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コラム:対インフレ「先手必勝」の米利上げ、株高との併存可能=藤戸則弘氏

[東京 8日] - 「オミクロン株」への警戒感で、世界の市場が動揺している。特に株式や原油を初めとするコモディティ、ハイ・イールド債といったリスク・アセットの下落が大きかった。ダウ工業株30種平均は、11月8日高値3万6565ドルから12月1日安値3万4006ドルまで下落する局面があった。

 12月8日、「オミクロン株」への警戒感で、世界の市場が動揺している。写真はウオール街で2009年2月撮影(2021年 ロイター/Eric Thayer)

また、WTI原油先物価格も、米国を初めとする戦略備蓄の放出で弱含んでいたところに「オミクロン株」騒動が加わって、10月25日高値1バレル=85.4ドルから12月2日安値62.4ドルまで下落した。「オミクロン株」報道を受けた11月26日には、1日で10.2ドル安の急落を演じている。

iシェアーズハイ・イールド社債ETF(上場投信)も、11月8日高値87.61ドルから12月1日安値85.32ドルまで軟化する局面があった。こうした激しい価格変動から、相場の大勢トレンドが変化したのではないかとの見方が台頭し始めている。

<米市場を一時覆った弱気心理>

中でも米株市場では、年の瀬12月に来ての株価軟調で「2018年の二の舞になるのではないか」との弱気見通しが流布している。2018年のダウ工業株30種平均は、10月3日に高値2万6951ドルをマークした後に下げ足を速め、クリスマス翌日の12月26日に安値2万1712ドルまで売り込まれる展開となった。下げ幅は5239ドル、マイナス19.4%に達する本格的な調整だった。米国株の季節的特性である「クリスマス・ラリーからニューイヤー・ラリー」の株高傾向を完全否定し、投資家にとっては暗いクリスマスだった。

背景には、以下のような悪材料が重なった。1)米連邦準備理事会(FRB)は12月19日に2015年以来9回目の利上げを行った。2)トランプ大統領は利上げを続けるパウエルFRB議長更迭の可能性を公言した。3)中国、欧州での景気鈍化懸念が強まった。4)中国ファーウェイの副会長がカナダで逮捕され、米中摩擦が一段と高まる懸念が台頭した。5)ケリー米大統領首席補佐官、マティス国防長官等の辞任が相次ぎ、トランプ政権の求心力が弱まった、6)「メキシコ国境の壁」を含まない予算案をトランプ大統領が拒否し、連邦政府機関が一時閉鎖となった──。こうした悪材料の集積が投資家心理を冷却させた。

<2018年と異なる強い実体経済>

しかし、今回は12月に株価がぜい弱となるタイミングだけは同様だが、当時とは決定的に異なる点が多い。まず、景況感だが、2018年12月はISM製造業景況指数が54.8、同非製造業指数が58.2で、水準としては一見良好とも言える。しかし、同製造業指数は同年2月ピーク60.8から低下する途中であり、2019年12月の47.7まで悪化傾向をたどった。同非製造業指数も2019年9月の52.9まで鈍化し、景況感はピークアウトから悪化が鮮明となるトレンド上にあった。

また、FRBの金融政策は、2015年からの9回連続利上げとともに、2017年10月から本格的なバランスシート圧縮に着手している。バランスシートは、2017年4月15日の4兆4845億ドルから2018年12月26日の4兆0756億ドルまで、10%近く縮小していた。明らかにFRBが「パンチボールを引いた」状況であった。

一方、今回は11月のISM製造業景況指数が61.1と高水準、同非製造業指数に至っては69.1と統計開始以来、最高水準を記録している。最大の命題であった雇用も、11月雇用統計では失業率が4.2%に低下し、平均時給(前年比)4.8%増、平均週労働時間34.8時間と、むしろ雇用はタイトと言える状況だ。非農業部門雇用者数こそ前月比21万人増と予想を下回ったものの、新規失業保険申請件数は11月19日の週には19.4万人と1969年以来の低水準を記録している。

