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コラム:コロナの出口戦略、ワクチンパスポートが重要な手段に=熊野英生氏

[東京 31日] - 新型コロナワクチンの効果によって日本の株価は上昇するだろうが、反対にワクチン接種が遅れることは株価にマイナスとなる。

 5月31日、新型コロナワクチンの効果によって日本の株価は上昇するだろうが、反対にワクチン接種が遅れることは株価にマイナスとなる。4月27日撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

では、いつごろワクチン効果が表れて、その恩恵が大きいのはどこだろうか。個人消費の統計を見る限り、外食・宿泊・レジャー・交通などに需要減少は集中している。ワクチン効果は、対面サービスを回復させて、人の移動を活発化させるだろう。コロナ禍の長期化によって、レジャーを楽しみたいという消費者の欲求が抑えられている分、自由な活動が解禁されると、消費者は一気にレジャー消費を増やすだろうという見方もある。筆者も、レジャー需要が水面下に蓄積されていて、その潜在需要は巨大だと推察する。

しかし、いつになれば、ワクチン効果が顕在化するのかは、よくわからない。例えば、今年10月1日から社会活動が正常化されると政府が宣言するとは考えにくい。ありそうなのは、新規感染者数が大幅に減少し、感染のステージが落ち着くにつれて、段階的に制限が緩和されるというシナリオだ。いつ時点で正常化できると宣言する展開は可能性が低い。

今後、ワクチン接種が高齢者から16─64歳の年齢層へと広がっていき、感染状況次第でレジャー消費は変わっていくことになるだろう。

<早く導入すべきワクチンパスポート>

筆者が将来を見通して思うのは、すでにワクチン接種を済ませた人が段々と増え、レジャー消費を楽しみたい人が多くなったとしても、政府や自治体がレジャー自粛を呼びかける展開がありうるということだ。

すでにワクチンを接種した人であっても、接種していない人と交流すると感染させるリスクが残る。ワクチンは発症と重症化を防止するが、感染自体を完全に抑えられるか効果がはっきりとしない。ワクチンを接種しても、無症状の感染者になり、接種していない人々にうつす可能性が残る。

それに対して、接種済みの記録をもって、その証明書(ワクチンパスポート)を使うことができれば、接種済みの人達がグループになって、観光や飲食を以前のように楽しむことができる。パスポートを使って、利用者をグループ化すれば、その消費振興効果は大きくなるだろう。反対に、ワクチンパスポートの利用が行われない場合は、ワクチン接種が進んだとしても、消費回復は遅れてしまう。当然ながら、株価へのプラス効果も顕在化が遅れるだろう。

<海外からのニーズ>

航空業界では、ワクチンパスポート検討の気運が先行している。接種記録を紙ベースでやり取りすると、マンパワーが大きくなり、事務が回らなくなることが見えている。従って、電子媒体でデータを扱い、QRコードのような形で確認を行う手法が検討されている。

海外からの旅行者の受け入れ(インバウンド)解禁のときは、内外でのワクチンパスポートの共有化が必要となってくる。つまり、政府はこうしたシステムづくりをいずれ実行しなくてはいけないことになる。

ならば、国内向けにもワクチンパスポートを先行させて、コロナ感染のステージが大きく改善しない中であっても利用できる道を開いてもよいのではないか。

<ワクチン接種完了で旅行・カラオケも>

65歳以上の高齢者の接種は7月末までに完了する、と菅義偉首相は強調する。1日当たり100万回の接種が達成できたと仮定すると、筆者の計算では12月半ばに16─64歳の人達が一応接種を済ませることができる。

すると、今年8月以降には3600万人の高齢者ががワクチンパスポートを使って、団体旅行に参加することが可能になる。カラオケの集団利用や、夜間における飲酒を伴った会食も問題でなくなる。たとえ感染者が十分に減少しない段階であっても、ワクチンパスポートを使って65歳以上のグループをつくれば、困窮するサービス業を救うことになる。

ただ、高齢者だけに自由な社会活動を認めると、それ以外の人達との間で差別的な扱いになるから、それは問題だという批判が起こるだろう。結局、この差別的な扱いを問題視すると、サービス業の事業者の経営破綻が増えることになりかねない。ワクチンパスポートの利用に踏み切るときは、政府が強い決意を持って、サービス業を救済すると表明する必要がある。

<重要性増す出口戦略>

今後を見通すと、コロナ感染がワクチン接種の進ちょくに伴って自然消滅すると漠然と考えていては、経済回復が相当に遅れると予想される。ワクチン接種が2021年12月半ばまでに円滑に終了できればよいが、筆者は1日平均100万回の接種を達成できずに接種完了は遅れる公算が高いとみている。

政府は、そうしたリスクシナリオを含めて対処法を検討し、たとえ接種が遅れた場合であってもサービス業に過度のストレスを与えない方策を打っておくべきだ。

コロナ感染が完全に収束して集団免疫に至らなくても、消費水準が回復するプランを検討することは「Withコロナ」の政策にもなる。ワクチン接種の進ちょくを軸にして、ワクチンパスポートを使いながらコロナ不況を抜け出していくプランは、まさしく出口戦略となるだろう。おそらく出口戦略がない場合は経済低迷が長引き、コロナ禍の経済の後遺症も深く残ることになる。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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