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コラム:岸田政権と市場反応、衆院選後に株価再浮上か=藤戸則弘氏

[東京 6日] - 注目された自民党総裁選で岸田文雄候補が勝利し、新総裁・首相に就任した。岸田首相の政策理念について、総裁選中の言動などを材料に評価してみたい。

 10月6日、 注目された自民党総裁選で岸田文雄候補(写真)が勝利し、新総裁・首相に就任した。岸田首相の政策理念について、総裁選中の言動などを材料に評価してみたい。都内で4日に行われた記者会見で撮影(2021年 ロイター)

<財政・金融はアベノミクス踏襲へ>

第1に財政政策である。岸田首相は「財政健全論者」という看板が長く流布されて来た。確かに平時であれば、それを前面に出すことも可能だが、現在はコロナ・ショックの克服、景気回復が最大の命題になっている。欧米の政府も財政による景気刺激策の重要性を訴えている状況であり、「財政健全論」が封印されるのは当然と思われる。

岸田首相は「財政再建の旗は降ろさない」としながらも、「プライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化目標は、必要ならば先延ばしも検討する」と述べている。また、「年内には数十兆円規模の景気対策を策定する」とも表明しており、あくまでも有事の対応を行う見込みだ。

消費税については「10年程度は上げることを考えない」と述べており、当面は安倍晋三政権以来の積極財政主義を踏襲すると思われる。

第2は金融政策だが、岸田首相は「大規模な金融緩和策によるデフレ脱却を最優先とする」と主張している。また、日銀が掲げる「2%の物価安定目標」に対しては「物価2%は世界標準で変えるつもりはない。変えるとおかしなメッセージになる」と、日銀の現行政策に賛同する意向を表明している。

ようやくコロナ感染拡大にピークアウト感が台頭しているが、停滞感が続く日本経済にとって、日銀の超緩和策継続の是認は極めて妥当な対応と思われる。結局、最も重要な財政・金融政策については、「アベノミクス」の根幹である積極財政政策と日銀の超緩和策の融合を踏襲する見込みである。

<気になる金融所得課税>

第3は成長戦略である。岸田首相は「令和版・所得倍増計画」を前面に掲げ、「成長と分配」の好循環を目指すとしている。「所得倍増計画」のオリジナルは、1961年に当時の池田勇人首相の下で策定された。ケインズ主義的な大規模インフラ投資と、産業構造の転換・高度化が中心になっていたが、当時の日本経済は第2次大戦の敗北から立ち直り、ようやく「テイクオフ」期を迎えていた。この「所得倍増計画」がバックボーンになって、日本に高度成長時代を招来した。

しかし、現状の日本は、人口減少・高齢化、潜在成長率の低下、財政の疲弊に苦もんする状況で、高度成長時代とのギャップは極めて大きい。岸田首相の成長戦略の骨子を見ても総裁選前の段階では抽象的な概念にとどまっており、今後、どのような具体策が示されるのかが注目される。

結局、「成長と分配」の後者、即ち分配政策に力点を置くと思われる。分配に関しては、子育て世代の住居費・教育費支援、介護士・保育士等の待遇改善、賃上げ実施企業への税制優遇等が挙げられている。

しかし、中低所得者層の控除の拡大や減税策にまで踏み切れるのか、その財源はどうするのかなど課題は多い。一方、富裕層に対しては「金融所得課税」の強化を打ち出しているのも、市場にとっては気になる点だ。

<コロナ対応で独自色>

第4はコロナ防疫体制の強化である。岸田首相は、従来の縦割り行政の弊害が大きかったことから、「健康危機管理庁(仮称)」を創設し、権限を集中させて一元管理を行うことを提案している。

具体的には、1)医療難民ゼロ、2)ステイホーム可能な経済対策、3)電子的ワクチン接種証明の活用と、検査の無料化・拡充、4)感染有事対応の抜本的強化──が四本柱になっているが、コロナ防疫体制の強化では独自色を出せそうである。

