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コラム:FRBに吹く「トランプ逆風」長期化へ=井上哲也氏
2016年11月23日 / 03:32 / 1年後

コラム:FRBに吹く「トランプ逆風」長期化へ=井上哲也氏

[東京 23日] - 共和党ドナルド・トランプ次期政権が連邦準備理事会(FRB)の政策に及ぼす影響に関しては、銀行株の動向や17日の議会証言での質疑が示唆するように、金融危機後の規制や監督の強化が反転するかどうかという点に、まずは光が当たっているようだ。

しかし、FRBの本分である金融政策に影響を与え得る材料も、実は決して少なくない。この点に関して金融市場の一部には、超低金利政策の継続に批判的だった選挙戦中のトランプ氏の言動をよりどころとして、次期米政権はFRBの目指す緩やかな利上げをサポートするとの理解があるようだ。

確かに筆者も、大統領選の結果が12月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げに支障となるとは思わない。だが、それは経済が堅調に推移しており、FRBはそうしたファンダメンタルな理由だけで利上げを正当化できるからだ(もちろん、そこにはトランプ氏勝利後に金融システムが不安定化しなかったことも含まれる)。

問題はその先である。トランプ氏の支持基盤だった白人中間層が、典型的には産業構造の転換にうまく順応できず、雇用や賃金の面で依然として疎外感を味わっているのであれば、新政権にとって、FRBが金融政策の「正常化」を進めることをいつまで心地よく思うかには不透明な面がある。

一方で、新政権が公約通りに積極的な財政支出に取り組めば、需給ギャップの面でも、また金融政策が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」の懸念を抑制し長期金利を安定させる面でも、FRBにはなおさらに利上げのインセンティブが生じることになる。

FRBが政策判断の上で重視するコア個人消費支出(PCE)価格指数(除く食品・エネルギー)は、すでに前年比で1%台半ばにある。中央銀行としての警戒感は、日本やユーロ圏とは比較にならないほど高いはずだ。

<FRB改革の可能性は>

とはいえ、FRBをめぐる政治情勢はかなり厳しい。新政権との間で緊張が高まっても利上げを進めるべきであるとすれば、なおさらだ。

まず、今回の選挙で共和党が両院の多数を占めたことで、新政権ないし共和党は現在欠員である2人のFRB理事について、「好ましい」人材を据えることは困難ではなくなった。

さらに、トランプ氏も選挙戦での発言を撤回してイエレンFRB議長に即座に退任を迫ることは思いとどまったようだが、いずれにせよ2018年2月の議長としての任期満了時には、「好ましい」人材を新たに任命できる。

民主党政権での閣僚ポストを嘱望されたFRB理事が今回の選挙結果を受けてモチベーションを失って退任し、その後任が「好ましい」人材に置き換えられる可能性をも含めれば、新政権ないし共和党は人事を通じて近年にない影響力を行使し得る立場にある。

話はこれで終わりではない。かねてより共和党が、金融危機後により強い権限を付与されたFRBに対するガバナンスの強化を主張してきたことは周知の事実だ。

新政権の下でも優先順位には疑問も残るため、実際に「FRB改革」に向けた法案が成立する可能性は必ずしも大きくないのかもしれないが、金融政策の決定に対する直接的な監査や、裁量の抑制に向けた「ルールベース」の政策運営の義務付けといった提案は、議会で議論を行うだけでも、新政権と共和党にとってFRBに対する影響力の梃子(てこ)として活用し得ることは否定できない。

そう考えると、新政権の任期中、どこかの段階では、景気の相応の過熱と低金利政策が並存するリスクも否定はできない。そこに、金融規制や監督の効果が時間的なラグを伴って効果を発揮するようであれば、ますます注意すべき事象が増えてくる。

<FRBの最後の味方は誰か>

このように苦しい立場に置かれる可能性のあるFRBにとって、最後に頼ることができるのは実は金融市場である。

金融市場は、新政権ないし共和党によるFRB議長や理事の人選に対しても、「FRB改革」に向けた法案の審議に対しても、さらにはFRBの政策運営への意向に対しても、金利や株価を通じてメッセージを送ることができる。

「ウォール街」のメッセージは白人中間層には確かに耳障りかもしれないが、最終的に実体経済に影響を与え得る以上、新政権も共和党も無視し続けることは難しいはずだ。

上に見たようなリスクの顕在化は誰のためにもならないことを踏まえて、金融市場にはこれから強い関心をもって事態の推移をウオッチしていくことが求められる。併せて、長い目で見て苦しい立場に陥るリスクのあるFRBには、金融市場を適切に味方につけるべく、12月FOMCの段階から早速、コミュニケーション政策に意を用いることが重要となっている。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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