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コラム:景気回復のカギは不安感の「見える化」、今秋がハードル=熊野英生氏

[東京 25日] - 新型コロナウイルスは、感染拡大そのものよりも、感染リスクが目に見えないことによる社会的不安の方が経済に大打撃を与えている。一歩家から外に出ると、どこにウイルスがいるか見えないので、皆がマスクをする。だから識者はPCR検査を大幅に増やして感染リスクがないことを「見える化」して疑心暗鬼を解消すべきだと言う。筆者も全く同意見だ。

8月25日、新型コロナウイルスは、感染拡大そのものよりも、感染リスクが目に見えないことによる社会的不安の方が経済に大打撃を与えている。写真は都内で17日撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

同じことが景気の先行きについても言える。感染収束の先行きが見えないから、それが経済活動を停滞させる。企業は投資を手控えてキャッシュを手厚く保有しようとし、家計も消費を抑えて貯蓄を増やそうとする。こうした不確実性の弊害を解消するには、現在わかっている判断材料を使って、少しでも確からしい未来の景気シナリオを描き、皆で共有するしかない。未来のシナリオが共有されるだけで漠然とした不安をより小さくできるだろう。

<再度の緊急事態宣言は回避へ>

4─6月の実質国内総生産(GDP)の下落幅が戦後最悪となった。ここで忘れてはいけないのは、4、5月に緊急事態宣言を発令していたという事実だ。人為的に経済活動を止めたことで巨大な損失を発生させた。だから人々は万一、緊急事態宣言にもう一度追い込まれると、景気は二番底になると恐れるのだろう。

7、8月は新規感染者数が増えたが、菅義偉官房長官は「直ちに緊急事態宣言を出す状況ではない」と繰り返し語っている。再度の緊急事態宣言がないと政府が明言すれば、多くの人が持つ不確実性への不安は緩和される。本来は、もっと予見可能なルールを示して、緊急事態宣言は発令する場面ではないと国民に説明した方がよい。

景気シナリオの前提として、緊急事態宣言の発令がないのであれば、景気は大底をすでに迎えていて、今後は改善方向に向かうということが言えると思う。

<10─12月の不安>

今後、二番底が回避できるとしても、それで不安解消という訳にはいかない。なぜならば、目先の不安として秋から冬にかけて景気がより悪化する要因が見えているからだ。

まず、1人10万円の特別定額給付金の効果は、8月くらいまでの個人消費を押し上げるだろうが、10─12月にはその効果は必ず薄らぐ。個人消費は、民間の冬のボーナスが減少することも加わって、7─9月に比べて10─12月は減少するだろう。

また、政府が講じた給付金・助成金の効果は、総じて10─12月には効果の持続性が薄らぐだろう。つまり、10─12月は中小企業の破綻や失業などが増えそうだ。特に観光産業は、インバウンドなどの需要減退が深刻であり、事業者の倒産・廃業が懸念される。

<製造業の追い風>

個人消費については、秋から冬にかけて悪材料が多い。しかし、製造業には好材料もある。中国向けの輸出が伸びていることだ。鉱工業生産の予測指数は、7、8月に15%ほど上昇する見通しになっている。もちろん、予測指数は実際には下方修正されるだろうが、それでも上昇の結果に落ち着くだろう。特に7、8月は輸送機械が48%も上昇する見通しだ。輸送機械の予測は他業種よりも修正されにくいことが知られている。

中国経済の回復は、コロナ感染が比較的軽かったこともあるだろう。8月24日時点の累計感染者数は、中国本土(除く香港)が約8.5万人で、日本が約6.3万人である。韓国、台湾、タイ、ベトナムなどアジア諸国には、感染状況が日本よりも軽く、経済回復が進みそうな国が多い。この点は、製造業を中心に雇用拡大へと転じて、サービス業などの雇用悪化を吸収する作用をもたらすと期待される。

<ボトムラインを固めて上方修正を待つ>

人々の不安の中身は、経済はそう簡単に元に戻らないとわかっていることにもある。インバウンドは数年間戻らないだろうし、企業と家計の節約志向も当分続く。新しい需要が必要だと誰もが思っているが、それは政府が知恵を絞っても出てきそうにない。

民間企業が見えにくいニーズを細かく拾っていき、その積み上げによって業績を回復させるしかない。政府は、そうした個別の成功事例を世の中に紹介して、企業家精神を刺激することが望ましい。コロナ禍の下でも、情報通信、専門・技術サービスは落ち込みが小さく、宅配、無店舗小売は5、6月に伸びている。すでに、新しい需要にシフトしながら活路を見出している企業は多くある。

マクロでは、2020、21年にかけてデフレ圧力が強まり、経済がコロナ前の水準に戻らない不満が根強く残るだろう。しかし、それは受け入れて、当面極めて緩やかな回復が続くことを覚悟しなくてはいけない。

その一方で、再度の緊急事態宣言を基本的にしないことを明確にすれば、それが景気の見方のボトムラインになる。次に、上方修正のチャンスを待つとすれば、まず、中国などアジア向けの輸出回復がある。

また、11月の米大統領選挙で民主党のバイデン候補が勝利すれば、米中関係が仕切り直される。貿易ルールが改善することは、日本の輸出増に貢献するだろう。

さらに、ワクチンの開発も進み、コロナ感染への社会的不安も現在よりは薄らいでいくことが見えてくるのではないか。こうしたシナリオを描いて、広く共有することが、先行きの不確実性によって暗くなる状況を少しでも改善できるのだと考える。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:田巻一彦

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