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コラム:目立ってきたFRBに「不都合な事実」、リスク膨張の足音=藤戸則弘氏

[東京 6日] - 米国株式が連日のように史上最高値を更新している。通常の相場では「好材料が出て上昇する」のが一般的だが、現在の米国株は「特段の好材料がなくても最高値更新」が常態化している。

 7月6日、米国株式が連日のように史上最高値を更新している。米ウオール街で2020年10月撮影(2021年 ロイター/Mike Segar)

その最大の背景は、景気回復・企業業績の上振れが顕著になっているにもかかわらず、米連邦準備理事会(FRB)が超緩和策の長期化を志向しているためとみられる。投資家にとっては願ってもない状況で、膨張した余剰マネーが米株式市場に奔流となって押し寄せている。

ⅤIX指数(ボラティリティ・インデックス)が急上昇した場合には、投資家が不安心理に圧倒され、市場が動揺していることを表す。昨春のコロナ・ショックに際しては、ⅤIX(引けベース)が3月16日には82.6%まで急上昇していた。しかし、その後は、超緩和策、財政出動による景気対策が奏功して低下傾向を続け、今年7月2日時点では15.1%と昨春以来の最低を記録している。この状況は、投資家が楽観的になり、リスク意識が希薄になった可能性を示唆している。

<やさしいFRB>

こうした状況は、「FRBの超緩和策長期化」を前提に形成されている。6月米連邦公開市場委員会(FOMC)では、成長率と物価見通しが上方修正され、FOMCメンバーのドット・プロット(政策金利予測)も、事前予想以上の「タカ派的」要素を含んでいた。この6月FOMCを挟んで、ダウ工業株30種平均は5営業日連続で下落し、下げ幅も1189ドルに達した。

しかし、議会証言に臨んだパウエルFRB議長は、マーケットが動揺したこともあってか「物価上昇の一過性」、「超緩和策の継続」を再度強調し、株式市場は再び自信を取り戻すに至った。

<中古車上昇のからくり>

だが、「物価上昇一過性」論には、「不都合な事実」が顕在化し始めている。まず、半導体不足による新車・中古車価格の上昇が顕著だ。人気の新車の納期は半年から1年を超えるケースが出ており、必然的に消費者ニーズは中古車に向かうことになる。

米労働統計局発表の中古車価格(前年比・季節調整前)は、4月プラス21.0%、5月プラス29.7%の急騰だ。ところが、最大のネックになっている半導体不足は、短期で終息するのは困難なようだ。米国をはじめ、先進各国の半導体企業は企画・設計に特化し、実際の製造は台湾TSMC等の東アジア・ファウンドリーメーカーに委託する構造を維持してきた。

各国は、国内での半導体製造を奨励する等の政策を打ち出しているが、一朝一夕で改善できるものではない。インテルのCEOは「半導体需給がノーマル化するのは2023年」と述べており、中古車価格は高止まりとなる可能性が高い。

<整う原油価格上昇の条件>

第2に、原油価格が上昇を続けていることだ。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非OPEC産油国で構成されるOPECプラスは、8─12月にかけて1)減産幅を毎月日量40万バレル圧縮する、2)減産の最終期限を従来の2022年4月から2022年12月まで延長する方向で「原則合意」したと報じられてきた。

事前予想が、同50─55万バレル減産圧縮だっただけに、減産期間の延長も加味すると、原油価格の上昇要因となる。しかし、土壇場に来てアラブ首長国連邦(UAE)が強硬に反対し、合意自体が流れる事態となった。これが原油価格の上昇に拍車を掛けている。

イランの大統領選挙で、保守強硬派のイブラヒム・ライシ司法府代表が勝利したことも懸念要因だ。イランと欧米の核合意が成立すれば、イラン産原油の輸出が解禁され、原油需給緩和が想定されていた。ところが、核合意が遠のくだけではなく、中東の地政学的リスクが高まる恐れさえある。

