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コラム:難易度高いYCC撤廃、日銀はパラダイム・チェンジの覚悟必要=熊野英生氏

[東京 26日] - 間もなく新しい日銀総裁の名前が明らかになる。その人物が取り組むべき金融政策の正常化は、極めて険しい道のりになりそうだ。もしかすると、任期の5年間では足りず、10年以上を要するかもしれない。

 間もなく新しい日銀総裁の名前が明らかになる。その人物が取り組むべき金融政策の正常化は、極めて険しい道のりになりそうだ。熊野英生氏のコラム。写真は2016年9月、都内の日銀で撮影(2023年 ロイター/Toru Hanai)

そこで、次の焦点であるイールドカーブ・コントロール政策(YCC)の撤廃について考えたい。そのスキームを見直すことがいかに難しいかは、昨年12月と今年1月の会合で改めてよくわかった。日銀自身ももがき苦しんでいると思える。

まず、昨年の12月日会合では、長期金利の変動幅の上限を0.25%から0.50%に引き上げた。本当は上限撤廃でもよかったが、それでは長期金利が跳ね上がる。しかし、上限を0.50%にした後も、8、9年などの年限での上昇圧力が働き続ける。やむを得ず指し値オペで10年のところの金利上昇圧力を抑えるしかなかった。

1月会合では、隠し玉として共通担保資金供給オペの10年までの長期化を決める。金融機関がオペで得た資金でより金利水準の高い年限を買ってくれるから、自然とイールドカーブのゆがみは解消されると日銀は考えた。これが、現在までの金融政策運営である。

<徐々に出口へ>

共通担保オペの長期化という対応ならば、金融機関が長期国債を買ってくれるので、日銀自身が買い切りをしなくても済む。それでも、日銀のバランスシートは膨らむ。指し値オペは、日銀が決めた上限を超えると、いくらでも長期国債を購入しなくてはいけない。その点、共通担保オペはいつでも止められる。必要なときにだけ、長期の共通担保オペをオファーすればよい。いつでも長期金利のコントロールを弱められる点で、1月の措置は今までのYCCの縛りを緩めることにつながる。

しかし、長期金利が日銀の決めた上限を上回って上昇しようとする限り、長期オペを打ち続けなくてはいけない。日銀のバランスシートは膨らみ、長期資金が供給され続ける。日銀は、意図せざる量的緩和を続ける羽目に陥る。インフレ率が高まるほどに日銀の資金供給は増えるというジレンマから逃れるには、やはり、YCCの撤廃を決めて長期金利コントロールを停止するしかない。

筆者は、共通担保オペの長期化が決まったとき、これは欧州中銀(ECB)が緩和ツールとして用いた長期オペではないかと思った。欧米中銀が引き締めをしているとき、日銀が逆にECBが使った長期オペを導入するのは本当に倒錯していると感じた。

<金利上限は上がる>

ここまでの説明で、1月会合の決定は日銀が長期金利コントロールをすることのジレンマに対して、本質的解決になっていないことを伝えた。日銀が目先のYCCのゆがみをフラットに変えようとすると、どうしても資金供給を増やさなくてはいけなくなる。

YCCの撤廃論が浮上してくるのは、世界的なインフレの中で日本の長期金利が上昇することに介入しようとすると、逆に追加的に緩和強化をしなくてはいけなくなるから、日銀はその枠組みを放棄したいのだろうと多くの人が考えるからだ。

セカンド・ベストの対応は、自然体の長期金利水準を超えるところまで長期金利の上限を引き上げるしかない。現状であれば、10年の上限を1%か、1.5%へと引き上げることになろう。

しかし、そこまで長期金利が上昇してしまうと、政府の利払い費が膨らんでしまう。企業の資金調達コストも増える。それに10年の上限を1%にすると、日銀がいよいよ出口に向かっているというメッセージになりはしないかという心配を日銀自身が抱く。日銀がまるで長期金利上昇を誘導しているのではないかとは、絶対に見られたくない。

筆者は、次期日銀総裁の下で、長期金利の上限を0.75%か、1%まで引き上げていくことは十分にあると予想する。日本のインフレ率は2023年度になっても2%を超えていく可能性があるからだ。自然体の長期金利はしばらく上昇していくことが背景にはある。

<パラダイム・チェンジ>

日銀が長期金利上昇を容認すると、政治的に日銀批判が強まることは間違いない。それを次期総裁がどう説明していくかは、大きな課題だ。

そのときに日銀はYCCの限界を説得しなくてはいけない。黒田体制の下では、長期金利を完全にコントロールできる前提でYCCを決めた。

しかし、2016年以降の経験で明らかになったことは、本格的に長期金利の上昇圧力が発生すると、完全なコントロールは難しくなるという点だ。この「完全にはコントロールできない」ことを日本社会全体に理解してもらわないと、長期金利の上限をさらに引き上げることは困難だろう。いわば、黒田体制からのパラダイム・チェンジである。

昔から金融政策の理解として、金利操作は自然体の金利水準に合わせて政策金利を動かすものだとされてきた。マーケット・プライスへのアコモデーション(合わせて動くこと)を人為的に行っている。この人為的とは、コントロールではなく、少し遅らせるか、少し強めるかという範囲でしかない。ましてや、上昇する金利上昇圧力を長期にくぎ付けして我慢することは無理である。マーケットとはそうしたものなのだ。

この感覚を社会全体で共有するのは難しい。政府の願望は、日銀が政府債務の利払いコストを可能な限り小さくすることだ。日銀は、その方針を黒田東彦総裁の下で実行してきた。そして、今、それが限界に来ている。それを認めてもらうことが次期総裁の役割である。

日銀という組織は、一度自分たちが決めたことが失敗だったと認めることはできない傾向がある。前総裁の政策は、誤りがあったとは決して言えない。しかし、4月以降、事実上、黒田路線からの軌道修正は不可避である。この仕事は本当に次期総裁にとってつらいものとなるだろう。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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