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コラム:超V字回復の豪ドル円、米株が握る快進撃の行方=植野大作氏

[東京 17日] - 早春の外為市場で豪ドル/円の快進撃が目立っている。昨年3月19日、新型コロナウイルスの感染拡大を不安視した市場パニックの荒波にのまれて一時59円90銭付近まで急落した豪ドル/円は、その後一気に切り返し、今年2月25日には一時84円95銭付近まで買い進まれた。約11カ月で25円以上、4割を超える値上がりだ。

 3月17日、早春の外為市場で豪ドル/円の快進撃が目立っている。写真は豪ドル居幣 2018年2月撮影(2021年 ロイター/Daniel Munoz)

その後は日本の年度末接近を見据えた投資家の持ち高調整も意識され、上昇の勢いは鈍ったが、82円前後では底堅く推移、現在も84円台で取引されている。

この間の豪ドル/円の動きを俯瞰(ふかん)すると、週足チャートの比較的細かい部分に至るまで、概ね円建て換算のMSCI世界総合株価指数と相関していたのが印象的だ。世界中の国々が、コロナとの戦いに明け暮れたこの約1年、グローバルな景況感の寒暖の差に敏感に反応して動く豪ドル/円の特徴が極めて鮮明に表れていた。

市場心理が好転する時期に買われやすい豪ドルと、暗転する局面で買われがちな日本円の組み合わせである「豪ドル/円」という通貨ペアは、豪州国内から配信されるローカルなニュースより、地球的規模での景況感の伸縮に強く反応して激しく動く場面がしばしば観測される。戦後最悪のコロナ不況において豪ドル/円が示した超V字回復は、まさにその典型例だったと言えるだろう。

<メインシナリオは高値安定か>

円やその他の主要通貨に対する豪ドルの一方的な値上がりが目立っていた間、豪州準備銀行(RBA)は、翌日物政策金利と3年国債利回りの誘導目標を0.25%から0.1%に引き下げたほか、資産購入プログラムによる量的緩和を強化しながら豪ドル高をけん制する口先介入や公文書介入も連発したが、グローバルな株高の追い風を受けて勢いづく豪ドル高を止められなかった。

そのような認識を踏まえた上で、来月から始まる新年度の豪ドル/円相場を展望すると、端的に言って「株価次第」という分かりやすい構図になる。コロナ不況下における豪ドル/円の先行指標の役割を務めてきた世界総合株価指数の中味をみると、約3分2近くの圧倒的シェアが米国株で占められている。新年度の豪ドル/円の売買戦略を練る上で、鍵を握るのはやはり米国株の動向だ。

今後に予想される3つのシナリオを考えてみよう。まず米国株が今後も一段と上昇し続け、史上最高値圏にある今のレベルからさらに15%を超えて高値更新の旅を続ける場合、これまでの株価の動きと豪ドル/円の関係から類推すると、豪ドル/円の巡航高度も現在の80円台から90円台にアップしそうだ。

ただ、近年の豪ドルは昔のように金利が主要7カ国(G7)通貨の金利水準を何倍も上回る「超」のつく高金利通貨ではなくなっている。かつての豪ドルは投資家の高値警戒感を麻痺(まひ)させるほど強烈な高金利の魅力を備えていたが、今はそこまでの高金利通貨ではなくなったので、高値を追いかけてまで買い続ける熱狂的な豪ドルファンはいなくなっている。よほど株価が上がらないと100円台は難しそうだ。ちなみに、筆者はこのシナリオの実現確率は25%程度だと思っている。

次に米国株が現在の歴史的高値圏での安定飛行で落ち着く場合、豪ドル/円の巡航高度は、現在とあまり変わらぬ80円台での水平飛行になりそうだ。

良くも悪くも前向きな参加者が多い株式市場では、将来のことを先読みして動く傾向が強いが、昨年3月にダウ平均株価が記録した安値1万8000ドル台から今月つけたこれまでの高値3万2000ドル台に至るまで、同株価は約1年間で既に8割以上も値上がりしている。これからも同じ勢いで上昇すると、来年の今頃には5万9000ドル台を試す計算になる。さすがにスピード違反の疑いが濃厚であり、そろそろブレーキがかかるとみるのが妥当なのではないか。

今後、新型コロナワクチンの普及とバイデン政権の経済対策の追い風を受け、米国の国内総生産(GDP)や企業業績が順調に伸びてくれば、歴史的な高値圏で足踏みしながら待ってくれている株価に追い付き、株価にらみで値上がりしてきた豪ドル/円も高値で安定するだろう。筆者が想定しているメインシナリオはこのパターンであり、実現確率は65%くらいだと踏んでいる。

最後に、あまり気乗りはしないが、株安加速のリスクシナリオについても触れておく。今後、米長期金利の上昇に歯止めが掛からなくなったり、せっかく開発したワクチンの効かない新々型コロナの変異株が猛威を振るったりして米国の株価が3割以上の深い調整を余儀なくされた場合、来年度の豪ドル/円は70円台でも下げ止まらず、60円台に逆戻りする可能性もある。

ただ、その場合でも、米国経済の二番底が一番底より深くならなければ、さすがに50円台まで差し込む可能性は低そうだ。実際、昨年3月に起きたコロナパニックの最悪期でも豪ドル/円は59円台までしか下がらず、60円割れの滞空時間もわずか30秒しかなかった。

<大幅な経常黒字が「縁の下の力持ち」に>

過去、豪ドル/円は「ITバブル崩壊」、「対米同時多発テロ」、「リーマン危機」など世界中で株価が値崩れする事件が起きると、60円の節目もあっさり割り込んで55円台まで急落した。しかし、昨年は「戦後最悪」のコロナ不況に撃墜されても、昔ほど派手には下がらず切り返している。当時の豪ドル/円を59円台で踏み留まらせ、その後の超V字回復に誘った「縁の下の力持ち」がいたはずだ。

そこでオーストラリアの国際収支をみると、近年の経常収支は対外利払いの縮小と貿易黒字の膨張で過去最高の黒字を計上している。巨額の対外利払いと鳴かず飛ばずの貿易収支の組み合わせで恒常的な経常収支赤字国の通貨だった豪ドルのイメージは、今や昔の物語になりつつある。

そのような国際収支構造の変化を受け、近年の外国為替市場では経常収支黒字を背景に発生している豪ドル買い切りのフローが、株価の急落局面における豪ドル/円の下値を固めるバックストップの役割を果たすようになったと推測される。

今後、米国株が多少調整しても、よほどひどく暴落しない限り、50円台まで差し込むリスクは小さいだろう。筆者はこのシナリオの確率は最も低いとみており、せいぜい10%程度だと考えている。

以上が現時点で想定される来年度の豪ドル/円相場の「3択シナリオ」だ。「ウィズ・ワクチン」、「アフター・コロナ」の世界経済正常化を見越して歴史的な高値圏まで一気に駆け上がってきた米国株価の行方が、今後の豪ドル/円の命運を左右することになるだろう。

もちろん、米国株の予想は簡単ではない。ただ、「株価続伸」なら「押し目買い」、「株価安定」なら「逆張り」、「株価反落」なら「戻り売り」と、シンプルに考えられるのが豪ドル/円の長所である。実際のトレードに臨む際のエントリー(買い)とエグジット(売り)の水準については、各種のテクニカル指標を参考にしつつ、趨勢(すうせい)判断の軸足は「株価の目利き」に据えて動かさない姿勢が大切になるだろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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編集:北松克朗

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