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コラム:都議選後の政治シナリオ=河野龍太郎氏
2017年7月6日 / 06:22 / 5ヶ月前

コラム:都議選後の政治シナリオ=河野龍太郎氏

[東京 6日] - 7月2日に東京都議選が実施され、小池百合子知事率いる都民ファーストの会が、候補者50人中49人を当選させ、圧勝した。同グループは、選挙後に追加公認された無所属議員を加え55人に膨らみ、定数127人の都議会での圧倒的な第一党となった。

一方、自民党にとっては、改選前の59人から23人へと、議席数を半分以下に減らす歴史的惨敗である。都議選は、一地方選挙にすぎないが、首都の民意が示される場でもあり、時として国政の流れに影響を及ぼしてきた。これほどの大敗となれば、今後の安倍晋三首相の求心力に一定の悪影響が及ぶことは避けられない。

今回の自民党の選挙結果には、小池人気の高さ以上に、加計学園を巡る政治スキャンダル、およびそれに対する政権の対応の不手際で、安倍政権に対する国民の反発が強まったことが大きく影響した。さらに選挙中に閣僚や自民党議員の失言やスキャンダルも重なったため、都民ファーストが自民党への批判票の受け皿となった。

また、国政における連立パートナーである公明党が小池知事支持を打ち出したため、同党からの選挙協力を得られなかったことも大きな敗因である。

<あらわになった自民党の弱点>

安倍氏は、政権復帰を果たした2012年末の衆院選を含め、4度の国政選挙で自民党を圧勝に導いたが、実は、自民党の絶対得票率(全有権者に対する得票率)は、いずれの選挙でも20%程度と低位にとどまっている。

こうした中で、国会において圧倒的な勢力を確保できたのは、仏教系宗教団体を母体とし、大きな固定票を持つ公明党から小選挙区において強力な選挙協力が得られていたことに加え、自民党に代わる有力な受け皿がないこともあり、投票率の低迷が続いたからである。

都市部では無党派層のウエートが大きく、選挙ごとに大きなスイングが起きやすいということもあるが、今回の都議選では、この2つの条件に依存する自民党の弱点があらわになったとも言える。

公明党は、国政においては、引き続き自民との連立を続ける方針である。公明党にとっても、比例区では自民党の支援を強く受けており、公明党が候補を立てる小選挙区では自民党が候補擁立を見送り、これが有効に機能してきた。自民党としても、都議選における公明党の対応に不満を抱きながらも、公明党との関係を断ち切ることはできない。都議選の結果からも、自民党にとっての公明党による選挙支援の重要性は明らかである(なお、公明党自身は、今回の都議選で議席を1つ増やし、自民党と同じ23議席を獲得している)。

1990年代末から続いてきた両党の国政レベルでの協力関係は相当に高度化しており、今回の都議選をきっかけに、すぐに崩れることは想定し難い。また、現状において、国政レベルでは、自民党に代わる有力な受け皿は存在しない。今回の都議選で、国会における最大野党である民進党は、わずか5議席しか獲得できないというありさまである。

しかし、それでも政権批判が強まれば、自民党は国政でも議席を大きく落とし得る。また、将来的に都民ファーストが国政に進出してくる可能性も考えられる。知事に就任してわずか1年の小池氏本人がすぐに国政復帰することはまずないが、今後、小池氏に近い国会議員が新たな会派を作り、それが野党再編の核となるシナリオも否定できない。新たな核が生まれれば、党勢の全く上向かない民進党からは、現執行部が続ける共産党との協力関係に不満を持つ議員を中心に、多数の参加者が出る可能性もある。

実際、都議会では、今回の選挙前に多くの民主党の都議が離党し、都民ファーストからの立候補を選択した。新たな勢力が拡大していけば、将来的には、公明党が自民党と手を切り、その勢力に加わるという可能性もあながち否定できなくなる。もとより、公明党の政策は、自民党の政策よりは民進党の政策との親和性が高い。また、同党の支持母体では、右派色の強い安倍政権の安全保障政策に対し協力を続けていることに対し不満がくすぶっている。

いずれにしても、「選挙に強いこと」が安倍首相の自民党内での求心力の源であったことを考えると、今回の選挙結果のインプリケーションは小さくはない。支持率回復を目指し、安倍首相は8月中にも内閣改造を行う方針である。失言の多かった閣僚や国会での答弁が不安定であった閣僚の交代や、首相が推進する「教育無償化」などを担当する閣僚ポストの新設が予想される。

しかし、加計学園問題では、首相側近や首相自身に疑惑の目が向けられているため、支持率回復は容易ではない。新鮮味を出すには抜擢人事を含め大きな内閣改造が必要だが、それは、新たなスキャンダル発生や新人事に対する党内の不満増大といったリスクとも隣り合わせであり、むしろ今後の政権運営を不安定化させる可能性もある。首相は難しい判断を迫られる。

都議選後、安倍首相は憲法改正案を今秋に開かれる臨時国会に提出し、来年の通常国会で発議を目指す方針を変更しない意向を示した。しかし、もとより性急な議論に異論のあった党内からは、今回の選挙結果を受けて、こうした方針に対し批判が強まってくる可能性がある。

首相が改憲にこだわるのは、それが政治家として自らの最大の目標であり、かつ、現在、改憲派が発議に必要となる3分の2の勢力を両院で占めているからであるが、同時に、改憲議論を加速させることで、一連のスキャンダルからフォーカルポイントをシフトさせたいという思惑もあるとみられる。

