January 7, 2019 / 9:08 AM / 12 days ago

コラム:漂う国際協調のにおい、2016年相場との類似点=木野内栄治氏

[東京 7日] - 株式市場を取り巻く現在の環境は、2016年初めと似ている。あの年は20カ国・地域(G20)の政策総動員によって絶好の買い場となった。今回のコラムでは、当時と今の類似点を比較し、足元が投資の好機である可能性を説明したい。

 1月7日、株式市場を取り巻く足元の環境は、G20が協調して世界を景気後退の淵から救った2016年の状況と似ていると、大和証券チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジストの木野内栄治氏は指摘。写真はアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたG20首脳会合。2018年11月撮影(2019年 ロイター/Kevin Lamarque)

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は4日のアメリカ経済学会の年次総会で、将来の利上げや資産圧縮に柔軟に対応する姿勢を示した。イエレン前議長、バーナンキ元議長と共に登壇していたことから、株安に歯止めをかける「パウエル・プット」発動という印象を市場に与えたかもしれない。

パウエル議長は、2015年12月のドットチャートが翌年4回の利上げを予想していたにもかかわらず、当時の議長だったイエレン氏が金融情勢の変化に機敏かつ柔軟に対応し、同年12月まで利上げしなかったと指摘。「今年が2016年のようになるかは誰にもわからない。しかし、私が知っているのは、素早く、かつ柔軟に政策を調整する用意があるということだ」と語った。

<反応したのは中国関連株>

しかし、パウエル氏の言動はこれまでも「柔軟」に変わってきた。中でも、中立金利を巡るスタンスには一貫性が見られなかった。主要政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)レートがすでに中立金利に近づいたのだから、利上げは中断するのが正しいと言えよう。今回の発言が、パウエル・プットと呼べるほどの安心感を市場にもたらしたとは筆者には思えない。

1月4日のダウ平均上昇に寄与した上位銘柄を見ると、順にボーイング(BA.N)、スリーエム(MMM.N)、キャタピラー(CAT.N)、アップル(AAPL.O)と中国関連株が占めている。当日のダウ全体の上げ幅746ドルのうち、この4銘柄で247ドル持ち上げている。

一方、4日のアジア時間は中国の李克強首相が金融緩和を示唆し、実際に中国人民銀行が預金準備率の引き下げを発表した。アップルが売上見通しを下方修正し、日経平均が2%以上も下落するのを尻目に、上海総合株価指数や香港ハンセン指数は2%以上の逆行高となった。中国経済との関係が深い欧州でも、米国の取引時間前にすでに株高となっていた。つまり、4日は中国株と中国関連株が大幅に上昇した日だったと言える。

<2016年初めと酷似>

パウエル議長が指摘した2016年初めと現在の状況は、非常に似ている。中国の景気に不安が高まり、原油相場は下落している。さらに、不確実性が懸念された英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を決める国民投票や米大統領選挙は、ここに来て現実の不安要因となっている。

金融情勢も酷似している。パウエル氏が指摘するように、2016年初めは主に原油安によるクレジット不安が台頭した。石油インフラ事業に共同投資するファンド「マスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)」の代表指数アレリアンMLPは、同年2月までに3分の1程度へ下落した。2019年の足元も、ほぼ安値面合わせまで軟化している。

東京株式市場では2016年2月9日、日経平均が900円以上も下げ、PBR(株価純資産倍率)は1倍の水準に低下した。昨年12月25日に日経平均が1020円下落し、PBRが1倍の水準に到達した状況とそっくりだ。為替市場も2016年初めは円高が進み、前年末から2月末までにドル/円は7円も下落した。

「今年が2016年のようになるかは誰にもわからない」とパウエル氏は言うが、誰もが2016年とそっくりだと思うだろう。

<2016年に世界を救ったのは>

では、2016年はどのようにして成長軌道へ復帰できたのだろうか。まずは2月27日に上海でG20財務相・中央銀行総裁会議が開かれ、「個別および集団的に、金融、財政、構造上のあらゆる政策手段を活用する」との声明を採択した。いわゆる政策総動員の方針が掲げられた。

その後、米国は利上げを停止し、中国は2月末に預金準備率を追加で引き下げた。1月末にマイナス金利を導入していた日銀は、7月に上場投資信託(ETF)の購入額を倍増、9月には長短金利を操作する「イールドカーブ・コントロール」を導入し、新たな金融緩和策を模索した。安倍晋三政権は6月1日に消費増税の延期を表明し、7月の参議院選挙を戦った。まさに政策総動員だった。

こうした各国の協力によって、世界経済はリセッション(景気後退)の淵から救われた。国際協調行動は単独行動に比べ、強い力を持ち得る。

<注目は1月17─18日>

2019年、G20議長国は日本だ。世界的な貿易不均衡の是正など、取り組むべき優先課題はすでに昨年末のG20で麻生太郎財務相が表明しており、注目は国際協調による政策総動員を打ち出すかどうかだ。

そこには消費増税の最終判断が影響する。来年度予算案を可決する3月末までは、増税延期の表明は国会運営上難しいだろう。一方、増税半年前の4月に入ると、企業のシステム変更など技術的なタイムリミットを迎える。増税延期を決断するには、4月初めのワンチャンスしかない。安倍首相は新元号の発表を4月1日と定めたが、増税延期を決断するならこの日とも見定めているのではないだろうか。

2016年の増税延期は、5月末の7カ国(G7)首脳会合(伊勢志摩サミット)直後に安倍首相が表明した。構造改革の加速や財政出動を挙げた上で、「内需を腰折れさせかねない消費税率の引き上げは延期すべきである、そう判断した」と述べ、政策総動員の一環であることを強調した。

一方、消費増税を悲願とする財務省は、何とか景気失速懸念を払しょくしておきたい。今回のG20首脳会合(大阪サミット)は6月28─29日、財務相・中央銀行総裁会議は4月11─12日に開催する。この時期より前の4月初めに、リーマン・ショック級の気配を一掃したいはずだ。

そこで、1月17─18日に東京で開催されるG20財務相・中央銀行総裁代理会議が注目される。ここで政策総動員的な方針を取りまとめ、閣僚級会合などを待たずに公表し、不安払しょくに努めようとするかもしれない。

いずれにせよ、財務省は代理会議に向け、日本が優先課題に掲げた項目を各国と積極的に議論しているはずだ。李克強首相やパウエル議長の発言は、各国が日本の提案に乗ってきた証かもしれない。

筆者は、市場が国際協調による政策総動員のにおいを嗅ぎ取っているように感じる。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(編集:久保信博)

木野内栄治氏(写真は筆者提供)

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

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