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コラム:緊急事態でも景気腰折れせず、解除急げばリスク=鈴木明彦氏

[東京 5日] - 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、政府は1月8日、2度目の緊急事態宣言を首都圏の1都3県に発出、その後14日には2府5県を追加した。そして、当初の期限である2月7日までに状況の改善は見込めないとの判断から、宣言は栃木県を除き3月7日まで1カ月延長された。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、政府は1月8日、2度目の緊急事態宣言を首都圏の1都3県に発出、その後14日には2府5県を追加した。そして、当初の期限である2月7日までに状況の改善は見込めないとの判断から、宣言は栃木県を除き3月7日まで1カ月延長された。都内で1月撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

緊急事態宣言の長期化はすでに疲弊している日本経済をさらに悪化させ、景気の下押し圧力が高まるとの懸念が強まっている。

しかし、今回の宣言で景気が腰折れすることはないだろう。1度目の宣言が出された昨年4月から5月にかけて、日本経済は大きく落ち込んだ。その記憶は鮮明であり、2度目の宣言による景気の一段の落ち込みを懸念する声が広がるのは無理からぬところだ。

たしかに、昨年4~6月期の経済成長率は大幅なマイナスとなった。だが、それは緊急事態宣言が出されたからというよりは、新型コロナの感染拡大が、世界的な経済活動の停止を引き起こしたためと考えられる。緊急事態宣言が出る前から景気は急激に悪化していた。そして、最初の宣言が解除された頃には、一足早く経済活動を再開した中国を始めとする世界経済の回復とともに、日本の景気も持ち直してきた。

<景気は昨年末からすでに踊り場入り>

景気の現状は、昨年の宣言時のように悪化しているわけではない。今月15日に発表される昨年10-12月期の実質国内総生産(GDP)の成長率は2期連続でプラス成長が見込まれている。もっとも、これは7-9月期の急ピッチな持ち直しによってゲタをはいた影響も反映されていると見た方がよい。

景気動向が敏感に反映される輸出や生産の推移を見ると、昨年終わりごろから伸び悩んでいる。つまり、緊急事態宣言が出る前から景気は踊り場に入っていた可能性が高い。

コロナショックで景気は大きく落ち込んでいたが、昨年5月を底にかなり急速な持ち直しが続いていた。その原動力となっていた輸出や生産が新型コロナ感染拡大前の水準に戻ってくるにつれて頭打ちとなり、景気の持ち直しが一巡してきたようだ。

このため、今年1-3月期の経済成長率はかなり低い数字になりそうで、マイナス成長になる可能性も指摘されている、しかし、それは緊急事態宣言が出されたからというよりは、コロナショックの大底からの持ち直しが一服し、景気が踊り場に入ったからと考えるべきだ。

<今回の宣言は前回ほどの影響はない>

もちろん、緊急事態宣言が景気に全く影響しないというわけではない。たしかに、宣言が出なくても、感染の拡大が連日報道されれば、自粛ムードが広がってきて景気を悪化させる要因となる。宣言発出は、そうした自粛ムードを一段と強めることになる。

不要不急の外出が自粛され、レストランや小売店も閉店したり、営業時間が短くなったりすれば、消費活動が低迷する。特に、旅行や宿泊といった分野を中心に、昨年の宣言によって深刻な影響が出たことは間違いない。

ただ、今回の宣言は全国的に適用された昨年の宣言とは異なり、地域が限定されたものであり、対象も飲食店を中心にした部分的な営業時間短縮要請となっている。

もちろん対象となった地域、業種にとっては今回も深刻な影響が出てくるので注意しないといけないが、昨年の緊急事態宣言の時のように、人々の消費活動の場となっている店舗が一斉に営業活動を縮小してしまったのとは異なる。

