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コラム:オミクロン株の発現でもインフレ懸念が緩和されない可能性=熊野英生氏

[東京 29日] - 世界経済は、再び暗雲が立ちこめて、より複雑な様相になってきた。南アフリカ発の新型コロナウイルスの新たな変異株(オミクロン株)の広がりが警戒されて、各国株価が急落した。

11月29日、世界経済は、再び暗雲が立ちこめて、より複雑な様相になってきた。写真はシドニー の空港で、出発前の感染検査で集められた検体を運ぶ医療関係者(2021年 ロイター/Loren Elliott)

アフリカ以外の英国、ベルギー、イスラエル、香港など13カ国(11月29日時点)で感染者が発見され、水面下での感染拡大も懸念されている。変異株の感染スピードが速いことも不安を増大させている。株価下落は、収束しかけたコロナ危機が逆戻りすることへの警戒感からだ。

その一方で、変異株は原油先物価格を下落させる効果もあった。米WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は1バレル85ドルを付けたところから、60ドル台へと急落した場面があった。これで、各国の原油備蓄放出も最小限度で済む。原油反落がインフレリスクを冷やすと、米利上げ開始がいったんは遠のくことになる。

しかし、世界経済がうまく変異株に対処できなければ元も子もない。「一難去ってまた一難」である。

オミクロン株の問題点は、その影響力がまだ未知数なところである。ワクチンが効きにくいという見方は、本当だろうか。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は28日、バイデン米大統領に対し、オミクロン株について明確な情報を得るには約2週間かかるとの認識を示した。

<不安心理が増幅される構造>

筆者は現時点では、不安心理が実体よりも大きくなっているとみている。今年7月のデルタ株への不安感について、読者はまだ、覚えているだろうか。当初、デルタ株も各国株価を急落させた。日本では8月に新規感染者の増加が最高潮に達する手前の時期だった。その後、ワクチン接種が進んでいくと、コロナ感染は急速に減少して、デルタ株の不安は後退した。

10、11月には感染者数が大きく減った。デルタ株にワクチン効果は限定的という事前の見方が強かったが、やはり効果はあった。ワクチン接種率が60─70%まで上がると、感染は広がりにくくなった。

現在、日本の接種率は、76.5%(2回接種済み、11月27日現在)まで上がっている。G7(主要7カ国)諸国の中でも、カナダに次ぎ、日本の接種率は高い。接種率が高いことは、新変異株にもある程度は有効である可能性がある。

各国とも、今後の感染に備えて、ブースター接種(3回目の接種)を早期に行おうとしている。2回目の接種後、8カ月後という期間よりも手前で接種を急ごうという動きもある。この対応は、変異株への備えとしても、ある程度は有効だと考えられる。今年夏ごろに、デルタ株の懸念が強かったときの教訓は、当初は正体が分からないことで、不安感が増長したということだ。市場心理は、実態以上に大きく振れやすい。

今回のオミクロン株も、同様に正体がわからないことへの警戒感が大きいと思われる。「将来、何が起こるかわからない」という不安心理は本能的な反応で、いくら不安が大きくなり過ぎていると言葉で伝えても、不安に陥った人を説得できない面がある。だからこそ、株価には売られ過ぎが生じることになる。株価下落が実体経済以上に大きくなっているかどうかの見極めは実に難しいところだ。

経済活動において、以前と同じ悪化を避けられる工夫はある。欧米ではワクチン・パスポートの利用が広がっている。その分、経済下押しの作用は小さくなるとみられる。日本でも、ワクチン・検査パッケージの活用が始まれば、経済全般の下押しも極力回避されるだろう。こうしたウィズ・コロナの仕組みは、事前に警戒されたほどには、経済活動に悪影響を広げないための工夫になる。

たとえ株価がいったん崩れても、時間がある程度経過して、ウィズ・コロナ対応の有効性が確認されれば、株価は次第に回復していくだろう。

達観して考えると、今後も別の変異株が出現して、マーケットが身構えることはたびたび起きると予想される。しかし、変異株の正体解明が進み、ワクチン開発の展望が見えてくると、不確実性への耐久性も高まっていく。変異株への警戒に関し、過小評価はいけないと思うが、株価などをみていく上では、過剰反応があることも頭に入れておくべきだ。

<不安の先にあるインフレリスク>

次に、オミクロン株は本当にインフレリスクを低減させるだろうか。インフレリスクが低減することに関し、筆者はあまり自信が持てない。世界各国で変異株への警戒が強まり、そこで生産活動の混乱で生じる可能性はある。その供給制約が、各国の物価上昇に波及することも考えられる。

日本でも、すでに半導体不足が深刻化し、それ以外の部品・材料などでも入手が困難になる品目があった。需要面からだけでなく、供給面からインフレ圧力が生じている。米国の消費者物価の上昇要因をみても、入手が難しくなった新車・中古車の価格が上がっている。

さらに遠因として、米中対立によって、米国が新たな供給網を中国以外に求めようとしていることも、供給を不安定化させて、製造業などの部品調達を難しくさせているのだろう。

2021年に世界経済が回復してインフレ懸念が高まったことと、コロナ禍で供給不足が生じやすくなったことの間には、何らかの関係があったとみられる。オミクロン株の悪影響が地域ごとに表れると、今回も供給制約が生み出され、次のインフレ圧力になる可能性が高い。

<米利上げの行方>

米連邦準備理事会(FRB)は、変異株を警戒して、利上げ開始を遅らせるだろうか。もちろん、原油下落は利上げを遅らせる要因になりうる。しかし、インフレ圧力は原油だけでは決まらずに、変異株の悪影響がくずぶる中で高まる可能性もある。

例えば、米賃金上昇である。雇用統計の平均時給は、コロナの反動によって前年比5%台の上昇となった後、2021年7─9月も前年比4%台の上昇率で高止まりしている。労働市場からのインフレ圧力も依然として強い。

バイデン米大統領は、パウエルFRB議長の再任を決定した。これはFRBの利上げ路線を肯定したと理解できる。石油備蓄放出も、原油高をけん制する思い切った行動だ。来秋の中間選挙を前に、バイデン大統領は景気刺激よりも、生活者のインフレ不安の除去に重きを置くようになったと理解できる。

2022年7月以降の利上げの可能性は、オミクロン株の実体経済への影響がもっと大きくならない限り、後退しないとみられる。FRBにとって、テーパリングを完了させた後で利上げに移ろうという手順では、対応が遅すぎると市場に感じさせるだろう。だから、利上げ着手後のペースは速まることになる。

2022年は米利上げが進み、金利上昇が株価を乱高下させる年になると予測する。ひとまず、今年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での金利見通しによって、オミクロン株が経済に与える影響について、FOMCメンバーがどうみているのかを知ることができる。そこが来年の予測の出発点になる。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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