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コラム:対ロ制裁、ロシア継戦能力圧迫 世界のインフレ高進=熊野英生氏

[東京 22日] - ロシアに対する経済制裁は、どこまで効果を上げているのかは見方が分かれている。抜け穴があるから、実効性は低いのではないかという見方がある。プーチン政権は、政治的失敗が許されないので耐え抜くだろうという根拠のよくわからない意見も多い。そこで、もう少し詳細に点検をしてみることにする。

 4月22日、 ロシアに対する経済制裁は、どこまで効果を上げているのかは見方が分かれている。写真はロシア国旗と制裁のイメージ。2月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

<金融制裁の抜け道>

まず、ロシアの主要7行を国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除してドル決済を大幅に制限したことはどうだろうか。当初は、ロシア主要行の首位であるズベルバンクと3位のガスプロムバンクを排除の対象から除外した。米英両国は現在、これらを含めて資産凍結を行っている。

日本は5月12日からズベルバンクとの取引を禁止するが、それまではズベルバンクなどにコルレス銀行を振り替えると、貿易取引は継続可能と思われる。足元では原油高騰によって、ロシアの輸出代金は増加していると考えられる。

また、ロシアの輸出先には、中国、トルコ、ベラルーシなどの親密先がある。西欧や日本が、対ロシア輸入額を縮小させても、ロシアは親密先の国を経由した輸出によって、西側への一定の輸出を確保している可能性がある。貿易実務に精通している関係者は、そのルートでの日本からロシアへの輸出も行われていると述べている。

<外貨準備凍結の効果>

一方、対ロシア制裁において目立った効果が出たのは、ロシアを事実上のデフォルトに追い込んだ点だ。米国は、ロシア中央銀行の資産凍結を2月28日に決めた。他の主要7カ国(G7)諸国はそれに追随し、スイスも従った。

各国の外貨準備は、ドル資金が米中銀、ポンドは英中銀と通貨ごとにそこの中央銀行に預けられているから、G7によるロシア中銀の資産凍結は、保有している外貨準備を使えなくすることに等しい。3月13日にロシアのシルアノフ財務相は、6400億ドルの外貨準備のうち、約半分の3000億ドルがこの措置で使えなくなったことを明らかにした。

外貨準備は、国の対外債務支払いに充てる返済資金である。だから、外貨準備を凍結されたことで、ロシアはドル建て国債の対外支払いが一気に苦しくなった。

ロシアのドル建ての利払いは、3月16日に予定されていた1億1700億ドル分の代金が支払われた。3月31日までの利払いは順次履行された。しかし、4月4日分の元利払い21億2900億ドルは、ロシア政府がドルで支払おうとしたものの、米財務省がコルレス銀行の米銀に送金の許可を与えなかったとされる。ロシア政府は、ルーブル建てでの支払いを試みたが、それも拒否される。ルーブル建てで支払うことは、当初の契約を変更するので、契約不履行にあたる。

大手格付け会社の1社は、外貨建てロシア国債についてデフォルト近辺の格付けを部分的なデフォルト(選択的デフォルト、SD)に引き下げ、その後、格付け付与を取り止めている。欧州連合(EU)がロシアの法人などに対する格付けサービスの提供を禁止した措置に従った対応ある。他の格付け会社も格付けを停止した。

<ルーブル安を巡る戦い>

ロシアの信用低下は、広がりをみせている。国営ロシア鉄道の債券は、3月14日の利払い期限に支払いができなかった。これも、支払い業務を仲介する欧米金融機関が欧米政府の要請に沿って、ロシア鉄道への協力を拒んだせいである。また、ロシアのシルアノフ財務相は、年内のロシア国債発行を停止する方針を明らかにしている。

これら信用低下を示す事件は、ルーブルの通貨価値を下落させる。SWIFTからの排除が決まった2月26日から3月7日にかけ、ルーブルの対ドル・レートは著しく下落した。3月7日は1ドル150ルーブルと、ウクライナ侵攻前の80ルーブル前後に比べて4割超の急落だった。しかし、ルーブルは、3月末にかけて再び80ルーブル台に戻ってくる。

この背景には、ロシアの輸出管理があった。ロシアの輸出企業は、受け取った代金の80%を3営業日以内にルーブルに替えるように義務付けられている。西欧から天然ガスの代金を受け取ったガスプロムバンクは、支払われた外貨建ての代金をすぐにルーブルに換金するので、それが為替介入と同じように、ドル売り・ルーブル買いになってルーブル安に歯止めをかけている。ガスプロムバンクはSWIFT排除の対象外になっている。

ロシア中銀は、2月28日に通貨防衛のために政策金利を9.5%から一気に20%へと引き上げた。ところが、4月8日にはルーブル安が一服したこともあって、政策金利を17%へと引き下げている。通貨防衛のための備えを緩めたということである。

ドルをルーブルに交換させる指導は、1998年8月にロシアがデフォルト懸念に陥ったときに使った手法の再現である。当時、ルーブルは6割も価値が下がった。当時のプリマコフ首相は、ガスプロムに対して、原油などの輸出代金を得たときは、その75%をすぐにルーブルに交換するように義務づけた。今回も、プリマコフ氏が編み出した手品をもう一度使ったというわけだ。

ルーブル安は、輸入物価を高騰させて、プーチン政権に対するロシア国民の不満を高めさせる作用がある。今回、このルートによってプーチン政権の求心力を失墜させる作戦は、うまくいかなかったということになる。

<ロシアの戦費負担>

このように見ていくと、対ロシア制裁は予想外にうまく行っていない印象になる。だが、筆者は制裁の効果が時間をかけて効いていると考えている。

注目したいのは、ウクライナへの軍事侵攻に巨額の費用がかかり、侵攻の長期化によってその負担が侵攻の継続を難しくしている点だ。軍事専門家の中には、ロシアが15日間で作戦を終了させるつもりだったとの声もある。

2008年のグルジア侵攻は10日間、2014年のクリミア併合は3週間で一段落している。ところが今回、ウクライナの激しい抵抗に遭遇し、間もなく侵攻から2カ月を迎えるが、停戦や全面和平のめどは立っていない。

ロシアの戦費については、西側で推計したデータがある。英調査機関のCIVITTAによると、1日当たり200─250億ドルのコストがかかっている。この中には、兵器や人的な損害が含まれているようだ。ロシアの2020年の国防支出は617億ドル(ストックホルム国際平和研究所)とされる。先の1日あたり200─250億ドルが、侵攻を継続する費用そのものではないとしても、ロシアの負担が長期化によって極端に重くなっていることは想像に難くない。

こうした巨額の戦費は、ロシア政府の財政支出で賄われる。そのファイナンスは、ロシア中銀が手当てをすれば可能だという見方も成り立つ。しかし、ロシアの侵攻継続に必要な物資の中には、海外から調達せざるを得ないものもあるだろう。

それに財政支出の膨張は、ロシア国内にインフレ加速をもたらし、ルーブル安の可能性を高める。ロシアが侵攻を継続するコストに耐えられなくなる日は、それほど遠くないと感じられる。

<世界に拡散されるインフレの波>

ウクライナ侵攻の経済的負担は、ウクライナを支援している国々の側でも巨大化している。世界的なインフレの中で、生産能力に結びつかない軍事支出が増加することは、インフレをさらに加速させる要因になる。

巨大な軍事支出に対して、各国は金融引き締めで対応せざるを得なくなる。ウクライナ侵攻は、ロシアが侵攻を長期化させるほど、世界のインフレを加速させて、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めを強化させることになるだろう。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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