October 30, 2019 / 8:48 AM / in 20 days

コラム:動くFRB、逃げ切る日銀=熊野英生氏

[東京 30日] - 円高になれば、躊躇(ちゅうちょ)せずに利下げする。円高リスクが遠のいている間は、現状維持。これが日銀の行動原理である。

 10月30日、円高になれば、躊躇(ちゅうちょ)せずに利下げする。円高リスクが遠のいている間は、現状維持。これが日銀の行動原理である。熊野英生氏が分析する。写真はワシントンのFRB。2018年8月撮影(2019年 ロイター/Chris Wattie)

その判断の鍵を握っているのは、FRB(米連邦準備理事会)の政策がドル/円レートJPY=EBSに及ぼす影響であるため、日銀の政策自体がFRBのさじ加減によって決まると言ってもよい。

ECB(欧州中央銀行)を見るとよい。退任するドラギ総裁は、9月にマイナス金利を深掘りした。それでも、もうそれ以上の追加的な利下げは難しいと思われている。日銀が9月に利下げしていたとしても、ECBと同じだとみられていただろう。

では、なぜ円高が進みにくいのか。様々な要因はあるだろうが、FRBの政策金利が2020年には据え置かれるとみられているからだ。7月と9月の利下げ、そして確実視されている10月の利下げは予防的なもので、先々の米経済を安定成長させる。

先手を打って利下げしたことが、かえって2020年の金利据え置きの予想を強くする。米長期金利は、9月から反転してきた。8月までの米長期金利の低下が円高予想を強める場面では、日銀は利下げする可能性が十分にあった。

<米経済と大統領の不安をどうみるか>

米経済はいまだ薄氷を踏むように不安定と言う人もいる。9月の小売売上高は、前月比の伸びが鈍かった。製造業の悪化も下げ止まらないと見る声もある。

しかし、FRBの利下げ効果はタイムラグを伴って効いてくるものだ。11月中旬から始まるクリスマス商戦の行方の方が気になる。ダウ平均株価.DJIが堅調であることは、個人消費を今後も支えていく要因になるだろう。

また、米中協議も「一発逆転」で決裂するリスクが否定できないという不確実性を重視する人もいるだろう。2019年の4、5月の協議は、すでに合意文書が出来上がったところから事態が暗転した。そのトラウマが、すべては不確実だと考えさせる。

この思考法は、2019年秋というタイミングがトランプ大統領にとって重要だという点を見落している。2020年秋に大統領選挙を控えて、トランプ大統領は何としても協議の成果が欲しい。クリスマス商戦の手前であるという認識があって、トランプ大統領本人が協議をまとめたがっている。

「トランプ大統領は何をするかわからない」と不安視するよりも、あの大統領だからこそ、今回は成果を欲しがっていると見る方が正しいと思う。

<日銀にとっての正念場>

円高という条件以外に、日銀が利下げする可能性はあるという見方は、成り立つだろうか。例えば、消費増税の反動減に対応するケースである。政府の経済対策と歩調を合わせて、利下げという可能性はどうか。安倍晋三首相が、黒田東彦総裁に暗にそのメッセージを送ると、日銀は動くだろう。

今のところ、黒田総裁は増税の影響を軽微と見ており、金融政策による対応は全く考えていない。11、12月になると、月次の経済指標の発表を見て「それなりに増税の影響は大きかった」と民間エコノミストが口々に弱気シナリオを唱えるだろう。本来は2020年前半まで評価を下すことはできないが、元々弱気派の人は過剰反応するに違いない。黒田総裁はその風向きに流されずに耐えられるかどうかが問われる。

2020年に入ると、今度は東京五輪の経済効果の方が話題となり、増税の後遺症はいったん、人々の関心事から遠のくだろう。経済対策の関心もキャッシュレス還元のような時限的対応の次をどうするかに移っていくと予想する。反動減対応の後処置という議論になっていくと、そこに日銀の利下げを加えるのは筋が違うという話になる。

このように考えると、黒田総裁は2020年初めまで約3カ月間が厳しい正念場となる。そこまでは「躊躇なく追加緩和する」という臨戦体制を敷いて、利下げを辞さない姿勢をアピールする。

<日銀は逃げ切れるか>

多くの人は、この局面で日銀は追加緩和をせずに逃げ切れないだろうとみている。筆者も、日銀が完全に逃げ切れると言う自信はない。予想として、逃げ切るつもりだと考えている立場だ。

日銀は、イールドカーブ・コントロールを採用してから、長期金利が低下するときは短期金利をより引き下げなくては逆イールド化するリスクを負ってしまった。海外経済が悪化して、米欧長期金利が下がると、マイナス金利を深掘りする対応を迫られる。短期金利を下げると、金融機関の収益に打撃を与える矛盾が生じた。これが今のように金縛りに陥る理由である。

では、この矛盾から脱出するにはどうすべきか。海外経済が良くなり、米欧長期金利が上がることである。2020年になって海外経済が好転すると、黒田総裁は「輸出環境が改善して、景気後退リスクが遠のいた」と景気認識を改めることで、「躊躇なく追加緩和する」モードをオフにすることができる。

これは出口戦略ではなく、政策スタンスをニュートラルに戻すアナウンスである。外部環境が変われば、「躊躇なく緩和」と発言したことは、うそを言ったことにはならずに済む。従来の強力な緩和を止めることでもないので、方針変更のハードルは低い。

ポイントは、やはりFRBの政策姿勢である。今は2020年に政策金利を据え置き、2021年になって利下げをゆっくり始める方針である。これが、2019年12月あるいは2020年3月のタイミングで上方修正されると、日銀にとって少しずつ外部環境が変わってきたことになる。つまり、日銀が「躊躇なく追加緩和」のモードを切り替えるのは、FRBの政策スタンスの変化を待つことになるのだろう。 

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

熊野英生氏(写真は筆者提供)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:田巻一彦

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