく悪化させない、2)米インフレ指標が市場予想を下回らない、3)FOMCは従来の利上げ想定を維持する、4)10月の米連邦準備理事会(FRB)によるバランスシート縮小開始に対して米国株が崩れない、の4点である。

第1の条件は、米国保険セクターの株価が急回復していることを見れば問題なしと判定できよう。

第2の条件については、9月14日に発表された8月の消費者物価指数(CPI)が「軽々とクリア」したと言える。すなわち、コアCPI前月比0.2%上昇と市場予想に「一致」しただけでなく、前月比を正確に計算すれば0.248%上昇であり、あとわずかで0.3%上昇だった。年率換算では3.0%上昇とインフレの速度回復が明確である。

最近のインフレ率が、特に前年比で低迷している現象については、「一時的」「構造的」と評価が分かれていたが、前者に軍配が上がったようにみえる。

インフレの持ち直しが確認できた時点で、第3の条件が満たされる確率も上がっていたはずだ。9月20日のFOMC発表では、最大の注目点だったドットチャート(FOMCメンバーの政策金利想定の分布)は、2019年および長期水準は0.25%低下したものの、17年と18年が動かなかった。「今年あと1回+来年3回」との利上げ想定が維持されたことは予想通りの結果である。

最大のサプライズは、「FOMCの中心意見」が動かなかっただけでなく、各メンバーの利上げ想定がほとんどハト派化していないことだった。2017年末までの追加利上げは、見送りが4票、実施が12票との分布がまったく変化しなかった。つまり、6月時点で年内追加利上げを支持していたメンバーは、誰一人「断念」に転向していないと推測できる。

3月から7月にかけてインフレ指標が予想外の弱さを示し、最近では大型ハリケーンが経済に一定の打撃を与えたとみられるものの、圧倒的多数のFOMCメンバーは「利上げシナリオに狂いなし」と判断しているのだ。

ハリケーンの影響については、わざわざ声明文で「過去の経験では、中期的に国内経済の方向を著しく変える可能性は低いとみられる」としたうえで、緩やかな利上げの継続が適切との判断を示した。2018年末にかけての利上げ想定も、ここからの累計で2回以下を支持しているメンバーは前回の2人から3人へと、わずか1人しかハト派化していない。

利上げに懐疑的な市場の見方は、ようやく上方修正を迫られ始めただろう。2年連続で12月の利上げが実施されていることも、「年末までに利上げあり」との想定に信ぴょう性を与えていると見込まれる。

<バランスシート縮小でも米株は堅調維持へ>

ドル高再開の4条件のうち、残された最後の関門、第4の条件はどうか。FRBのバランスシート縮小策が20日の会合で発表されたこと自体は、その内容も含め、織り込み済みである。

重要なのは、実際にFRBがバランスシート縮小に着手する10月に、米国株が崩れないことだろう。このタイミングでのリスクオフを想定するがゆえに、追加利上げは難しいとの見方が根強いからだ。

しかし現状、1)ドルは9月上旬まで、ほぼ一貫して下落してきた、2)中国景気の堅調を背景にグローバル経済は7―9月期に加速傾向にある、との2つのマクロ環境を踏まえれば、米国企業の業績はむしろ上方修正含みと予想される。株価は崩れにくいだろう。

米国株が10月の決算発表とFRBのバランスシート縮小を乗り切れば、米利上げ継続への期待はさらに高まり、1ドル=115円の大台回復が視野に入ると展望できよう。つまり、「ドル高・円安再開の4条件」はすべて満たされる公算が大きくなっている。

このシナリオは、米金利とドル円の関係からも説明できる。先物市場における追加利上げ回数(1回あたり0.25%と想定)の織り込みは9月20日時点で、2017年末までが0.62回、18年末までが累計で1.74回となっている。

12月のFOMCでの利上げ実施がメインシナリオとなる段階で、2017年末/18年末の織り込みは0.75回/2.00回まで上昇する可能性がある。つまり、18年末までで今次局面で6度目の利上げが織り込まれることになり、その際のドル円の「適正値」を過去の相関に基づいて計算すると115円である。

<来年3月までには120円も視野>

国内政治はどうか。各種報道によれば、安倍晋三首相は9月28日の臨時国会冒頭での衆院解散、10月22日総選挙とのスケジュールを固めているという。現状、前回ほどの大勝ではないにしても自民党の議席はあまり減らないとの見方がコンセンサスだろう。

もともと政権基盤が大きく揺らいではいなかっただけに、相場インプリケーションは限定的である。とはいえ、最長で2021年までの政権運営の可能性を含め、安倍政権の持続が見通しやすくなるのであれば、多少なりとも円安要因だろう。黒田東彦日銀総裁が4月で任期切れとなるその後の金融政策についても、積極緩和路線の維持が想定しやすくなるからである。

しかし何よりも重要なのは、この先、FOMCメンバーの利上げ想定(今年1回+来年3回)が市場の利上げ期待の上方修正を促し続けること、そして、10月の米国株が崩れないこと、である。前者はクリアされそうであるから、残るは米株にかかってくる。この条件さえ満たされれば、日本の政局の力を借りずとも、1ドル=115円に到達できるだろう。

さらにその先、12月のFOMCで追加利上げが実現し、2018年3月の利上げをフルに織り込む段階では、1ドル=120円へと一層のドル高・円安が進むと予想している。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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