一方、米国の原油在庫は、昨年6月のピーク5億4072万バレルから今年6月25日の4億5234万バレルまで、急速な減少カーブを描いている。やはり、米国経済がシャープな回復をたどり、原油需要が急増していることが大きい。ところが、米原油生産は回復が鈍い上に、バイデン政権がエコシフト政策を推進しており、パイプライン建設や油田・ガス田開発には強い規制措置を発動していることも価格上昇圧力となる。

原油高を受けて、米ガソリン先物価格は7月2日に1ガロン=230.7セントと2014年以来の高値まで上昇している。典型的な車社会である米国で、このガソリン価格の値上がりは、家計や企業のエネルギーコスト上昇に与えるインパクトが大きい。原油高は石油化学製品や、広汎な製品価格、運賃の上昇につながるリスクがあるが、6月のISM製造業景況指数の仕入れ価格指数は、なんと92.1となり第2次石油危機の1979年以来、約42年ぶりの高水準に達している。

<急騰する船舶運賃>

第3には、船舶の海上運賃の高騰が続いている点だ。香港─ロサンゼルス間のコンテナ船価格(40フィートボックス)は6月30日に7383ドルと史上最高値を更新し、昨年3月安値1325ドルからは5倍以上の高騰だ。また、鉄鉱石、農産物等のバラ積み船の運賃指数であるバルチック海運指数も、昨年5月安値393から今年6月29日高値3418まで、8倍以上に上昇している。

この背景として、1)世界経済が回復傾向を鮮明にし、年後半には貿易量・船舶需要の増大が想定されている。2)コロナ・ショックによる需要急減に対し、荷役作業員のリストラ、港湾処理能力の削減、コンテナ生産減少といった縮小均衡が進み、サプライチェーンが劣化した──などが大きく影響している。輸送コストの上昇が物価高に波及する公算が大きい。

<見覚えのある住宅バブル>

第4に、住宅価格の高騰がある。S&Pケースシラー住宅価格指数(全米ベース)は、前年同月比プラス14.95%と1988年の統計開始以来、最高を記録した。住宅・クレジットバブル時の2005年9月のプラス14.51%さえブレークしたことになる。

サマーズ元財務長官は「米住宅価格の急騰は恐ろしいことだ。住宅価格上昇がインフレを誘発し、他の価格を押し上げる可能性が高い」と指摘している。実需だけではなく、投資・投機目的の資金流入が大きく、バブル的色彩が次第に濃くなっている。

リーマン・ショックを予見した「ブラックスワン」の著者、ナシーム・ニコラス・タレブ氏も「米住宅価格は、約25─45%下落するリスクがある」との御託宣だ。この状況下で、FRBが毎月400億ドルの住宅ローン担保証券(MBS)の購入を続ける論理的妥当性は低減していると考えられよう。

FRB内には、セントルイス連銀のブラード総裁をはじめ「物価高の長期化」、「テーパリング(量的緩和策の段階的縮小)、利上げの前倒し」を主張する地区連銀総裁も少なくない。

しかし、パウエル議長以下の執行部は、春と景気・物価動向が全く変わっているにもかかわらず「物価高は一過性」、「超緩和策の長期化」というロジックを墨守している。これが投資家のリスク意識を低下させる誘因になっている可能性がある。

平成バブル、ITバブル、住宅・クレジットバブルを相場の渦中で実体験した身としては、この「必要以上に超緩和策を長期化させた」弊害を強く意識せざるを得ない。1989年夏以降の東京市場でも「特段の好材料がなくても株価は最高値更新」の日々が続いた。なにやら、当時抱いた違和感と同様な奇妙な恐れが、次第に高まっているように思える。

FRB執行部の物価認識の変化が遅れ、現状の後追い的な金融政策が発動された場合に、株式市場の大幅波乱につながることが想定されよう。もちろん、さらなる「過剰流動性相場」が続き、大胆なリスクテイクが好パフォーマンスをたたき出す可能性も否定しない。しかし、リターンと同様にリスクも高まっていることを認識しておくべきだろう。「薄い氷の上の舞踏」は、氷が割れた時に初めてリスクを意識するようになる。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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