第5のエネルギー政策で、岸田首相は「再生可能エネルギーの一本足打法ではない。原発再稼働を含む『クリーン・エネルギー政策』の策定を行う」と述べている。

また、「原発の新増設」には慎重姿勢だが、「既存原発の再稼働は進める」とも表明している。これは、経済産業経産省の「エネルギー基本計画」をベースにした構成で、極めて現実的なアプローチと思われる。産業界全般は、岸田案を好感しているようだ。

第6は外交政策だ。岸田首相が会長を務める宏池会は伝統的にハト派で、岸田首相も「自由で開かれたインド太平洋構想を推進する」との理念を掲げている。ただし、中国空軍機が台湾の防空識別圏を大挙侵犯している状況では、ハト派理念を表出するのは難しい。岸田首相は「台湾海峡・香港の民主主義・ウイグル人権問題には毅然と対処する」と述べているが、「日米同盟の強化」、先端半導体の安定供給確保等の「経済安全保障の強化」も主張している。全般的には「安倍・菅義偉政権」の外交戦略を踏襲する可能性が高いと想定される。

<足元で海外勢は株売り先行>

概観すると、岸田首相の政策理念は「安倍・菅政権」を踏襲する内容が多く、その点では安定的な政策運営を期待できよう。また、理念先行型ではなく、現実に即したアプローチを採っている点も安心感につながり、バランスのとれた政権となる可能性が高いように思える。

産業界が好感しているのも、こうした安定感を評価しているようだ。その一方で、構造改革、規制緩和への期待、政治の新しい方向性といった観点からは、斬新さとインパクトに欠ける点は否定できない。 

マーケットの岸田政権への反応は、必ずしも好意的ではない。9月29日の自民党総裁選では、第1回投票で河野太郎候補が伸び悩み、決選投票で敗退の可能性が高まった午後2時過ぎには、日経平均が一時854円安を記録した。8月末から9月中旬までの日本株は、「河野総裁」誕生による政治刷新を期待していた面が強かっただけに、やや失望的な雰囲気が漂ったようだ。

注目されるのは、外国人投資家の反応である。東証発表の投資主体者別売買動向を見ると、8月第4週から9月第3週の4週間で、外国人投資家は現物株式と株式先物の合計で、実に2兆2893億円の大幅買い越しとなった。

日本株をショートないしはアンダーウェイトにしていた外国人投資家が、劇的な政治の展開に狼狽(ろうばい)して大量の買い戻し、あるいは新規買いを行ったのが、この急騰相場を演出したと思われる。

しかし、9月第4週には、恒大集団の債務問題がクローズアップされたこともあって、既に外国人は現物株式2692億円、株式先物119億円と売り越しに転じたている。それ以降も、日本株の下落傾向が続いていることを考えると、外国人投資家は、構造改革、規制緩和等の改革姿勢を重視する傾向が強いだけに、再び売りスタンスに転換している可能性も否定できない。

<直近の世論調査、与党有利の結果に>

しかし、今回の日本株の反落は、国内要因以上に海外要因が大きいように思える。米長期金利の急ピッチでの上昇傾向、深刻化する米債務上限問題、中国では恒大集団の債務問題に加えて、電力危機が伝えられており、7─9月期の景気は下振れリスクに直撃されたようだ。

9月前半の日本株急反騰局面では、こうした世界の悪材料に全くまったく反応しない独自の展開となっていた。リスク軽視の急騰劇と言える。ようやく興奮が冷めて悪材料を織り込み始めたのは、市場のノーマル化の動きが機能した結果ものと思われる。こうした海外環境の急速な悪化が、岸田首相の評価にも、微妙なプレッシャーを加えたことが、日本株の下落につながったものと解釈できよう。

今後を展望すると、最大の国内政治イベントである衆院選を前には、メディア各社の9月世論調査では、野党各党の支持率がさらに低下している状況にある。海外情勢に一服感が出て、衆院選を無事に終えることができれば、岸田政権への懸念よりも、期待感が再び上回る展開を十分に想定できよう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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