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コラム:東京封鎖1カ月で損失5.1兆円、科学的な費用対効果は=熊野英生氏

[東京 30日] - 首都封鎖の可能性がかなり高まっていると、筆者はみている。3月25日夜に小池百合子東京都知事は「ロックダウンなどの強力な措置を採らざるを得ない状況が出てくる可能性がある」と語った。

3月30日、首都封鎖の可能性がかなり高まっていると、熊野英生氏はみている。写真は28日、都内で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

筆者は当初、この発言が信じられなかった。行政の長が、民衆の不安をあおるようなことを語ってはいけないと考えるからだ。案の定、翌日の朝からスーパーマーケットなどでは食料品をまとめ買いしようとする人が押し寄せた。「失言恐慌」と同じことが起きてしまったと思った。

しかし、禁句を都知事が敢えて口にするからには、何か意図があるに違いない。その裏を読むと、本当に首都封鎖をやる気があるから、それを徐々に伝えようとしているのだろう。首都封鎖に本気だからこそ、本気ではない時には絶対に語るはずのないことを語ったとみる。

伏線は、東京五輪の延期である。それまでは、五輪開催が重石になって、強権発動は自制されていた。欧米主要国は都市封鎖を先に始めていた。日本は、それらの国々のように後手には回っていなかった。

しかし、日本でも都市封鎖を実施した方がよいという思惑があり、東京都は暗黙のプレッシャーを感じていたのだろう。3月24日に東京五輪開催を1年程度延期することで、安倍晋三首相と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が合意した。これで、首都封鎖をして感染阻止に動くという強権発動をしてはいけないという理由がなくなり、振り子が大きく振れたのだろう。

<計り知れない経済損失>

東京都を封鎖して、埼玉県、千葉県、神奈川県などからの人に移動を禁止したならば、日本経済は頭に回っていく血流を止めるに等しいダメージが起こる。首都封鎖と言っても、必要最低限の経済活動は行いながら、それ以外の動きを停止させることになるのだろう。

すでに、東京都心の大企業は、テレワークに勤務形態を切り替える前提で動き始めた。もちろん、全従業員がテレワークで仕事ができる訳ではない。筆者の見方では、自宅待機に近い状態になっているとみている。

これで経済活動がどのくらい縮小するのかは、正確にはわからないが、必要最低限のラインをしばらくは手探りしながら、自宅勤務などの方法を採っていくのだろう。

その必要最低限の活動の割合を計算すると、企業の稼働率は約4割まで低下する。これに基づき、東京都が1カ月、つまり4月1日から4月末の大型連休まで首都封鎖したと考えると、名目国内総生産(GDP)が5.1兆円ほど低下する計算になる。さらに、外出禁止などの封鎖状態を、神奈川県、千葉県、埼玉県を加えた南関東で実施すると、損失は8.9兆円にもなる。

この試算は、企業の稼働率が、平日の出勤状態を日曜日並みに抑えられたと仮定して、最低限度の稼働率の状態を求めた。NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」(2015年)では、平日の出勤率が88%で、日曜日が37%となっている。両者の差を求めると、日曜日は平日に比べて58.0%の稼働率低下となっている。東京都の2019年度の実質GDPが106.4兆円だから、その1カ月分のマイナス58.0%が実額で5.1兆円の減額になる。

この計算は、実は楽観的なシナリオだと考えている。東京都や南関東の経済活動が平常の4割に低下すると、全国のサプライチェーンや交易取引を抑制させる。その波及効果は、ここでは考えていない。それでも、1カ月間で5.1兆円、つまりGDP比で1.0%ポイントの押し下げ効果になる。

<実行するのなら必ず補償は必要>

仮に、行政が首都封鎖を実行するのならば、いくつかの条件を満たさなくてはいけない。それは、まず、判断を下した根拠の説明である。費用対効果をどう比較して決定したのかという点である。

筆者は、医療の素人であるが、一定期間の移動制限をしたときの感染阻止の効果はどう計算しているのか、それによって、どのくらい多くの感染者数の抑制ができるのか、を説明してほしい。

「1カ月間続けてみましたが、東京都の感染者数の増加は減りませんでした。もう1カ月間ほど継続します」と言われても納得しがたい。

また、感染者数の増加の中から病院・介護施設での集団感染を除かないといけないだろう。その人数は移動制限によって変化するものではないからだ。

店舗休止・出勤停止で営業ができないことで生じる損失への補償といった経済的な対応も必要だ。事業者の損失はこの移動制限に従ったことで生じるものであり、自己責任を問うことができないからだ。それをしなければ、中小企業などへの損害は、経営存続が耐えられないほど膨らむだろう。

そうした社会的費用の一部を財政で肩代わりすることはやむを得ない。政府がそうした経済的なバックアップをするからこそ、地方の行政は思い切った感染阻止の対応を採ることができる。

これはあくまで感染阻止の科学的な費用対効果が「見える化」されているという前提の話であるが、政府は民間企業と行政の間の利害調整コストの一部を負担することで、スピーディーに行政の特別措置を促すことができる。

もし、東京都が首都封鎖を決定するときには、科学的な費用対効果の判断基準を示して、どのくらい先まで封鎖の必要性があるのかという期限を最初から示す必要があるだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:田巻一彦

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