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コラム:総裁選・衆院選のイベントで日本株が上昇する条件は何か=熊野英生氏

[東京 21日] - 日経平均株価は、中国恒大集団の資金繰り不安によって揺さぶられているが、9月初旬以降は菅義偉首相の総裁選への不出馬決定によって上昇局面に入ったようにみえる。そこには、今後の政策への期待感が込められているのだろう。

 9月21日、日経平均株価は、中国恒大集団の資金繰り不安によって揺さぶられているが、9月初旬以降は菅義偉首相の総裁選への不出馬決定によって上昇局面に入ったようにみえる。熊野英生氏のコラム。都内で4月7日撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

今月29日の総裁選では、誰が勝利するかわからないし、筆者の立場で誰かに肩入れすることもできない。各種報道では、次の首相が誰になるかに関心が集まっている。筆者は、本当は「誰が何をやりそうか」という点がより重要だと思う。

今回の総裁選が終わると、1)新しい内閣のメンバー、2)主要政策の発表──が予想されるだろう。

その上で、次の衆院選で与党が勝てるかどうか、という見通しがはっきりしてくる。株価は、いくつかのイベントを通過して「何をやりそうか」を見極めようとする。そこでの期待感が盛り上がっているうちは、日本株の上昇余地が十分にあると予想する。

<経済再開の可能性>

「なぜ、株価が急上昇したのか」を考えるときに、同時に「なぜ、これまでに株価は低迷していたのか」を考えることが重要だ。大きな理由は、景気回復の遅れだ。

2021年4─6月期の実質国内総生産(GDP)は、日本が前期比・年率1.9%上昇で、米国の同6.5%、ユーロ圏の同8.3%に大きく水を空けられていた。新政権の発足は、米欧へのキャッチアップを期待させる。

すでに、菅首相はワクチン・検査パッケージを利用して、行動制限の緩和に踏み切る意向を示している。10月に実証実験、11月に本格実施を行う予定で、具体的運用は、次の政権に委ねられる。この方針を成功させて、10─12月期の経済成長率を米欧に負けないように大きく押し上げることが期待される。

そこで難しいのは、慎重派を抑え込むことである。たとえ「第6波」の感染の波がやってきても、強制力のあるロックダウンへとかじを切らないことも必要だ。そのためには、行動制限を緩和しつつも、新規感染者が急増しないように、新しいルール作りを綿密に策定する必要がある。

<政治力の回復>

コロナ禍で多くの人は、当たり前のことが進まないことにいら立ちを覚えていたようだ。例えば、誰もがワクチンを早く打ちたいと思っても、打ち手が足りずに、ワクチン供給も追い付かないケースが続出した時期もあった。

また、日本は病床数が「世界一」なのに、入院できない人が大量に発生した。政府は、コロナ患者が入院できる病床を確保することが十分にできていないことを露呈した。これらは筆者だけでなく、多くの人が歯ぎしりして見ていたことだと思う。なぜ、政治は当たり前の感覚を優先して、不都合な仕組みを改革できないのかと──。

1つの例として、抗原検査キットを薬局で購入できない現状がある。この検査キットをじかに見る機会があったが、検査自体は数分で終わり、自分で確認できるところも便利だ。これが普及すれば、検査が大幅に増え、ゲームチェンジャーは「これだ」と思った。しかし、薬事法の規制で薬局では買えない。インターネット通販やドラッグストアでは「研究用という名目」で、1本当たり1000─2000円で売られている。

こうした現状を政治の力で変えることができるのではないか、との期待感も総裁選の実施に伴って醸成されていると思われる。

<デジタル化、中国との格差の裏側>

次の政権への政策期待は、アフターコロナの成長戦略にもある。持久的な経済成長は、民間企業の活力増大で実現される。その処方せんの一端は、すでに菅首相によって示されている。地球温暖化対策とデジタル化である。

この方針に反対する人はほとんどおらず、手順や方法論で意見の相違がある。日本は、中国に比べてデジタル化が格段に遅れている。日本では、業務をデジタルに置き換えたり、デジタルでマーケティングを進める発想が根強い。中国では、オンラインとオフラインを融合させるという方針の下、全てをデジタル化させて業務を一本化することが進んでいる。

ひところは、キャッシュレス決済の普及を政府が旗を振っていた。なぜ、キャッシュレスなのかというと、デジタルでサービス取引をしようとするときに、現金決済が足かせになるからだ。そうした次元でデジタル化を推進していては、中国との差は広がるばかりだ。

<温暖化対策>

エネルギー問題は、従来から、脱原発のところで対立が生まれやすく、どうしても議論が深まりにくかった。次の首相は、いずれ原発をフェードアウト(もしくは縮小)させるまでに、どのように代替エネルギーを拡充するかを示す必要があるだろう。

筆者の印象では、今回の総裁選ではそうした議論が少し深まった気がする。2050年のカーボンニュートラルは、菅首相の功績だと思うが、候補者はそれを既定路線にして、次のステージを模索している。この点は、非常に好感が持てる。

再生エネルギーは、コストが高いと言って、イノベーションを待ってから導入するわけにはいかない。民間事業者にもインセンティブを与えて、コスト低減を促す仕組みが重要になる。筆者は、固定価格買取制度をもう一度見直して、起爆剤にすると、民間投資が急増し、カーボンニュートラルに大きく前進できると考える。

<次の首相への期待>

次の首相が何を実行すれば、国民の期待に応えられるかという条件を列挙してみた。

まず、11月からの経済再開を成功させる。そこで感染再拡大を起こさない工夫が必要になる。次に、国民の多くがおかしいと思っている問題を早期に改善するため、メスを入れる。この点は、感染対策と大きく絡んでくるだろう。さらに、デジタル化や地球温暖化対策など、アフターコロナの成長ビジョンを推進する。

自民党総裁選後に臨時国会が召集され、次の首相が決まり、組閣によって政策を推進する顔ぶれが明らかになる。

そして、新首相によって衆院が解散され、新しい政策メニューを掲げて、衆院選で野党と戦うことになる。政治の世界の論理だけでなく、この先の日本の姿を見据えて政治が動いているとマーケットに映れば、相応の市場変動が起きるのではないかと想定している。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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