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コラム:個人のインフレヘッジ、価格転嫁企業の株購入で実現へ=熊野英生氏

[東京 22日] - 国内企業物価指数(CGPI)は、2022年1月の前年比がプラス8.6%である。消費者物価指数(CPI)は同0.5%(総合指数)とまだ低い。今後、時間が経過すると、川上から川下へと価格転嫁が進んで行き、CPIも8%近くまで伸び率が高まっていくのだろうか。

 国内企業物価指数(CGPI)は、2022年1月の前年比がプラス8.6%である。消費者物価指数(CPI)は同0.5%(総合指数)とまだ低い。熊野英生氏のコラム。写真は都内で2021年12月撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

いや、価格転嫁ができない企業もあるから、8%近い物価上昇率は企業収益を圧縮するかたちでCPIの上昇には及んでこないという見方もある。今後、CPIは伸び率が8%近くまで上がるのか、それともゼロ%近くのままで据え置かれるのか、いずれの見方が正しいのだろうか。意外に知られていない「物価とは何か」を改めて考えてみたい。

<企業物価は合成指数>

まず、CGPIの前年比プラス8.6%とは何なのかを説明してみたい。この物価は、CPIとは構造が違う。CPIは、小売業など「BtoC」の取引で販売価格が平均していくらになるかを調べたものだ。末端価格と言い換えてもよい。

わかりにくいのはCGPIの方だ。川上から川中、そして末端価格の手前の卸値のところまでの取引を調べている。「BtoB」の取引は、多段階になっていて、平均すると、川上から川下までを混ぜたものになる。

CGPIの資料をみると、需要段階別という項目がある。そこでは、2022年1月に素原材料は前年比プラス56.6%、中間財が同15.3%、最終財が同4.2%となっている。それを取引ウエイトで加重平均すると、国内需要財価格(同15.4%)になる。

ここから輸入品を除くと、おおむねCGPIが導かれる。つまり、企業物価とは、いくつかの流通段階の取引価格を合成した物価なのである。

日本の場合、素原材料は輸入品が多く、足元では資源インフレの影響を色濃く受けて高騰している。素原材料の同56.6%という高い伸びはそれを反映している。その上昇は、中間財の取引価格を押し上げるが、中間財は市場規模が大きい。

企業物価統計の取引ウエイトでは、素原材料が全体の10.0%に対して、中間財は53.3%と5倍以上である。素原材料の前年比56.6%は、5倍以上の規模の中間財市場に吸収される。

寄与度を計算すると、素原材料が5.7%(=56.6%x10.0%)、中間財は8.7%(=15.3%x53.5%)となる。中間財の上昇幅が素原材料の上昇幅を上回っており、中間財の分野では価格転嫁はできていると考えられる。

問題は、次の最終財のところだ。寄与度は1.5%(=4.2%x36.5%)と小さく、中間財の値上がり分をあまり転嫁できていると言えない。

<輸出という活路>

最終財の市場では、コストアップに対してどう対処しているのだろうか。少し細かく分析してみると、最終財の市場にいる企業は、仕入価格(売上原価)に対して販売価格(売上)を値上げすることで利益(粗利=売上-売上原価)の圧縮を回避しようとしている。売上原価/売上=75%だとすると、仕入価格8.7%に対して、販売価格を6.5%(=8.7%x75%)以上に引き上げる必要がある。

実は、大企業・製造業の場合、国内だけでなく、輸出を手がけているところが多い。2022年1月の輸出価格は前年比12.5%も上昇している。輸出比率が30%だとすると、輸出への価格転嫁で3.8%分(=12.5%x30%)をカバーしている。

だから、6.5%のコストプッシュのうち3.8%程度は輸出で吸収している。利益圧縮は起こっていると思えるが、その部分は国内販売・輸出の数量増でいくらかカバーしていることになる。

<消費者段階への価格転嫁>

CGPIの中で、末端価格のところに一番近いのは、最終財のうち消費財である。2022年1月は前年比プラス4.4%になる。これが、CPIへのコストプッシュ圧力となる。

ここで細かくCPIをみると、財価格(除く生鮮食品)は2022年1月の前年比が3.5%まで上昇している。小売業の売上原価率が70%だとすれば、消費財4.4%x70%=3.1%となり、価格転嫁はかなりできていることになる。今後、中間財のコストプッシュ圧力が消費財コストをさらに上げていけば、CPIにも追加的な価格上昇が起こるだろう。

ここまでの説明は、CGPIの前年比プラス8.6%が、そのまま今後のCPIを同8.6%へと押し上げることではないと理解してもらえる解説にもなる。

そして、CPIが前年比プラス0.5%からさらに上昇するには、サービス価格(1月は前年比マイナス2.7%)が伸び率を高めていく必要があることもわかる。

このサービス価格には、2021年4月の携帯電話料金プランの押し下げが大きく寄与している。通信費を除くサービス価格は、1月に前年比プラス0.3%である。

日銀が目指す2%のCPI上昇率の達成には、このサービス価格が安定的に伸びていく必要がある。おそらく、2022年4月には、通信費の下押しが一巡して、消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比はプラス2%に急接近するだろう。

財価格が3─5%の伸びを続けて、サービス価格も1%前後の伸びになれば、それらを加重平均して2─2.5%のCPIになるだろう。

しかし、安定的にサービス価格がプラス1%以上になるためには、労働コスト(賃金)も1%以上の上昇となることが条件になる。2%のCPI上昇は岸田文雄政権の賃上げの成果にかかっていると言える。

<価格転嫁は進んでいる>

最近では「CGPIとCPIの伸びには大きな差があり、これは価格転嫁が進んでいない証拠だ」という見解を耳にする。わかりやすい説明だが、正確ではない。価格転嫁が進めば、CGPIとCPIの伸び率がイコールになるわけではないことは、今まで述べてきた通りだ。

読者に気付いてほしいことが、もう1つある。価格転嫁が順調に進めば企業収益も増えるということだ。米企業の最終利益は2021年に驚くほど伸びている。これはインフレの成せるわざである。米CPIが前年比プラス7%台で伸びているのだから、企業段階ではもっと伸びているはずだ(1月の米生産者物価指数は前年比プラス9.7%)。その効果が企業収益を後押ししている。

家計についても、生活コストが上昇しているとき、もしも何かインフレ・ヘッジをしようと思えば、価格転嫁を行って収益を伸ばしている企業の株式を保有するという対処法がある。日本企業でも、川上部門の素材業種や食品などは積極的に価格転嫁を行っている。最終財の分野の企業でも、輸出比率が高い加工業種では、相対的に価格転嫁を進めやすいと考えられる。

インフレ時代には、従来とは違った発想で生活防衛を考えていく必要があると思う。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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