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コラム:モスルでIS掃討作戦、奪還後に何が起きるか
2016年10月20日 / 10:11 / 1年後

コラム:モスルでIS掃討作戦、奪還後に何が起きるか

イラク北部モスルの奪還作戦はリスクに満ちている。米国の支援を受けたイラク軍が、同国第2の都市から過激派組織「イスラム国」(IS)を追い払う同作戦は17日朝、ようやく開始された。

 10月17日、イラク北部モスルの奪還作戦はリスクに満ちている。写真は同作戦に参加するクルド自治政府の治安部隊「ペシュメルガ」のメンバー。モスルで撮影(2016年 ロイター/Azad Lashkari)

モスルはISが同国で支配する最後の主要拠点である。フセイン大統領を失脚させた2003年のイラク戦争以来、同国最大の軍事作戦となる。

ISは2年以上前にイスラム教スンニ派が大半を占めるモスルを占拠。かつて同市には、シーア派やキリスト教徒も多く暮らしていた。だが、有志連合の司令官が数週間あるいはそれ以上続く可能性があると予想する作戦に兵士が備えるなか、識者は軍事戦略と「その後」のモスルに対する影響の両方を分析していた。

作戦開始は全く驚きではない。米国とイラクの当局者はISに対し、攻撃を準備中だと警告していた。米大統領選共和党候補のドナルド・トランプ氏が10月9日の討論会で異を唱えた戦略である。「なぜひそかにできないのか」「なぜ奇襲攻撃できないのか」と同氏は語った。

実際、ロイターのコラムニストであるピーター・アップス氏が指摘するように、米国と同盟国には、次にどこを攻撃するかについて周りを欺いてきた歴史がある。今年に入り、ISが首都と主張するシリア北部ラッカを攻撃すると示唆し、ISもそれに反応して同国に緊張が走ったが、真の狙いはマンビジだった。3カ月に及ぶ戦闘ののち、同市は米国が支援する主にクルド人で構成される部隊の手に落ちた。

モスル奪還には、イラク軍側のあらゆる当事者が柔軟に対応する必要があるとアップス氏は指摘する。ISは街全体を破壊したり、保有しているとみられる化学兵器を利用したりする戦術を取る可能性がある。変わりつつあるとはいえ、そのような攻撃に対処できる訓練や装備を十分に経験するイラク軍兵士はほとんどいない。

ISからモスルを奪還した「その後」に何が起きるかは、奪還のための戦闘と同じくらい重要だと、家族がモスル出身のミナ・オライビ氏は指摘する。奪還作戦により、最大100万人が家を失い、市民は「人間の盾」として利用されたり、毒ガスで殺害される可能性さえある。モスルの人道危機が「世界で唯一の、最大かつ最も複雑な」ものになる恐れがあると国連は警告している。

奪還後は、秩序回復と信頼獲得が不可欠である。「市民がモスルの新指導者を信頼できるかどうかは、囚人の扱いや住む場所を奪われた人たちの再定住をいかに迅速に行うかなど、統治のやり方に左右される」とオライビ氏は言う。

ISの支配下に置かれた結果、競い合う各勢力は自分たちの軍事的成果を政治的支配に置き換えたいと考えるだろう。しかしモスルの安定化のためには、新しい指導者は同じ宗派や民族出身者だけでなく、全市民に責任を負わなければならない。

オライビ氏は、モスル以外に住む犯罪歴のない元イラク軍司令官や将校は、現役の将校らと共に軍事委員会の一員として働くことを提案している。彼らは市の安全、法と秩序の回復、全市民に対する基本的サービスの保証に責任を負うことになる。正常な状態を取り戻したようであれば、選挙を実施することも可能だろう。

コラムニストのジョシュ・コーエン氏は、宗派間の対立を解決するには、イラク政府の支配から離れた独立した存在となるスンニ派の国家「スンニスタン」の創設という思い切った考えを提唱している。少なくとも当初は、イラクのクルド人自治区のようなものになるかもしれない。

「イラク政府に対する不信感の大きさを考えると、同国のスンニ派が、シーア派の支配する中央政府に対してあつい忠誠を育むことは難しい」とコーエン氏。「このような理由から、統一されたイラクはもはや不可能であり、『イスラム国』あるいは他のスンニ派過激派グループからイラクを守るただ1つの方法は、スンニ派に独自の政府を与えることだ」と同氏は主張する。

独自の政府を提供することで、スンニ派はISに背を向けるようになるかもしれない。また今後、新たな過激派グループが生まれるのを防げるかもしれないことも同様に重要である。

ただしこの構想には、イラク政府から賛同が得られるかといったことや、突然スンニスタンに住むことになったスンニ派以外のマイノリティーの問題など、多くの課題があるということもコーエン氏は指摘している。スンニスタン創設によって自動的にイラクであらゆる過激思想が無くなるわけではないが、ISを打倒し、その後の平和を維持するまたとない機会を提供してくれる。

問題は、モスル奪還の戦いがそのような平和に向かう初めの一歩となるのかどうかだ。

(17日 ロイター)

*筆者はロイターのシニアエディター。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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