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コラム:流動性相場の終幕告げるのはインフレ懸念=熊野英生氏

[東京 1日] - 米長期金利の上昇によって、米株価が崩れてしまった。株高が米連邦準備理事会(FRB)の超金融緩和によって生み出されているとすると、長期金利上昇はその緩和効果が及ばなくなることを象徴する変化である。ロジックはこうなる。

 米長期金利の上昇によって、米株価が崩れてしまった。株高が米連邦準備理事会(FRB)の超金融緩和によって生み出されているとすると、長期金利上昇はその緩和効果が及ばなくなることを象徴する変化である。熊野英生氏のコラム。写真はドル紙幣。2016年11月撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

FRBは、バイデン政権の積極的な財政出動を間接的に国債買い入れなどバランスシート拡大によるマネー供給で支えている。本来ならば、国内貯蓄の乏しい米国は財政拡張によって長期金利上昇を起こし、財政効果が減殺される。教科書的に言えば、クラウディング・アウト(公的資金による押しのけ効果)という副作用である。その副作用を起こさないように、FRBは大量にマネーを供給して、長期金利を低下させる。

そのマネーの一部は、先々まで政策金利が上がらないことを見越して、株式市場へと流れ込む。債券も株式も金余りの中で買われて、さらにドルも海外へと流れてドル安になる。このメカニズムが、コロナ禍で傷ついた米国経済を回復させる刺激を生み出す。流動性相場は人為的に生み出されている。

<インフレ懸念で逆回転>

米株価は、流動性相場の中でどこまでも上がり続けるかに思えたが、ここにきて限界が見えてきた。原油など商品市況が上がり、世界的に製造業の活動が活況になってきたことで、インフレ圧力が生じたことだ。予想インフレ率は上昇して、FRBのテーパリング(国債購入額の減額)がいずれ始まるという観測だ。確かにFRBは2023年頃までフェデラルファンドレート(FFレート)をゼロ%に据え置き続けるかもしれないが、どこまでもマネーを拡張させる方針は修正する可能性はある。

そのタイミングは、早ければ年内のどこかにくるという観測もある。そうした思惑は、マネー拡張の時間軸を無限大からもっと手前で縮小するめどへと修正を迫らせるものになる。債券は買われにくくなり、インフレ懸念を意識して長期金利は上がる。株価上昇も不安定に変わっていく。流動性相場の終了が意識され始める。

<パウエル議長のけん制球>

FRBにしてみれば、もっと長く流動性相場が続いてほしいと思ったことだろう。議会証言でパウエル議長は、インフレ懸念は長続きしないとし、金融政策の路線変更はないと、思惑の打ち消しに奔走した。焦点は、インフレ懸念がどこまで広がっていくかである。

長期金利の上昇は、物価連動債利回りとの格差である予想インフレ(BEI)の拡大による効果もある。インフレ懸念が、今後強まっていけば、パウエル議長の意図に反して、流動性相場の巻き戻しが進む可能性はある。

この点は、金融緩和の限界と言ってよい。人為的な相場コントロールには限界があり、金融政策はしょせん「時間を買う」という時限的な影響力の行使しかできないのだ。

<株価バブルはつぶれるか>

では、米株価は過大になった部分が完全につぶてしまうのか。この点について、筆者は自信をもって語ることができない。

なぜならば、米経済のファンダメンタルズも良くなっている部分があり、米株価上昇がそうした実体によって支えられる可能性も十分あるからだ。米長期金利上昇は、予想インフレ率の上昇だけでなく、物価連動債利回り=実質金利の上昇による部分もある。

この実質金利上昇は、潜在成長率の上向きの変化を反映するものである。実体面でも、製造業は改善してきており、企業業績も単に財政刺激ではなく、生産性上昇を伴って上向きになっている。

名目実効ドルの指数でみても、2020年はコロナ禍でドル安がずっと続いてきたが、2021年1月初めに大底をつけて反転したようにも見える。ドル/円レートが円安方向に緩やかに転じたのも、そのせいだと考えられる。

ナスダックは、コロナ禍でのデジタル化の進展を強く織り込み過ぎているので、不安定化のリスクはあると思うが、ダウなどは相対的にそうした傾向は強くない。米長期金利上昇に反応して、全ての株価指数が下落し続けるかどうかはわからない。

<コロナとの闘いの出口における政策>

大規模な金融・財政政策は、コロナが実体経済を悪化させた状態を建て直すために動員されている。最近になって見えてきた課題は、ワクチン接種が進んで経済が回復するとしても、しばらくは金融・財政政策を止められないという問題だ。すると、実体経済が過熱しても、積極財政と過剰流動性を放置することになるから、インフレ懸念が強まる。それに急ブレーキを踏むと株価は崩れやすくなる。そうした出口戦略をFRBは描き切れていない。 

今後、ワクチン接種の効果が具体的に表れてくると、次の課題として、金融・財政政策の出口が問題になる。時間軸を新たに設定して、民間部門に対して予見可能性を示しながら少しずつ緩和度合いを縮小させることが必要になる。おそらく、インフレ懸念が強まっていくと、2021年中のどこかでFRBは新しい方針の設定をすることになるだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:田巻一彦

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