February 16, 2018 / 7:42 AM / 7 months ago

コラム:セオリー無視のドル安円高、日銀人事も無力か=池田雄之輔氏

[東京 16日] - ドル円はついに105円台に突入した。為替市場ではドル全面安が継続。しかし、同じ「リスク回避通貨」とされるスイスフランや金(ゴールド)と比べても、円高傾向が突出している。

そもそも、「株高なら円安地合い」という従来のセオリーがまったく機能しなくなっており、投機筋、特にトレンド追随のアルゴリズム系プレーヤーがドル円を標的に「下攻め」を加速させていると疑われる。

彼らにとってファンダメンタルズは重要でなく、「昨年9月の安値(107.32円)を割り込んだ」という純粋にチャート的な観点から下値余地を試しにきているとみられる。こうなってしまうと、強力な口先介入など、明確な円安材料が提供されない限り、相場は止まらない恐れがある。

<「若田部副総裁」で際立つ黒田総裁のタカ派ぶり>

日銀総裁・副総裁人事では円高に歯止めをかけられないのか。黒田東彦総裁続投はすでに織り込み済みだったとしても、若田部昌澄早稲田大学教授の副総裁就任が実現すれば、「日銀のハト派姿勢が強化される」との評価はあろう。今回の指名で、安倍晋三首相が日銀の緩和路線を支持していることも明らかになった。

しかし、いかに積極緩和派が副総裁に就任しようと、為替インパクトは限られよう。理由は2つある。第1に、金融政策委員会における黒田総裁の影響力は極めて大きく、副総裁人事によって路線が修正されるとは考えにくい。

第2に、緩和論者が日銀内に増えると、黒田総裁がかえって市場からは「タカ派的」と見なされてしまうジレンマが生じるのだ。総裁が、「追加緩和は不要」と防戦に回るからだ。

実際、タカ派的な木内登英・佐藤健裕両審議委員がいたころの黒田総裁は「出口論は時期尚早」と歯切れが良かった。現在は、片岡剛士委員が追加緩和を主張する中、黒田総裁は「リバーサルレート」など行き過ぎた緩和の弊害を説明する機会が増え、「タカ派化した」と誤解される原因になっている。

つまり、黒田総裁が現状維持を正当化しようとする際、内部にタカ派的な意見があればハト派の理論が必要だった一方、ハト派が増えたことにより、タカ派の理論で追加緩和論を否定しなければならなくなるのだ。

今後も、新副総裁を含め、ハト派メンバーが追加緩和を主張すればするほど、黒田総裁の「タカ派ぶり」が目立ってしまい、円安材料どころか円高材料を提供してしまう恐れがある。

<主要中銀の「脱米ドル、脱米国債」が影響か>

改めて、このドル全面安の謎を解明してみたい。「米金利上昇ならドル高」「株高なら円安」というセオリーが、なぜ効かなくなったのか。筆者はもともと「原油高によるドル安圧力」に注目してきたが、投資家別の動きに注目した場合、もう1つの仮説が成り立つ。「グローバルな中央銀行勢によるドル保有高の縮小、他通貨への分散」である。

彼らは外貨準備として、主要通貨を国債のかたちで保有しており、ドル売りは米国債の売却に直結する。つまり、「ドル安、米金利上昇」の原因となる。

では、何がきっかけで「脱米ドル、脱米国債」の動きを加速させたのか。「米金利上昇にもかかわらずドル安」という新現象が発生したのは、昨年11月である。米議会で減税法案が成立する可能性が高まっていた時期に一致するのは偶然ではあるまい。財政リスクの観点から、「米国債は割高」との評価が下されたことは十分あり得る。

一方、欧州については政治リスクの後退とともに、ユーロおよび欧州債(特に周縁国国債)の保有高を引き上げる方向性とも一致した可能性がある。中銀勢がドル保有高の縮小を最優先し、他通貨に満遍なく分散させたとすれば、ユーロ買いに加え、円買いにもつながっただろう。

このように、グローバルな中央銀行による米国債売却、ドル売りの動きが昨年11月から強まったとすると、季節的には年末年始でマクロヘッジファンド勢がおとなしかったことも重なり、米金利上昇、ドル安のインパクトを大きくしてしまった可能性がある。

ひとたび、従来の「米金利上昇でドル高」の相関が崩れると、新しいトレンド(米金利上昇でドル安)は、それに追随するアルゴリズム系プレーヤーによってさらに強化されることになる。このようにして「セオリー無視」のドル安が、現在まで引き継がれている状況なのではないか。

<「ドルショート・円ロングに傾き始めた」との声も>

では、このような一方的なドル安はいつまで続くのか。アルゴ勢にはファンダメンタルズが通用しないだけに読みは難しいと言わざるを得ない。105円が大底になる保証はない。

しかし、米10年金利が3.0%に達し、安定すれば、中銀勢をはじめグローバルな長期運用機関にとっては米国債の割安感が徐々に強まると見込まれる。この観点からは、米金利上昇、ドル安の同時進行はそろそろ終着点に近づきつつあると言えるかもしれない。

なお、シカゴ先物市場における「投機的ドルロング・円ショート」のデータは、米金利上昇とともに金利稼ぎを狙う、いわば「ドル貯金」のような根雪部分が積み上がっている。「大規模な円ショート解消で円高圧力になる」との目安にはならない。

より有用なのは為替トレーダーの肌感覚を聞いて回ることであり、投機ポジションは「110円」あるいは「108円」を割り込んでから、「ドルショート・円ロングに傾いている」との声が多い。投機だけで動かせるドル円の値幅は通常5円程度であり、そうであれば105円から103円で一段落するとみるのが妥当だろう。

投機勢が利食いに動けば、あっけなく元の水準に戻る可能性もある。「長期ドル安トレンド」と断じるのは危険である。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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