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コラム:米中に「政策急変」リスク、危機対応の縮小に備えを=嶋津洋樹氏

[東京 11日] - 株式に代表されるリスク資産市場は、新型コロナウイルスの感染が再拡大し「第2波」との見方が浮上するなかでも、依然として好調を維持している。こうした背景には、各国が非常に早い段階で大胆なマクロ経済政策を相次いで打ち出したこと、経済活動の再開に伴って景気が着実に持ち直し、最悪期を脱したとの見方が広く共有されていることがあるだろう。

 香港での国家安全維持法の施行や、その前後から激化し始めた米中対立に目が向きがちだが、株式に代表されるリスク資産の価格にとって、中国政府・金融当局の姿勢の変化も無視できないと筆者は考えている。写真は米中の国旗。上海で2019年7月撮影(2020年 ロイター/Aly Song)

<変化する当局者の姿勢>

とくに中国は、世界で最初に新型コロナの感染拡大に見舞われる一方、その抑制にもいち早く成功し、経済活動を再開。主に大企業や国営企業を対象とし、中国国家統計局が集計する購買担当者景気指数(PMI)は総合ベースで3月以降、7月まで5カ月連続で50を上回り、景気が拡大していることを示している。また、中小企業、民間企業を対象とした財新のPMIも5月以降は50台で推移。景気回復に広がりがあることも確認できる。

もっとも、その中国では、新型コロナの感染拡大の経済的な打撃を抑制するために打ち出したマクロ経済政策について、実体経済以上にリスク資産市場の押し上げに効果を発揮しているのではないかとの懸念が浮上。ロイターは6月12日の段階で「当局がリスクの高い金融商品への投資を抑制し、銀行による低金利融資を実体経済に誘導したい意向」と報じている。習近平・国家主席がもともと、リスク資産市場の過熱を敬遠し、デレバレッジを推進していたとすれば、なおさらそうだろう。

そうした見方は中国国債市場を直撃し、10年債利回りは4月下旬の2.5%近辺を底にほぼ一本調子で上昇。7月上旬には一気に3%台へ突入した。その後、いったん2.8%台へ低下したものの、足元では再び3%近辺まで上昇している。それに連動して、中国株式市場はやや不安定に推移。ともすると、香港での国家安全維持法の施行や、その前後から激化し始めた米中対立に目が向きがちだが、株式に代表されるリスク資産の価格にとって、中国政府・金融当局の姿勢の変化も無視できないと筆者は考えている。

<影響力増す「格差拡大」論争>

こうしたことは、いまだに新型コロナの感染拡大が続く米国でも見られる。もちろん、直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文(7月29日公表)では「経済活動、雇用は最近、幾分か回復したが、依然として年初の水準を十分に下回っている」とし、「経済の道筋はウイルスの動向に大きく左右されるだろう」との文言を加えて、ハト派姿勢を強調。上述した中国人民銀行とは一線を画しているようにみえる。米国議会では、追加的な景気対策を巡る議論も続く。

しかし、米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートは6月10日に7.22兆ドルまで拡大した後、緩やかに縮小。直近8月5日時点では2週間連続で7兆ドルを下回った。その主な要因は、危機対応として非常に早い段階で打ち出したレポの供給や主要な中央銀行向けのドルスワップ、窓口貸出の利用が減少していること。地方債や社債など、個別の市場機能を維持するために創設した各種ファシリティーをほとんど使用していないことも、FRBのバランスシートが縮小している一因だと考えられる。

このことは、金融市場が安定しつつあることの裏返しとも言え、それほど気に掛ける必要はないのかもしれない。FRBが依然として米国債と住宅ローン担保証券(MBS)の購入を続けていることを踏まえれば、完全な杞憂(きゆう)とさえ言えるだろう。バランスシートはいずれ拡大へ転じる可能性が高い。

それでも筆者が危機対応の巻き戻しを懸念するのは、株式を含むリスク資産の価格上昇がしばしば、格差拡大の象徴として批判にさらされるからである。

実際、日本経済新聞(電子版)は7月18日の記事で「新型コロナという危機的状況の中、株高で潤う富裕層と、雇用という生活基盤さえ失いかねない中間層は対照的だ」と指摘。そのうえで、「『株価にばかり関心を払っている』――。大統領選の民主党候補が確実視されているバイデン前米副大統領はトランプ氏をこう非難する」と紹介した。それはまさに、株高を自慢するトランプ米大統領に対し、米民主党が格差拡大の象徴として批判する前兆に見える。

追加的な景気対策の議論が続く米国議会で、共和党が失業保険の特例加算について、7月末までの週600ドルから同200ドルへ減額することを求めていることも、危機対応を後退させる流れだろう。報道によると、共和党は特例加算が失業前の給与を上回る給付につながり、労働者の勤労意欲を削ぐことを懸念しているもよう。仮にそれが正しいとしても、新型コロナの感染が再び拡大している現段階での特例加算の減額は、景気の下振れリスクを一段と高める可能性があるだろう。

<始まったばかりの景気回復>

今回の新型コロナの感染拡大は、公衆衛生上の未曾有の危機とさえ言われているにもかかわらず、金融市場の動揺は一時的で、それが実体経済の悪化をもたらし、さらに金融市場を動揺させるという悪循環に陥ることは今のところ回避できている。しかし、新型コロナの世界的な感染拡大は続いており、実体経済の回復はまだ始まったばかりだ。人々が新型コロナに対する恐怖だけではなく、倒産や失職などのリスクにもさらされている今の段階で危機対応を縮小させることは、百害あって一利なしだろう。

今の米国と中国は、政治的な思惑で政策が突然、変更されるという点で共通している。その対象に危機対応の縮小という項目が入らないことを心より願っている。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。

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編集:橋本浩

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