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コラム

コラム:独裁政治支える「適温経済」、中国が典型例

[ロンドン 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] - クリントン元米大統領は2000年、インターネットを政治的に統制する中国政府の計画をからかい、「ジェロ(ゼリー状の菓子)を壁に釘付けしようというのか」と語った。ネットの監視は難しいと論じたのだ。クリントン氏はまた、開発についても通念を披露していた。経済の急成長はおのずと政治の自由をもたらすものであり、自由がなければ成長は短命に終わると──。

 クリントン元米大統領は過去に、ネットの監視は難しいと論じ、また経済の急成長はおのずと政治の自由をもたらすものであり、自由がなければ成長は短命に終わると指摘していたが、同氏の考えは間違っていた。写真は中国国旗。北京の人民大会堂で5月撮影(2019年 ロイター/Jason Lee)

クリントン氏の考えは、どちらも間違っていた。中国は、ネットが監視と抑圧に役立つ道具であることを見せつけた。そして、強権的な指導者が牛耳る政府が、世界各地で花開いている。

実際、2020年の政治予想を見ると、スリランカからボリビアに至る独裁政権が、さらに砦(とりで)を固めるとのシナリオがたいてい含まれている。楽観派もいるが、高望みする者はまれだ。腐敗が少なく複数政党制の民主主義を支持する勢力が、現在の劣勢からある程度反撃に転じる事例が一握りは出てくるだろう、といった程度の予想にとどまっている。

論理的に考えれば、そうはならないはずだ。反体制派を弾圧する政府は、しばしば腐った新興財閥と共生関係にある。新興財閥は自らの富を守る過程で、往々にして成長を阻む。指導者ら自身がかなり誠実な場合でも、全面統制への欲に目がくらみ、ごますり助言者に惑わされて政策の失敗へと突き進む。モディ首相率いるインド政府による高額紙幣の廃止や、的外れな税制改革が好例だ。

しかし、足元で経済成長に悪影響が及んでいるかというと、そうとは言い難い。国際通貨基金(IMF)の予想では、2020年の世界の成長率は3.4%と、今年の3%から加速する見通し。20年の成長は新興国や発展途上国がけん引し、先進国の成長率は今年も来年も1.7%にとどまると予想されている。

これは、あくまでゆっくりと破滅に至る道かもしれない。旧ソ連の経済停滞が大きな政治問題に発展したのは、共産党が政権を握って約50年も経てからだし、その後20年間も古い政府が権力にしがみついていた。

しかし、今のところ大半の独裁政権は持ちこたえている。政治的な人気はどうあれ、十分に経済の繁栄度合いを高めて市民の不満レベルを抑え、リスクを犯してまで反乱を起こす価値はないと思わせるのに成功している。「ちょうど良い」経済なのだ。

ロシアが良い例だ。来年1.9%の成長が見込まれる(IMF予想)経済状態であれば、プーチン大統領は新興財閥と大衆という両方の支持層を満足させられる公算が大きい。ボルソナロ大統領率いるブラジルも、来年の成長率予想は2.0%で、同様に安心できるかもしれない。もちろん、もっと汚職が少なく抑圧的でない体制の方が成長は速く、公正かもしれないが、ポイントはそこではない。指導者から見れば、適温程度で十分なのだ。

この基準に照らすと、中国は素晴らしい状態にある。政治的な抑圧と貿易戦争によって成長率は抑えられるかもしれず、統制色を強めている政権は間違った決定を下すかもしれない。しかし、IMFが予想する5.8%の成長は、経済への不満を制御できるレベルに抑えるのには十分過ぎるほどだろう。

インドも同じで、同国の統計担当者が鉛筆をなめている可能性を考慮に入れてもなお、7%の成長が予想されている。

この状態は持続可能だろうか。技術進歩を踏まえると十分可能と言えそうだ。過去約30年間、あらゆるデータ関連コストの急低下と、世界的な生産網の効率化が相まって、人々は商品を容易に入手できるようになった。

一方、その同じ生産グローバル化により、腐敗してあまり有能でない政権でさえ、大幅な輸出増加と現代的な雇用の創出が可能になった。

実際、適温経済はあまりにも快適で、通常は政治がよほど悲惨なことにならない限り、反体制派を勢い付けるような経済の悪化は起こらない。イランも制裁さえなければ、反体制派の経済に対する怒りが現在ほど沸騰しなかっただろう。

伝統的な民主主義国家では、体制に異議を唱えることはさほどリスクを伴わないため、経済への不満が政治問題化しやすい。米国と英国では「置き去りにされた」と感じる市民の怒りをなだめるのに適温経済では不十分だった。南米の民主主義国家・チリは十分な経済成長を遂げながらも、経済への不満拡大を抑えるのに苦心している。

経済の繁栄度合いによって違いが出るのは、独裁政権が「ニンジン」と「ムチ」のどちらを使いたがるかだ。経済状態が最低水準の国では、人々を従わせるのにかなりの残忍性が必要になる。究極の例が北朝鮮で、ムチばかりでニンジンは皆無だ。

しかし、大半の強権指導者は、そこまでやりたくない。従って、以前に比べて富の拡大というニンジンが容易に入手できるようになった現在、残忍な独裁体制よりも、中国のような現代性と残忍性のハイブリッド体制が幅をきかせるようになった。

適温経済を比較的容易に提供できるようになったことは、世界的な自由主義の拡大にとっては間違いなく逆風だ。クリントン氏は技術が道具にすぎないことを銘記すべきだろう。道具は自由だけでなく抑圧の強化にも使える。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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