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コラム:米市場の悲観論後退、日本株にも余剰マネーの恩恵波及へ=藤戸則弘氏

[東京 10日] - 今秋の世界的な株価調整局面では、「スタグフレーション」が懸念されていた。インフレの高進と景気減速の同時進行という最悪シナリオで、株式、債券ともに下落傾向を強めた。真正の「スタグフレーション」は、1973年と1979年の2回のオイルショック以降に到来し、米国では「悲惨指数」(失業率と消費者物価指数・前年比の合計)が前者では20%近く、後者では20%を超える展開に苦しんだ。

今秋の世界的な株価調整局面では、「スタグフレーション」が懸念されていた。インフレの高進と景気減速の同時進行という最悪シナリオで、株式、債券ともに下落傾向を強めた。藤戸則弘氏のコラム。写真は2013年5月、東京証券取引所で撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)

<米市場に広がったスタグフレーション懸念>

この「スタグフレーション」説が今年の秋に市場で広がったという事実は、いかに悲観バイアスが強かったかの証明でもある。確かに7─9月期の米実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率プラス2.0%と、4─6月期の同6.7%から鈍化した。

特に新型コロナウイルス「デルタ株」のまん延がサービス業を抑圧し、個人消費が前期の12.0%から1.6%へと急激に鈍化したことが大きかった。

一方で、米消費者物価は、需要の回復に対してサプライチェーンの混乱が尾を引き、総合が5月から前年比プラス5%台に達して9月も同5.4%の高水準である。こうした現象面のみを見ると、「スタグフレーション」説が流行したことも、分からないわけではない。

<好転したマクロ・ミクロ指標>

しかし、その後に発表された米経済統計が、徐々に投資家の悲観心理を緩和させることになった。マイナスへの落ち込みが想定された9月小売売上高は、前月比プラス0.7%と8月の同0.9%に続く伸びを見せた。9月は小売売上高構成の13セクター中11セクターが増加を示す良好な内容で、このあたりが米個人消費の懐の深さと言えるだろう。

また、下落傾向が続いた消費者マインドも、10月コンファレンスボードの消費者信頼感指数が113.8と上昇に転じ、下落予想を否定する形になった。注目すべきは、全米小売業協会(NRF)の11─12月期の年末商戦予測で、前年同期比プラス8.5─10.5%の高い伸びが予想されていることだ。個人消費復調の可能性は高まっており、夏から秋にかけて調整色を強めた大手ディスカンターの株価が、シャープな切り返しを見せているのは、その象徴と言えるだろう。

住宅も堅調さを持続しており、10月NAHB住宅市場指数は昨年11月ピークからやや鈍化したものの、80と過去の不動産ブーム期を上回る高水準である。8月のS&Pコアロジック・ケースシラー住宅価格指数(前年比・全米ベース)もプラス19.8%と過去最高の上昇率で、強い需要を示唆している。

雇用も改善傾向を続けており、10月米雇用統計は非農業部門雇用者数が53.1万人増となった一方で、失業率は4.6%に低下し、平均時給も前年比プラス4.9%、週平均労働時間も34.7時間の高水準だった。しかも、10月のISM景況感指数は、製造業が60.8、非製造業に至っては66.7と統計開始以来の最高をマークしている。

こうしたマクロ統計に加えて、ミクロの企業業績面でも良好な決算発表が続いている。S&P500種構成企業の7─9月期決算は、リフィニティブによるとEPS(1株当たり利益)が事前予測を上回った企業が8割以上に達し、史上最高決算企業が続出している。どう見ても、「スタグフレーション」とは隔絶した状況で、秋の悲観バイアスが否定されたと言えるだろう。

<余剰マネー、株式市場に還流>

米経済が7─9月期に鈍化したのは事実だが、それにしても「スタグフレーション」という極端な悲観シナリオが台頭した背景には何があるのだろうか。

1つは、物価高の継続を過去約30年間経験したことがなかったためだろう。9月米コア消費者物価は前年比プラス4.0%だが、これは1991年以来の水準である。多くの投資家は、ディスインフレ、デフレ環境は十分経験してきたが、インフレとなると文献や伝聞で知る「太古の昔」の状況で、未知なる恐怖が不安心理を高めたと思われる。

