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コラム:長期金利変動幅を拡大した日銀、本当の理由を探る=熊野英生氏

[東京 23日] - 3月18─19日の日銀金融政策決定会合では、イールドカーブ・コントロール(YCC)の手直しが行われ、長期金利の変動幅を上下0.25%とすることを明確にした。

 3月18─19日の日銀金融政策決定会合では、イールドカーブ・コントロール(YCC)の手直しが行われ、長期金利の変動幅を上下0.25%とすることを明確にした。日銀本店で2020年5月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

「明確にした」という意味は、黒田東彦総裁によると、2018年7月にそれまで上下0.1%だった変動幅を倍程度に広げるとしていたのを、数値で示してはっきりさせたのだという。上下0.1%の倍程度とは、上下0.2%ではなく、上下0.25%のところまで読み替えられる。だから、2018年7月に決めた方針を変えたわけではないという説明だ。これは、いかにも「苦しい言い訳」に聞こえる。倍程度と言って許される範囲内は上下0.25%だろうと考えて、そこまでは金利上昇を許すことにしたに過ぎない。

日銀は、長期金利を0%にするという方針を動かすと、出口戦略への着手だと受け取られて、政治的摩擦が生じるので、それを避けようとして変動幅の上限を広げているのが実際のところだと考えられる。

<残された疑問>

今回の決定で、長期金利の上限を少しでもよいから引き上げようとした日銀の意図とは、いったい何だったのだろうか。

こうした隠された意図を読み解こうとする試みは、非常に重要だと考えられる。日銀が言うように「今回の措置は明確化であり、あくまで変更ではない」という「大本営発表」を信じている限りは、見えてこない論点である。当然、日銀はそうした意図を明らかにはしない。

謎を解くための最大の鍵は、この点検が予告されたタイミングが、昨年12月会合のあった12月18日だったということだろう。当時、日銀は何を予想して、政策的に先手を打たなくてはいけないと腹をくくったのだろうか。

1つの問題意識は、バイデン政権が米国で誕生しようとしていたことだ。日米株価はすでに昨年11月から急上昇していて、その時の材料は超大型の経済対策であった。私たちは、バイデン政権が1.9兆ドルの経済対策を2回、つまり3.8兆ドルも打つことを知っている。その効果は、米長期金利を上昇させる可能性が相当に高いと、当時から日銀はみていたのだろう。

もう1つは、コロナ禍を収束させる切り札としてのワクチン効果である。欧米や日本の国民が、ワクチン接種を受けて、その後に集団免疫を獲得すると、経済活動は正常化していく。

もしも、経済が正常化したところに、超大型の財政出動の効果が加われば、それが過剰な需要刺激となって、インフレ圧力となっていく。そのことは、米長期金利を一段と上昇させる圧力になると懸念された。ならば、日本は今までのYCCをどのように扱えばよいのか。そのように日銀は問題を設定したに違いない。

<副作用対策を支持する声>

日銀は、米長期金利が上昇していく中で、それにつられて日本の長期金利も上がっていくことを予想したのだろう。その時、日銀は長期金利の変動幅をどこかで抑える対応を迫られることになると予想した。2018年7月の方針であれば、0─0.20%というレンジが許容範囲になっていたはずだ。今回は、その範囲を改めて0─0.25%へとごくわずかだが、拡大させることに決めたことになる。そのことに何か特別の意味があるのだろうか。

筆者は、0.25%というレンジが問題なのではなく、小刻みに長期金利の上限を引き上げることで、金融機関に運用機会を与えて、長期金利の上昇を歓迎する声を作ろうとしているのだと考える。「超運用難」の時代だから、小刻みであっても利回りが稼げることは歓迎されるだろう。日銀は副作用対策に賛成する声を生み出したいと考えたのではないか。

理屈の上では、日銀が長期金利の上限を上方向に許容すれば、日米長期金利差は縮小する。しかし、実際は米長期金利の上昇幅はもっと大きく、金利差の縮小はほとんど意識されないだろう。金利差がむしろ拡大することで円安に向かう。

円安が進む中で、日本の長期金利がわずかに上がったとしても、誰も文句は言わないだろう。運用サイドは小幅な長期金利の上昇であっても、そうした副作用への対処を支持する。日銀にとっては、先々の長期金利の上昇幅の容認を考えるとき、味方になってくれる声を増やすことにつながるという訳だ。

<金利正常化のイメージ>

長期金利のレンジを広げていくことが、出口戦略かと問われれば、「ノー」でもあり、「イエス」でもある。日銀は、短期金利がマイナス金利で、長期金利を0%程度とする方針を長い間変えられないだろうと腹をくくっているから、わずかに長期金利のレンジのところにだけ自由度を与えようとしている。今回の措置は出口が見えないからこそ、新しく採用しようとしているのである。

反対に、もしも出口戦略を実行するのならば、その時の最大の障害は長期金利が予想外に上がるという波乱が起こることである。その波乱を制御するには、長期金利の変動幅を広げておき、その上で連続指し値オペのような武器を装備しておく方がよい。

そう考えていくと、日銀には今のところ出口戦略を始める意図はないが、その必要性が来た時の準備はしっかりしておくという構えを探ったのだろう。それに、マーケット・メカニズムとしても、長期金利がある程度フレキシブルに動く方が、経済・物価の実勢を反映していて健全だと言える。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:田巻一彦

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