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コラム:「政策協調」なき世界経済、マネー逆流長期化へ 
2016年1月15日 / 05:22 / 2年後

コラム:「政策協調」なき世界経済、マネー逆流長期化へ 

[東京 15日 ロイター] - 14日の米株式が大幅反発し、市場の一部では株安が止まったとの見方が出ている。しかし、世界の市場を混乱させているマネー逆流は長期化すると予想する。

 1月15日、市場の一部では株安が止まったとの見方が出ているが、世界の市場を混乱させているマネー逆流は長期化すると予想される。世界の政策当局が「政策協調」する動きがないためだ。ドラギECB総裁(左)とイエレン米FRB議長、ワシントンで開かれた2014年のG20会合で撮影(2016年 ロイター/Joshua Roberts)

世界の政策当局が手を携えて市場の混乱を鎮圧するため、「政策協調」する動きがないためだ。米連邦準備理事会(FRB)が利上げに踏み切り、日欧の中銀が超緩和政策を維持する中で、協調が望めないという事実は大きな意味を持つ。市場参加者は覚悟が必要だ。

<大幅に減少した中国の外貨準備、高くつく元高維持コスト>

2016年1月1週から始まった市場の大変動は、リスクオフ心理の強まりでマネーが安全資産に逃避している現象とみることができる。

その現象を巻き起こしている主な要因は表面上、2つある。1つは中国経済の減速を懸念して発生したとみられている人民元と中国株の同時安。もう1つは、1バレル30ドル台まで下げてきた原油価格の急落だ。

さらに北朝鮮の核実験や各地の爆発事件など、地政学的リスクの高まりも市場の先行き不透明感を高めている。

ただ、そうした要因が同時に「火を噴く」ことになった背景には、FRBの利上げがある。今月8日のコラム「世界的株安の中心に米利上げの反作用、4回維持なら振幅拡大」で指摘したように、米利上げを起点にしたリスクマネーの逆流現象が、今回の市場大変動の中核に存在する。

あたかも同時に火を噴いた複数の火山の下で、巨大なマグマがうねっている構図に似ている。

中国経済は大崩壊せず、人民元と中国株の下落は止まるとの分析を市場ではよく見かける。しかし、米利上げによってリスクマネーが中国から逃避し、安全なドル建て資産に回帰しているとみれば、人民元の下落が止まると楽観視するのは早計だろう。

また、人民元を買い支えるためのドル買い/人民元売りの結果、中国の外貨準備は3兆3000億ドルと2015年8月から5000億ドルも減少した。このペースで介入を継続すると、年間で1兆5000億ドルも外貨準備が減少する計算になる。

もし、ハイペースでの介入を継続するなら、2年超で外貨準備は底をつくことになってしまう。とすれば、中国当局は、緩やかな人民元安を容認する可能性があるとみるのが合理的な推論ではないか。

<サウジ・イラン断交、OPECの供給調整機能に大打撃>

また、足元で展開されている原油安も、大きな構造変化が起きて現出されていると理解すべきだ。年が明けて早々の今月2日、サウジアラビアがイスラム教シーア派指導者の処刑を発表。テヘランにある在イランのサウジ大使館がイラン人の群衆に襲われ、サウジとイランが断交した。スンニ派の盟主・サウジとシーア派のリーダー国・イランの対立は、イスラム教内の宗派対立が根本に存在するだけに、早期の解決が見通せない状況となっている。

ここまでは政治・外交的な分析だが、これが経済に波及し、大きな状況変化をもたらしていることに、実は多くの専門家が気付いていないフシがある。それは石油輸出国機構(OPEC)の供給調整機能の喪失だ。

サウジとイランが対立した今、原油の生産調整でOPECが合意することは不可能になってしまった。そのことは、OPECの最大の武器である「生産調整のオプション」を無効にし、OPECの生産調整機能を事実上、破壊したことを意味する。

原油専門家の中には、価格はいったん20ドル台まで下げた後、底値を形成して反発すると予想する声が、今でもかなりの数に上っている。

確かに過去はそういう値動きをしてきたが、その根本にはOPECの供給調整機能が存在した。それがなくなれば、原油価格が底値を形成せず、下落を続けるという見たことのない展開もあり得ると考えるべきだ。

<商品価格の下落、減損費用膨らむ企業も>

そこに米利上げによるマネーのドル建て資産への回帰が始まる。もともと2008年のリーマンショック後、経済立て直しのため、米欧日の中銀が展開した超緩和政策でマネーが膨張。リスクマネーは原油を中心にしたコモディティ市場に向った。

それが、米利上げで逆回転を始めている。コモディティ市場からのマネー流出は、米利上げの「終点」を見極めるまで継続する可能性が高い。

原油安は世界経済の減速を示すだけでなく、エネルギー関連企業の収益を下押しする。原油に限らず、コモディティ関連の企業は総じて打撃を受けることになる。BHPビリトン(BLT.L)は15日、72億ドルの減損費用を計上すると発表した。[nL3N14Z0J8]

原油は原材料や燃料としての役割に目が行きがちだが、金融商品としての存在が足元の経済では大きくなっている。各種の金融商品に組み込まれ、一部のデリバティブ商品で元本割れが発生すると、予期せぬ損失が波及する展開もあり得る。

<打ち出せない政策協調、不透明感を増幅>

世界的な景気減速懸念が強まりかねない中、08年のリーマンショック時と大きく異なる点がある。先進国を中心としたマクロ経済政策面での協調行動が取れないことだ。

米国が利上げ局面に入っているの対し、日欧は超緩和政策を維持し、市場の一部では緩和強化を期待する声も出ている。金融政策が逆方向では、もし、日欧が強力な追加緩和措置を打ち出しても、米利上げの引き締め効果と相殺し合う部分が出て、日米欧が協調して緩和する場合に比べ、効果に相当のギャップが生じることになる。

この「政策協調」が打ち出せない現在の状況は、これから一段と世界市場が混乱した場合、大きな瑕瑾(かきん)になりかねない。あたかも空中ブランコの下に張られたセーフティネットの一角に大きな穴があいているかのようだ。

また、協調スタンスが明確に打ち出せないことで、足元のリスクオフ心理がなかなかリスクオンに転換せず、株をはじめリスク資産からのマネー流出に歯止めがかかりにくいという展開も予想される。

「政策協調」なき世界経済は、リスクオフ心理の長期化を招き、「大波乱相場」がしばらく続くがい然性を高めることになると予想する。

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