もう1つは、膨大な余剰マネーが、常に新たな投資アイデアを求めて徘徊しているためだろう。日・米・欧3極中銀のバランスシートは、足元のドルベースで約24.7兆ドルに膨張している。

特に積極的運用を志向するヘッジファンドの運用資産額は、今年9月末時点で2兆4189億ドル(ユーリカヘッジ推定)とみられている。ヘッジファンドは、先物・オプション等のデリバティブでレバレッジを掛けることが一般的であり、実際のマーケット・インパクトは数倍化すると思われる。

ヘッジファンドが、「スタグフレーション」シナリオに基づく「株式売り・債券売り」という戦術的売り仕掛けを行ったことが、秋の調整の1つの要因だったのではないかと考えている。

一方では、欧米の長短金利が秋のピークから低下を見せ始めた。米連邦準備理事会(FRB)はテーパリング(量的緩和策の段階的縮小)を決定したが、パウエル議長が春から十分な情報提供を行い、マーケットに浸透させたため、影響は極めて限定的だった。また、利上げのハードルが高いことを改めて訴えたため、むしろ市場は「ハト派的」と見なして金利低下・株高で反応した。

利上げが濃厚と見られていた英中銀も予想外の現状維持を選択し、イールドカーブ・コントロール(YCC)の停止を発表した豪州中銀も「利上げのタイミングは2023─24年」と示唆したこともあって、市場の早期利上げ観測が引き戻された形である。

物価高というリアルリスクがあるため、欧米の債券相場がこのまま好展開となる可能性は低く、来年以降には利上げに直面すると思われる。しかし、早期利上げから一段の金利上昇というシナリオは、欧米中銀によって抑制され、ひとまずの小康状態を得た。

こうなれば、ヘッジファンドは「迅速なスタンス転換」が信条である。既述のようなマクロ・ミクロの好転と債券市場の落ち着きがあれば、再び株高シナリオにベットするのは当然と言えよう。

ウォール・ストリートでは、わずか2カ月で「スタグフレーション」から「ゴルディロックス(適温相場)」に投資ファッションが回帰している。悲観の極から楽観論への転換で、良く言えば「臨機応変」、悪く言えば「節操がない」との感を深めるが、これが超過剰流動性相場の特性かもしれない。悪材料を咀嚼(そしゃく)し、回復するパワーが尋常ではないのだ。

米国では、ダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数、小型株のラッセル2000指数、欧州でも独ⅮAX指数、仏CAC指数が軒並み史上最高値を更新した。

<時間差で日本株も高値トライへ>

欧米株価の軽快な足取りに比べると、日本株の緩慢な戻りには欲求不満の投資家が少なくないことだろう。しかし、過剰な悲観論が修正され、世界の株式時価総額拡大の動きが日本に波及する可能性は高まっているように思える。

晩夏以降の日本株の乱高下相場では、日経平均が8月20日安値2万6954円から9月14日高値3万0795円の急騰を演じ、そこから10月6日安値2万7293円まで急落する荒っぽい展開だった。

米中の景気鈍化や米債務上限問題、中国恒大集団の過剰債務問題が背景にあったが、秋の調整でS&P500種指数が5.9%の下落に対して、日経平均が11.4%の大幅下落を招いた要因には、政治の不透明感が大きかったように思える。

しかし、衆院選の結果、自民・公明両党は堅固な与党体制を維持し、岸田文雄政権は安定政権化する可能性が台頭した。これから景気浮揚策が具現化し、政策期待が株価の大きな支援材料になると思われる。

日本の10月auじぶん銀行PMI(購買担当者景気指数・総合)は50.7と、久々に景況判断の分岐点となる50を上回ってきた。コロナ感染者数の劇的な減少もあり、今後は政策支援の追い風を受けて、株価にも浮揚力が加わると思われる。欧米を席巻する超過剰流動性相場が兜町に到来するのも、そう遠くないと想定している。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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