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コラム:過度なインフレ、円安を短命にするファクターか=亀岡裕次氏

[東京 28日] - ドル/円は10月に年初来高値を更新し、約4年ぶりの114.69円まで上昇したが、これはドル高ではなく円安が主因である。10月に入ってからは、ドルが円以外の通貨に対して小幅下落する一方で、円はドル以外の通貨に対して大幅に下落している。小幅なドル安の一方で大幅な円安が進んだため、ドル/円が上昇したのだ。

 10月27日、 ドル/円は10月に年初来高値を更新し、約4年ぶりの114.69円まで上昇したが、これはドル高ではなく円安が主因である。都内で8月撮影(2021年 ロイター/Athit Perawongmetha)

<円安の背景にある世界的な金利上昇とリスクオン>

円安を招いた要因は、世界的な金利上昇とリスクオンである。米国の金利上昇がドル高に働く面よりも、リスクオンがドル安に働く面が大きくなり、ドルが小幅に下落した。一方、世界的な金利上昇とリスクオンがともに円安に働き、クロス円が大幅に上昇した。今後も円安が続くかどうかは、金利上昇とリスクオンの持続性にかかっている。

近年、日米5年国債金利差とドル/円は高い連動性を示してきたが、最近の金利差拡大幅に比べると、114円台後半へのドル/円上昇はやや過剰に見える。

ただ、リスクオンの円安圧力が働いていたからこそ、日米金利差拡大に比べてドル/円上昇が大きく進んだと言える。リスクオンが弱まると、ドル/円は金利差に応じて動きやすくなるはずだ。

<インフレ期待の高まり、成長期待を抑制する面も>

最近目立つのが、世界的なインフレ期待の高まりと、それに伴う利上げ期待の増大だ。米国では、期待インフレ率を示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)の5年物が約1カ月前(9月21日)の2.43%から2.97%へ、10年物が2.28%から2.67%へと高まっている。

利上げ期待を示すフェデラル・ファンドレート(FF金利)先物は、2022年7月限が0.095%から0.25%へ、23年1月限が0.27%から0.60%へと上昇している。

また、欧州でも同様の変化が見られる。欧州中銀(ECB)が注目するユーロ圏の5年先から5年間の期待インフレ率は9月21日の1.73%から2.08%へと高まり、2014年8月以来の高水準となっている。

欧州連合(EU)から離脱して労働者不足の問題が生じた英国では、同じベースの期待インフレ率が一時3.99%にまで高まるなどインフレ期待が強く、英中銀(BOE)がインフレを警戒して利上げに動くとの観測が強まっている。

このようなインフレ期待の高まりは、海外金利上昇を通じて円安に作用してきた。ただ、インフレやインフレ期待が高まり過ぎると、消費者・企業のコスト上昇や金利上昇が経済成長の弊害となる。まして、今回のインフレがコロナ禍における供給制約によるところが大きいだけに、コストと金利の上昇が需要を抑制してしまうリスクは小さくない。

米国などで期待インフレ率が上昇する一方で実質金利の低迷が続いているのは、成長期待が抑制されていることを示すだろう。実質金利の低さが株価にプラスに働く面もあるが、成長期待の低さは株価にマイナスに働く。過度なインフレにより成長期待と実質金利が低下するようなら、リスクオフや名目金利低下に転じて円高に作用するリスクもある。

<供給制約によるインフレ、需要抑制の兆し>

そうした意味において注目すべきは、供給制約や価格上昇と需要回復のペースである。米国の供給管理協会(ISM)の統計によれば、製造業の供給遅延指数は今年5月をピークにやや低下したが、9月時点で73.4と高水準にある。

そして、価格指数も6月をピークにやや低下したものの、9月時点で81.2と高水準のままだ。一方、新規受注指数は66.7と3月のピークから小幅な低下にとどまっている。非製造業も同様だ。

ただ、マークイットの統計によれば、米国の製造業では供給制約が続いているなかで景況指数(PMI)が3カ月連続で低下している。一方、サービス業のPMIは新型コロナウイルスの新規感染者数減少の好影響もあり、10月に改善した。米国では、供給制約と価格上昇はピークを越えつつあるとはいえ依然続いており、製造業を中心にわずかながら需要鈍化の兆しがあると言えそうだ。

欧州でも需要鈍化の兆しが見える。マークイットの統計によると、ユーロ圏では供給制約が続き、製造業の投入価格指数や産出価格指数が記録的な高水準にあるなか、10月のPMIは製造業が8カ月ぶりの低水準、サービス業が6カ月ぶりの低水準となった。

新型コロナウイルスの新規感染者数がやや増えていることの悪影響もあるだろうが、製造業を中心に供給制約によるインフレが需要を抑制しつつあるようだ。

<世界の新型コロナ感染状況、注意が必要>

需要に鈍化の兆しがあるとはいえ、欧米ともにPMIが50を超えており、景況感は良好である。供給制約によるインフレが鈍化すれば、インフレ期待と利上げ期待の高まりも落ち着き、需要が底堅く推移する可能性は十分にあるだろう。

供給制約が解消に向かうか否かは、企業や政府の対策もさることながら、新型コロナウイルスの感染状況によるところも大きいだろう。世界全体の新規感染者数は9月以降に減少してきたが、最近になって減少が止まる兆しも出てきた。米国やインドなどでは減少傾向が続いているものの、欧州やロシアなどでは増加傾向に転じている。

もし、新規感染者数が再拡大して、各国で規制強化の動きが広がるようになった場合には、世界的な供給制約とインフレが長期化するとともに景気が減速するリスクが高まる。そして、リスクオフと実質金利(さらには名目金利)低下による円高リスクが高まる。今後の感染状況にも注意が必要だろう。

<インフレ動向に左右される円安の持続性>

世界的なインフレ期待と利上げ期待による金利上昇は円安要因となるが、インフレ期待が過度になると、景気減速懸念を通じてリスクオフや金利低下による円高を招きやすくなる。短期的に円安が進んでも短命に終わりやすいだろう。

一方、インフレ期待や利上げ期待が安定化して金利上昇が緩やかとなれば、景気回復期待とリスクオンが維持されることで円安傾向が持続しやすくなる。つまりは、インフレ動向次第で円安の持続性は変わってくると考えた方が良いだろう。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*亀岡裕次氏は、大和アセットマネジメントのチーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て現職。

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