また、企業業績の好調も続いている。最高決算企業が続出し、S&P500種構成企業の7─9月期利益は前年同期比42.4%増の見込みだ(リフィニティブ調べ)。

<FRBのタカ派転換、インフレ退治には良薬>

金融政策においては、パウエルFRB議長の慎重さを考えると、リーマン・ショックに対応した超緩和策からの脱却と同様に、段階的なアプローチを採る可能性が高いと思われる。バーナンキ元議長の超緩和策からの脱却を手本にすると、1)テーパリングとその完了、2)利上げ、3)複数回利上げ後にバランスシート圧縮──である。

しかも、2)から3)への移行までは、購入した債券の償還に対して、補てん的な買い入れさえ行っている。現状は、FRBがようやくテーパリング実施となった段階で、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)においてテーパリングの加速が決定されても、利上げはおそらく来年央以降となる可能性が高い。バランスシートの圧縮に至っては、さらに2年ほどの猶予期間があると想定される。

仮に来年利上げに踏み切ったとしても、超過剰流動性は維持される見込みだ。つまり、年末に来て株価軟調という現象だけは類似しているが、ファンダメンタルズの局面は全く異なっている。

一部では、パウエルFRBのタカ派転換が、株安の要因とする向きもいる。確かに短期的には嫌気されることもあるかもしれない。しかし、米消費者物価指数(CPI、前年比・総合)がプラス6.2%と1990年以来の高水準に達した状況で、FRBが「物価高は一過性」との文言に執着して超緩和策を継続すれば、それこそ典型的な「後追い型」利上げに追い込まれるリスクが増大する。

短期間で連続的な緊急利上げが必要となる可能性が台頭し、株式を初めとするリスク・アセットの相場は大きな打撃を受けるものと思われる。

これに対して、12月のテーパリング加速から早期に利上げのフリーハンドを獲得すれば、想定以上の物価高の長期化に対しても、適切な対応が可能となろう。つまり、意図を持った「先行型」の利上げの場合には、インフレを抑制し景気拡大を長期化させる効能があるものと期待できよう。

その何よりの証拠は、イエレン、パウエル両FRB議長が実施した2015─2018年の利上げである。9回連続利上げにもかかわらず、米株式は2015年のチャイナ・ショックや2016年のブレグジット(英国のEU離脱)騒動も克服して、大勢として上昇波動を形成できた。利上げと株高の共存である。

これとは真逆の「後追い型」利上げとしては、1979年の第2次オイルショック後のFRBの混迷を指摘できる。原油価格の高騰で、CPI(前年比)は1978年2月のプラス6.4%から80年3月には同14.8%まで上昇するハイパー・インフレとなった。当時のミラーFRB議長は高金利政策に対する強い批判に耐えられず、わずか1年5カ月で辞任。「インフレファイター」として名高いボルカー議長は、政策金利を20%という極端な水準にまで引き上げた。

この高金利政策が経済を圧迫するのは当然で、米国景気は停滞が長期化し、株価も低迷が続いた。典型的な「ビハインド・ザ・カーブ」(後手の対応)となり、高インフレに対して「後追い型」の利上げに陥った場合には、その反動は極大化する。

FRBのタカ派転換は、中長期的に見れば、巡航速度での景気拡大と株価上昇トレンドを継続させると考えている。

<オミクロンの影響弱まれば、株価は上昇基調へ>

「オミクロン株」の感染力が強いことは確認されたが、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は「これまでのところ、重症度はそれほど高くないようだ」と述べている。

また、南アフリカの主要医療施設は「初期データでは比較的軽症で、入院患者の増加は見られなかった」と発表している。

まるで「中世のペスト」に対するようなマーケットの拒否反応がみられたが、「オミクロン株」の懸念が薄れた場合には、ファンダメンタルズの良好さを見直して、再び世界の株式市場は上昇トレンドに回帰すると想定している。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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