メーカーの生産活動も緊急事態宣言を理由に縮小することはなさそうだ。テレワークも含めて生産現場での省力化は進んでおり、経済活動を維持する仕組みができている。

さらに、緊急事態宣言を受け止める人々の気持ちに、昨年ほどの緊張感がないのではないか。今は一時停止となっているが、昨年7月から政府が音頭をとって旅行や外食を奨励するGOTOキャンペーンが続き、人々のコロナに対する警戒ムードがかなり緩んだことは間違いない。2回目の緊急事態宣言が出されても、人々の自粛ムードは前回ほど高まっていないようだ。

言い換えれば、コロナ禍が長引く中で、人々は何から何まで自粛するのではなく、これまでの経験から得た自分なりの予防策をすでに実践し、その上で経済活動を維持するような工夫をしているようだ。昨年の宣言時に経済活動が大きく落ち込んだからといって、今回もそうなるということにはならない背景には、そうした人々の対応の変化もある。

<感染拡大は続きそうだが、景気は再加速>

一方で、感染拡大はまだ続きそうだ。年明け早々、急増していた新規感染者数が減少しているが、東京、神奈川で保健所の負担を軽減するために、新規感染者の調査の対象を絞っている影響も考えられる。従来通りの調査を行っていれば、新規感染者数の数は今発表されている数字よりかなり多くなったのではないか。

自粛ムードが昨年ほど広がっていないのであれば、緊急事態宣言による効果は、せいぜい感染の増加ペースを抑える程度にとどまるかもしれない。しかし、それでも冬場の感染シーズンが過ぎれば、感染は落ち着いてくるはずだ。すでにその動きが数字に表れているとも考えられる。感染の落ち着きを確認しながら緊急事態宣言も解除されることになろう。

世界では、コロナとの戦いの主戦場がワクチン接種に移っている。しかし、実際には、ワクチンの接種が想定通り進んでいるわけではない。接種後の免疫効果が期待通り出てくるのか、想定外の副反応が出てこないか、という懸念もあり、すんなりと事が運びそうにはない。

それでも、コロナとの戦いはワクチンによって感染を抑え込むという最終段階に入っている。世界の経済活動が元に戻ってくることが、日本経済の回復を後押しすることになろう。景気は、春以降は踊り場を脱して、再び加速してくるだろう。

<感染再拡大が最悪のシナリオ>

一時より落ち着いたとはいえ、感染拡大が続いている以上、宣言の延長は当然であろう。また、ワクチンの接種が欧米に比べて遅れている日本では、接種の効果が表れて感染が抑えられてくるにはまだ時間がかかりそうだ。入院患者の増加など医療現場のひっ迫もまだ続きそうであり、コロナとの戦いは長期戦を覚悟した方がよい。

一方、緊急事態宣言の延長が景気にプラスに働くということはないが、すでに踊り場に入っている日本の景気を腰折れさせることもなさそうだ。宣言そのものの景気下押し効果は、世の中で言われているほど大きくない。

それよりも心配なのは、感染者数の減少を受けて焦って宣言を解除してしまうことだ。宣言の延長を決めた菅義偉首相の記者会見でも、1日でも早く解除したいという気持ちがにじみ出ている。新規感染者数の調査の対象が絞られていることを考えれば、東京都の1日の新規感染者数が500人を下回るという目安は、緊急事態宣言解除の条件としてはハードルが低すぎるのではないか。

緊急事態宣言は3月7日を新たな期限としたが、その目標通りに解除できるかどうかは不透明だ。これは昨年、延期を決めたオリンピック・パラリンピック開催問題と同じような状況といえる。オリンピック・パラリンピックについては、さすがに中止も視野に入れた検討が政府内でなされているとは思うが、できれば開催したいという強い気持ちがあるのは間違いない。その気持ちが宣言の解除を焦らせる恐れがある。

「ここで我慢すれば、あとはワクチン接種とともにバラ色のシナリオが待っている」。そんな楽観的なことは言えないが、前のめりで宣言の解除を決めて、そのあとになって感染者数が増えてきたら政府としての対応が窮まってしまう。これが日本経済の先行きの最悪のシナリオと言えそうだ。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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