July 21, 2015 / 8:55 AM / in 4 years

コラム:日本の平和主義後退の「暗い影」

[20日 ロイター] - 1945年に米国が初めて原爆の実験を成功させたのと同じ7月16日、安倍晋三首相は、戦後70年で初めて自衛隊に海外での武力行使の権限を与える安全保障関連法案の衆院採決を強行した。

 7月20日、戦後70年で初めて自衛隊に海外での武力行使の権限を与える安保関連法案が衆院で強行採決された。この潜在的影響は軽視し難い。写真は国会付近でデモをする人々。都内で18日撮影(2015年 ロイター/Issei Kato)

この出来事の潜在的影響は軽視し難い。

国内的には、安倍首相は自身の立場を危険にさらしている。有権者はほぼ2対1の割合で新安保法案に反対しており、野党は採決前に議場を退席、安倍政権の支持率は40%前後に落ち込んだ。法案の衆院特別委員会での可決を受け、日本国内では福島第1原発事故以来で最大規模となる抗議デモが行われ、「安倍は辞めろ」と書かれたプラカードなどを手にした約10万人が集まったとも言われている。

ちょうど55年前、安倍氏の祖父である岸信介首相(当時)は、日米安保条約改定の強行採決に対する抗議デモを受けて退陣に追い込まれた。

安倍首相の動きも、国内外で暗い影を落としている。

多くの日本国民はいまだ、日本が攻撃的軍事力を放棄する唯一の現代国家となった憲法第9条を誇りに思っている。安倍政権下で日本がこの功績から背を向けることは、第2次大戦から生まれた最後の偉大な理想が終わることを意味する。安倍氏は自国民の国家観を鼻であしらって無視するのも同然だ。

また、中国が日本の南の海で島々の領有権を主張し、北朝鮮が核の脅威をちらつかせ、東南アジア諸国が第2次大戦の記憶を引きずるなか、日本の新安保法案は、東アジアの緊張を一段と高めることになる。中国外務省は、法案は戦後日本の「平和的発展路線」の堅持に疑問を投げかけるものだとし、安倍首相に歴史の教訓を学ぶよう訴えた。

日本国内で持ち上がっている懸念の最たるものは、憲法を迂回する戦術を取る今回の法案が、自衛隊の武力行使に関する是々非々の議論を阻むのではないかということだ。

例えば、2004年の自衛隊イラク派遣時(イラク特措法の成立時)には、隊員らが正当防衛時にのみ使用できる小銃の画像を政府が公開するなど、軍事目的ではないという理解を国民から得るべく、事前に徹底的なチェックが働いていた。また、2001年9月11日の米同時多発攻撃を受けて成立した時限立法(テロ対策特別措置法)では、インド洋での日本の船舶による米艦船への給油活動を、「非戦闘地域と認められる公海」でのみに限定していた。

新安保法案は参議院での審議に移るため、今すぐには法律にはならない。ただ参院で採決が行われなくても、いわゆる「60日ルール」を使い、与党は衆院で再可決することができる。法案成立後に最高裁が違憲かどうか判断する可能性もあるが、最高裁は歴史的に政府に有利な判決を下す。

新安保法案は「何」については言及しているが、その「なぜ」を理解するのは相当難しいままだ。

安倍首相は新法案について、中国を含む日本が直面している脅威に対応するものだと説明している。また過激派組織「イスラム国」による人質2人の殺害にも言及し、自衛隊が救出できた可能性を暗示している。こうした考えは、自民党に資金援助する超国家主義者らには非常に受けが良い一方、首相を批判する人たちからは「たわごと」だと一蹴されている。また、仮に日本が人質救出のための特殊部隊を持っているとしても、そうした行動は十分に憲法第9条の趣旨の範囲内にあるように見える。

また安倍首相は、新安保法案によって日本が米国の防衛に寄与することにもつながるとしているが、それについて反対派は、米国による中国への攻撃や中東での戦争に巻き込まれることになりかねないと感じている。安倍氏自身の日本防衛論は別にして、1つの現実的要因は、米国が「集団的自衛」の旗印の下、日本の首相をより攻撃的な姿勢に駆り立てているということだ。

しかしながら、本当の「なぜ」は、安倍氏の胸中深くにあるとみられる。安倍氏はこれまで長く、第2次大戦に対して過度に保守的な見方を持ってきた。例えば、戦争犯罪に問われた日本の指導者たちは「日本の法律の下では犯罪者ではない」と表明したこともある。安倍氏の祖父である岸元首相は、戦犯被疑者としてGHQによって逮捕・拘留された。一部では、岸氏が孫である安倍氏に、日本を軍事大国としてつくり直し、戦後憲法を破棄するという自身の夢を注入したとの見方もある。

多くの国民が考える正当な安全保障に必要なものとはかけ離れ、安倍氏は、自分の考えに従って行動できる十分な力を持っていると自覚した政治家だ。安倍氏はどうやら、自身のイデオロギーのためには、けんかを売り、政権をリスクにさらし、国民を怒らせるのもいとわないらしい。

*筆者は、米国務省に24年間勤務。著書にイラク再建の失策を取り上げた「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People(原題)」などがある。最新刊は「Ghosts of Tom Joad: A Story of the #99 Percent(原題)」。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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