June 16, 2020 / 7:14 AM / 20 days ago

コラム:株価なぜ上昇、市場が発するシグナルを読む=嶋津洋樹氏

[東京 16日] - 株式相場は3月下旬以降、ほぼ一本調子で上昇を続けてきたが、ここ最近は激しく上げ下げを繰り返し、足元で息切れの兆しもある。報道によると、直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)で景気の先行きに慎重な見方が示されたこと、米国や中国、インドなどで新型コロナウイルスの感染が再び拡大していることなどが材料視されたようだ。

 6月16日、株式相場は3月下旬以降、ほぼ一本調子で上昇を続けてきたが、ここ最近は激しく上げ下げを繰り返し、足元で息切れの兆しもある。写真は2018年10月、東京で撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

もちろん、そうした指摘に新鮮味はなく、材料とはなりにくい。多くの投資家が高値への警戒感を抱いていたところへ、ちょうど利益確定に踏み切る良い理由がそろったというのが現実に近いのではないかと筆者は理解している。

<原油連動続く株価>

もっとも、株式相場がすぐに上昇基調を取り戻すかと問われれば、答えは「そう簡単にはいかない」ということになる。良くてもみ合い程度で、今年の安値を試しに行くリスクも無視できない。そもそも今回の株高は4月の当コラム「一段の大幅調整避けられず、市場は『コロナ禍』未消化」で指摘した通り、主に原油市場に連動したもの。新型コロナの感染拡大の影響は一部しか織り込まれていない可能性が高い。

実際、世界全体の株価動向を示すMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)で直近安値の3月23日から直近高値の6月8日までの業種別の騰落率をみると、エネルギーがプラス71.0%と、それに続く資源(プラス50.0%)を大きく離してトップ。もちろん、同じ期間のMSCI ACWIの伸び(プラス41.6%)も大幅に上回った。

原油価格の代表的な指標のWTI先物価格が6月8日に石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要な産油国で構成する「OPECプラス」の減産延長の決定を受けて、一時1バレル=40ドル台に乗せる一方、その後、サウジアラビアなどが自主的な減産を打ち切ることを嫌気して調整したことも、直近の株式市場が主に原油市場に連動していることを示すだろう。

<なお説明しきれない株価の戻り>

そもそも、MSCI ACWIの年初来のリターンは6月8日まででマイナス3.8%。6月12日まででもマイナス8.6%である。世界経済の落ち込みが「戦後最悪」などと表現されているのと比べると、株価は堅調とさえ言える。

こうした株式市場と実体経済との差異については、国際通貨基金(IMF)が10兆ドルに上ると指摘した各国の積極的な財政政策や、それと連携した各国中銀の大胆な金融政策が原因との見方も少なくない。

実際、各国の主要株価指数の年初来騰落率を比べると、財政政策の協調に手間取る欧州連合(EU)や、ファンダメンタルズが相対的に脆弱だとされる新興国の多くが2桁以上のマイナスで苦戦。EU内でも財政赤字や経常収支で示されるファンダメンタルズが強固なドイツと、脆弱なフランス、イタリアとで大きな差があった。

このことは確かに、株式市場が各国のマクロ経済政策に支えられていることを示すが、それはすでに公表されたものではなく、今後の追加対策に対する期待に支えられている可能性が高い。今回の株式市場の調整をあえてFOMCと結びつけるとすれば、それは慎重な景気見通しではなく、追加的な政策の打ち止め感が原因といえるだろう。

また、新型コロナの感染拡大がもたらす新たな需要や、そこに生じる付加価値を筆者が十分にとらえきれていないことも考えられる。

たとえば、既存の経済指標では、ネット検索や無料通話アプリなどの付加価値を適切に把握するのは困難だ。在宅勤務や「ステイホーム」の拡大は旅客需要を減少させるが、その代替となる会議アプリや動画配信などの多くは非常に低価格で作成され、無料で提供される。結果として、現行の統計では需要の大幅な喪失として表現される。

一方、株式市場はそうしたサービスを提供する企業を高く評価する傾向にある。このことは、6月12日の時点のMSCI ACWIのうち、情報通信のみがプラスを維持していることと整合的だろう。

<マクロ/ミクロ両面で鈍る統計の精度>

さらに、急激な景気の落ち込みと生活様式の変化が経済統計の精度を大きく傷つけている可能性もある。実際、都市封鎖で経済統計を作成できないということは世界中で発生している。作成できても、元となるアンケートの回収率が低下したり、対面の調査手法をネットに切り替えざるを得ないということも起こっている。その影響は、日本の法人企業統計や米国の雇用統計など投資家の注目度が高く、国の政策を左右するものにまで及んでいる。

同じようなことは企業の決算にも当てはまる。東京証券取引所によると、上場企業が5月末までに開示した2020年3月期決算で、当面の業績予想を公表したのは43.6%と、前年の96.2%からほぼ半減。米国や欧州でも業績予想の取り下げが相次いでいる。

一般的に言って、危機的な状況下にもかかわらず、いつも通りにアンケートに協力したり、スケジュール通りに業績を公表できる企業は恵まれた環境にある可能性が高い。つまり、新型コロナの感染拡大のさなかに入手できる経済指標や企業業績は元々、上方バイアスがかかっていると言えるだろう。

<原油離れも警戒解けず>

次回のOPECプラス会合が11月30日―12月1日に予定されていることを踏まえると、原油価格を追加的に押し上げる材料は当面、期待できそうにない。結果として、原油相場が株式市場に与える影響は徐々に落ち着き、経済や企業のファンダメンタルズに注目が集まるだろう。

しかし、上述した通り、株式市場は追加的なマクロ経済政策を期待しつつ、実体経済を過大評価している可能性が高い。たとえ、新しい生活に伴う需要が期待できるとしても、今の水準から株式市場を一段と押し上げるのは至難の業だろう。新型コロナの感染第2波があるとすれば、なおさらそうだと筆者は考えている。

本稿執筆中の6月16日には、トランプ米政権が1兆ドル規模のインフラ投資を準備していると報じられたことで株価が急騰。追加的なマクロ経済政策に対する株式市場の期待の強さをあらためて見せつけられた。しかし、そうした政策はどちらかというと従来、米民主党が求めていたもので、トランプ米政権は給与減税や中小企業支援などに焦点を当てていたうえ、当面は既存の政策の効果を見極めたいとの姿勢さえ示していた。

米大統領を控え、「何でもあり」になりやすい時期であるとはいえ、こうした株式市場のストレートな反応は、希望が失望に変わった時の危うさも示していると言えそうだ。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

嶋津洋樹氏

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。

(編集:編集:橋本浩)

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