November 28, 2019 / 4:42 AM / 11 days ago

コラム:なぜ今、10兆円の大型補正予算なのか=熊野英生氏

[東京 28日] - 政府は、2019年度補正予算を組んで、景気刺激に動こうとしている。与党などからは真水(付加価値を直接増やす財政支出)10兆円という声が相次いで上がる。消費増税が軽減税率分を除いて4.6兆円の家計負担増であることを考えると、その2倍以上を使ってしまおうということになる。

11月28日、政府は、2019年度補正予算を組んで、景気刺激に動こうとしている。与写真は2018年10月、渋谷の交差点で撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

少し驚かされるのは、今この時期に経済対策が検討されているという点だ。10月に消費税率が上がって、その反動減がどのくらいかが経済統計上、ほとんど明らかになっていない。少し早過ぎる印象だ。

ここにきて経済対策が急浮上したのは、安倍晋三首相が11月8日に指示したからだ。経済対策は2019年度補正予算と2020年度当初予算を一体で取りまとめる。経済対策は12月上旬にまとまるという。2019年度補正だけで真水10兆円という数字には耳を疑ってしまうが、その規模を政府はどこまで真に受けて実行するのか。財政再建に対する緩みが、どこまで抑え込まれるのかが注目される。

経済対策が浮上した背景には、1)台風19号とその前の15号による被害を踏まえた災害対策、2)経済の下振れリスクへの備え、3)東京五輪後の成長維持──の3つの大きな目的がある。

その中でも、防災用に公共事業を拡大することは筆者も賛成する。しかし、公共事業を増やすことに国民の共感が得られたとしても、いきなり10兆円という金額を使ってしまうことが正当化されてよいわけではない。むしろ、国土強靭化で2020年度までの3年間に7兆円の事業費を注ぎ込む計画がありながら、なぜ台風19号の被害を未然に防げなかったのかが疑問として残る。

<年中行事化していた補正予算>

経済対策として浮上しているのは、ポスト5G(次世代通信規格)基金創設や、中小企業向けの生産性革命補助金などである。これらは、消費税率引き上げ後の消費刺激策とは違う。年度の予算編成の時に次の候補として目されていた案件が、新しい経済対策として格上げされたのだろう。例年、当初予算を絞り込む代わりに、年度末に近づくと補正予算が組まれて、準備されていた案件が計上されている。

安倍政権は、発足当初の2012年度は補正予算の中に緊急経済対策として10.3兆円の超巨大な金額を計上した。その後は、3─5兆円台の増額修正にとどめている。そうした経緯からして、真水10兆円の巨大な増額を目指そうとする補正予算は異例に見える。

すでに、増税対策として準備されたものは2019年度の当初予算に計上されている。そして、安倍政権はそれらを十分な消費税対策と説明してきた。だから、ここにきて計上されるものは、消費税対策とは違った性格のものになる。

これは2020年度予算案として計上されてもおかしくないと考えられるが、消費刺激策としては、2020年年9月から2021年年3月までのマイナンバーカードを活用した1人あたり最大5000円の還元策がある。キャッシュレス決済が2020年6月に終了した後の消費刺激策の後継という位置付けのようだ。以前から用意されていたメニューを、経済対策の中に入れた格好である。

整理して考えると、なぜ今、真水10兆円もの経済対策が急浮上しているのかがよく理解できなくなる。

景気下振れリスクという言葉が、真水10兆円という巨大な歳出増の必要性に直結するわけではなかろう。もし、増税後の消費低迷を不安視しているのならば、対策の主軸は家計消費への働きかけを中心にするべきだ。

ところが、マイナンバーを利用したポイント還元くらいしか、その目的に役立つものはない。ポスト5G対応などは、各省庁がやりたい案件をリストアップしたものであり、消費低迷によく効く薬を処方しているようには見えない。理屈として、消費以外の分野でどうして巨大な支出増を必要とするのかは、筋が通っていないと思う。

もちろん、台風15号、19号による被害をみて、公共事業の必要性が強まったことは正当性がある。しかし、今までの国土強靭化がどのように有効で、どのような防災対策が不足しているのかが分析されないまま、巨大な金額が最初から大きく打ち出されるのは違和感がある。与党からの要請に対して、政府はもっと目的と手段の対応が適当かどうかを吟味し、正しく応ずるべきだろう。

<財源不足とその効果>

政府にとって、大型経済対策を打とうとするときに問題になるのは財源だ。これまでは税収が当初予算よりも上方修正されるなど、余力が生じるる中でそれを原資に補正予算を打つことができた。2019年年度は、税収見通しが当初の62.5兆円から約2兆円ほど下振れし、補正予算を打つ余力がない。国債費の年度内の減額もプラス1兆円強というところだろう。

一方で増税をして、もう一方で赤字国債を増発するには、よほどの根拠がなくてはいけないはずだ。筆者はそうした根拠が示されないまま、リストアップされた歳出案件が消化されようとしている流れはおかしいと考える。

歳出拡大は、景気刺激になるという古典的な主張を唱える人はいるだろう。しかし、2019年度補正予算による需要かさ上げがある場合、それが終了するときには需要がなくなることを心配しなくてはいけない。

経済対策には、五輪後も成長を持続させる狙いもある。ならば2019年度補正予算を増やさずに、2020年度当初予算を拡充して、公共事業の執行を「後ずらし」する方が反動減を無用に大きくせずに済むはずだ。

増税後に財政規律が緩んでしまうと、何のための増税なのか、国民に対して全く説明がつかなくなってしまう。政府には、襟を正して歳出拡大の圧力を抑え込んでもらいたい。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

熊野英生氏

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:田巻一彦

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below