December 26, 2019 / 2:52 AM / a month ago

コラム:2020年の注目は中国リスク=熊野英生氏

[東京 26日] - 米中協議が第1段階の合意を得て、2020年の世界経済はうまく再加速するであろうか。様々な論点があるだろうが、火種として残るのは各国の過剰債務問題である。特に中国が抱えている債務問題は、楽観を許さない課題である。中国では、企業、地方政府、家計がそれぞれに過剰債務を抱えている。

 2020年の世界経済で懸念されるのは、各国の過剰債務問題、特に中国が抱えている債務問題だと、第一生命経済研究所の熊野英生氏は指摘する。写真は10月25日、北京で撮影(2019年 ロイター/Jason Lee)

この問題に触れると「今に始まったことではない」という楽観論が、反論として語られる。中国経済が高成長できているうちは、債務拡大の持続性は維持できる。確かにそうなのだが、その持続性の限界を見極めにくいところが大問題だ。中国の債務問題は、よく「灰色のサイ」に例えられる。日頃はおとなしいが、いったん暴れ始めると誰も手を付けられなくなる。高い確率で水面下のリスクは爆発すると分かっていても、それがなかなか顕在化しないために軽視される問題のことを指す。

<債務と成長>

中国の非金融企業の債務残高は2016年に一時対GDP(国内総生産)比166.2%まで高まった。この比率は、日本のバブル崩壊後の同148.9%を上回っている(2017年通商白書)。比率の高まりはすでにピークアウトしているとはいえ、過剰債務の中に含まれた不良債権(銀行サイドからみた区分)が多く残存し、危険性が高いことを暗示している。

改めて過剰債務の意味を確認しておこう。企業の投資活動では、負債を拡大させるほど大きな投資ができる。内部資金を前借りして、企業が収益機会を実現させるのである。その代わりに、企業は毎期の収益から返済と金利支払いを行う。債務負担が投資収益よりも小さいという関係の維持が、投資拡大と債務拡大がイコールになる条件となる。この関係は債務の持続性条件とも言える。

ところが、投資が増えていくと、有望な案件が実行され尽くされて、実現される投資収益率は徐々に低下していく。今後、中国では、実質GDP成長率が6%台から5%台へと鈍化していく可能性が高い。特に固定資本形成の伸びの鈍化が目立ち、債務負担能力が落ちていくと考えられる。

そこに加わったのが、米中貿易戦争である。対米輸出の採算性は悪化して、企業の投資収益率をさらに下押しすると考えられている。米中での第1段階の合意は、制裁関税の一部を初めて引き下げる内容が含まれている。これは歓迎すべき点であるが、冷静に考えると、追加的な負担増がわずかに少なくなるだけで、中国経済全体へのプラス効果は小さい。むしろ、2020年以降も大半の制裁関税が残ることを重く受け止めなくてはいけない。トランプ大統領が再選されても、民主党候補が勝利しても、対中強硬姿勢はそれほど改善しないだろう。

長い目でみて、トランプ大統領が歴史に残す汚点として、制裁関税によって中国経済を必要以上に痛めつけて、危機を増幅したことが記憶されるだろう。日本の不良債権問題を生々しく記憶している筆者には、米中貿易戦争は「大変な失策」だと思える。

<成長の足かせ>

過剰債務の成長抑制メカニズムについて、再度触れておきたい。企業の債務負担を減らそうとすると、企業は内部資金を返済により多く回す必要がある。そうすると、債務水準が減り、内部資金を投資に回す比率も低下するから、投資は抑制されて、経済成長率も鈍化する。つまり、債務削減にはデフレ効果がある。

2018年までの中国政府は、過剰債務拡大を強く警戒して、デレバレッジを推進してきた。ところが、トランプ大統領の仕掛ける貿易戦争に応じるために、債務抑制を中断して、金融緩和とインフラ投資によって成長支援に軸足を移した。過剰債務削減が重要なことは百も承知で、景気刺激をすることは中国政府にとっては苦汁の選択だったに違いない。

現在、中国経済への景気刺激効果の顕在化は、少し遅れている印象がある。企業の過剰債務は、投資・支出性向を低下させるので、景気刺激に反応しにくくなるのだと考えられる。

また、景気刺激策が投資収益率の低い案件を無理に実行させると、それが将来の不良債権に変わるリスクを高める。かつての4兆元の景気対策を思い出すとよい。

注目されるのは、2020年になって世界的にITサイクルが上向きになったときの効果である。5G(次世代移動通信システム)の普及によって、情報通信産業は中国を含めて世界的に投資を拡大させ、新しいテクノロジ-が収益拡大を索引していくだろう。その好影響の広がりが、中国経済に及ぼすインパクトが過剰債務によって抑制されるとすれば、事態は深刻とみた方がよい。チャンス到来と思ったときに期待がうまく実現されないことが、それまでよりも不安感を高める。

<危険のシグナル>

灰色のサイが将来いつ暴れ出すのかは、誰にもわからない。参考になるのは、過去の教訓だけである。

日本の経験では、過剰債務問題が表面化するのは、まず中小金融機関である。中国では、農村商業銀行の不良債権比率が高い。中小金融機関で破綻が起きると次に不健全な企業の経営危機を、大手・中堅銀行がどう支援するかに問題が移り、それから大手銀行問題に波及する。

中国では、いくつかの銀行がすでに経営危機に直面している。2019年は内モンゴルで包商銀行が実質国有化され、遼寧省の錦州銀行の救済、山東省の恒豊銀行が公的支援を受ける。内モンゴルや山東省は、不良債権が多かったり、製造業の赤字企業の割合が高い地域でもある。内陸部では、資源開発に失敗した企業も多いとされる。沿海部には、製造業が多く、貿易戦争のダメージを受けていると考えられる。

日本では、バブルが崩壊した後も、1993年10月から循環的な景気回復が起こり、1996年は金融ビッグバンなどと言って浮かれていた。この間、1994年に2信組問題、1995年兵庫銀行破綻、1996年は太平洋銀行・阪和銀行の処理があった。今も人々の記憶に強く残るのは、1995年に住専問題が政治的な粉争となったことだろう。住専は、中国のシャドーバンキング問題とそっくりである。

日本は、1997年に消費税が上がり、緊縮財政も手伝って、その11月から危機が起こった。本当の危機は、過剰債務が金融システムを揺がせたところで顕在化したのである。

日本の歴史を、そのまま中国の債務問題にあてはめるのは無理と承知で言えば、現在の中国は1994年─96年の日本によく似ている。当時は、構造改革さえ行えば、日本経済は再び高成長に向けて飛躍できると多くの人が思っていた。

現在の中国に関しては、中国自身のみならず日本、米国でも政府の危機管理能力に対して絶大な力を信じている人が多い。本当に経済をコントロールできる力が、政府にあると思ってよいのか。

2020年の世界経済にとっての課題は、中国に内在するリスクが貿易戦争の一段落によって本当に改善するかどうかを見極めることである。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

熊野英生氏

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

(編集:田巻一彦)

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