一度掲げた方針を取り下げれば、自らの力の衰えを象徴することにもなりかねず、求心力の低下を加速しかねないということもあろう。しかし強引に改憲論議を進めれば、むしろ党内からも、公明党からも、そして国民からもさらなる反発を招く恐れがある。

<危うくなった安倍総裁3選>

念のために言っておくと、現在の安倍政権の支持率は、まだ危機的水準とは言えない。6月中旬に実施された各世論調査では、いずれも10ポイント程度の大幅下落がみられたものの、水準は多くの調査で40%を超えていた。一般的に、危険水域とされる内閣支持率の水準は30%以下であり、退陣が濃厚となるのは20%を切ってからである。

近年、20%前後まで低下した内閣をみると、森内閣や福田内閣、鳩山内閣、菅内閣は退陣に追い込まれ、麻生内閣と野田内閣は衆議院の解散に踏み切った。ただ、7月1、2両日に実施された朝日新聞の世論調査では、内閣支持率が38%と、6月中旬の調査からさらに3ポイント低下し、一方で、不支持率は42%と5ポイント上昇し、支持率を上回っている。全体の半数程度を占める無党派層からの支持率は18%にとどまり、不支持率は55%に上ったという。

2000年代以降の歴代政権の支持率パターンを振り返ると、一度40%を割り込むと、30%台での滞空時間はかなり短く、それほど間を置かず危険水域とされる20%台へ落ち込むことが多かった。

もちろん、この法則はいつも当てはまるわけではない。安倍政権下では、安全保障法案を巡って政府批判が強まった2015年夏に支持率は一時的に40%を割り込んだが、景気の回復傾向が続き、時間の経過とともに国民の関心が移り変わっていくことで、支持率は大きく持ち直していった(円安に歯止めがかかり、食料品価格などの上昇による実質購買力の悪化が止まったことも大きく寄与した)。

ただ、今回の支持率下落は、政策に対する批判だけでなく、前述した通り、政権運営や政権の体質そのものに対する不信も反映しているため、ダメージが長引く可能性がある。景気が好調を維持している限りは、底割れは回避される可能性はなお高いと思われるものの、支持率が思うように回復しなければ、今回の都議選の結果も踏まえ、自民党内において、安倍首相から距離を置く議員が増え始めるかもしれない。

そうなれば、来年9月に予定される自民党総裁選での安倍首相の3選は危うくなっていく。そもそも、従来の自民党の党規では、3選は禁じられていた。今年3月にこのルールを改定した背景には、安倍首相の支持率の高さと、選挙での強さがあったが、この前提が崩れてくれば、自民党内では総裁選に向け、さまざまな思惑が出てくる。今のところ、主たる派閥の領袖らは、首相を引き続き支える姿勢を示しているが、それも今後の支持率次第であろう。

これまで、安倍首相は人事で派閥の領袖を取り込むことなどで、党内の不満を巧みに抑えてきたが、それでも政権の長期化に伴い、非主流派に甘んじる勢力の不満は必然的に高まっているとみられる。また、何より、自民党は2018年末までに実施しなければならない衆院選で「勝てる総裁」を必要としている。党内ガバナンスがままならず内紛で自滅した民主党政権を反面教師にしてきたということもあるが、自民党が安倍氏を担ぎ続けてきたのは、やはり「選挙に強い」と考えられてきたことが大きい。

<アベノミクスが修正に向かう可能性も>

仮に安倍政権が弱体化していく場合、その経済政策に対するインプリケーションは、必ずしも明白ではない。首相は、その座にある限り、より大盤振る舞いの財政運営によって政権浮揚を図る可能性もある。

2017年度補正予算が大型化する可能性があるほか、財源確保を先送りして教育無償化やさらなる法人税減税などに踏み切るといった可能性も考えられる。その結果、日銀は実質的にそのファイナンスを担うべく、現行政策の継続を要請されるということになるかもしれない。

しかし、安倍首相と距離を置く自民党の有力政治家は、総じて財政・金融政策についてはより保守的である。安倍政権の支持率低下とともに、そうした面々の発言力が増していく、あるいは、その中の1人が次期総裁の座を奪取するということになれば、アベノミクスの路線は修正される可能性が高い。

2018年秋には、2019年10月に予定される消費増税の実施の可否を決定しなければならない。安倍首相自身は3度目の先送りを模索しているとみられ、筆者も再度の先送りをメインシナリオとしてきたが、「安倍一強」が崩れれば、予定通りの実施の可能性は多少高まる。

また、金融政策についても、自民党内には、首相と距離を置く議員中心に、効果が小さく弊害の大きい日銀の金融政策について手仕舞いすべきとの意見が聞かれるようになっている。2年で2%インフレを実現するとして大規模金融緩和が開始されたが、4年以上が経っても全く2%インフレが見通せない現状を踏まえ、このまま弊害の大きいバランスシートの膨張を容認してよいのかという懸念が強まっているのである。

現時点ではあくまでテールリスクではあるが、安倍首相の求心力低下でアベノミクスの修正機運が広がり、インフレ率が上昇する前に、政治的に日銀がマイナス金利政策やゼロ%の長期金利誘導目標の修正を迫られる可能性も排除できない。

*本稿は、河野龍太郎氏と白石洋氏(BNPパリバ証券シニアエコノミスト)の共著です。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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