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コラム:高いワクチン接種率実現まで続くドル円こう着、その構図は何か=亀岡裕次氏

[東京 11日] - ドル/円は8月に入り、108円台から110円台に反発している。米雇用統計が市場予想より改善したことや、米財政支出への期待が高まったことが原因だ。ただ、ドル/円の下落リスクは小さくなってはおらず、一方的に上昇する可能性は低いのではないか。

ドル/円は8月に入り、108円台から110円台に反発している。米雇用統計が市場予想より改善したことや、米財政支出への期待が高まったことが原因だ。ただ、ドル/円の下落リスクは小さくなってはおらず、一方的に上昇する可能性は低いのではないか。亀岡裕次氏のコラム。写真は3月、都内で代表撮影(2021年 ロイター)

<リスクオンの円安、米金利上昇のドル高は鈍い>

ドル/円相場をドルと円の動きに分解すると、5月はリスクオンの円安がドル安を上回ったことにより、ドル/円が上昇した。6月は米金利上昇のドル高によりドル/円が上昇し、7月はリスクオフの円高がドル高を上回ったことによりドル/円が下落した。

リスクオンなら円安、リスクオフなら円高、米金利上昇が大きいとドル高、米金利低下が大きいとドル安という相場展開である。

最近のクロス円は、上昇(円安)に傾く通貨ペアもあるが、下落(円高)に傾く通貨ペアも少なくない。一方、米金利の反発とともにドルは持ち直したが、米金利とドルの上昇幅は限定的だ。

リスクオンの円安や米金利上昇のドル高が鈍い背景には、新型コロナウイルス感染再拡大への懸念があるのではないか。米国における週間ベースの新規感染者数は、6月に8.0万人まで減少した後に増加に転じ、8月上旬に81.3万人に達している。

また、欧州主要5カ国(独・仏・英・伊・スペイン)合計の週間ベースの新規感染者数は、6月に11.8万人まで減少した後に増加に転じ、7月下旬に63.5万人に達した。その後はやや減ったものの、8月は54万人前後で推移している。

<新型コロナ感染と円高・円安のサイクル>

ワクチン接種が進んでいる国でも、行動制限を急速に緩和すれば感染が拡大するのは、感染を抑制するために十分な水準までワクチン接種が進んでいないためと言える。ワクチン接種が十分に進むまでは、感染が拡大した局面で行動制限により感染を抑える必要が出てくる。行動制限の強化により感染を抑制できても、一時的に景気が減速する局面が出てくるはずだ。

以前と比べるとワクチン接種が進んだため、感染拡大のペースは高まりにくく、重症化率も高まりにくいので、都市封鎖(ロックダウン)のような厳しい行動制限にはなりにくい。だからこそ、行動制限をすればすぐに感染が抑制されるわけでもなく、緩い行動制限が緩い景気減速を招くことになると推定できる。

すでに欧米の経済指標は市場予想を上回るケースが減る傾向にあるが、行動制限を多少なりとも強化すると、市場予想を下回るケースが増えてくるだろう。そうなると、リスクオフの円高を招くケースが増えやすい。新型コロナ感染拡大による景気減速懸念が収まるまでは、円高リスクが小さくなりにくいだろう。

もちろん、行動制限の効果により感染が抑制されれば、再び行動制限が緩和され、景気が拡大してリスクオンの円安圧力になるはずだ。ただ、ワクチン接種比率が十分に高い水準になるまでは、感染拡大─行動制限強化─景気減速─感染抑制─行動制限緩和─景気拡大というサイクルを繰り返し、円高と円安が交互に訪れる相場展開になりやすい。

<米景気見通しがドル/円を左右しやすい>

さて、今年はリスクオンでドル/円が下落し、リスクオフで上昇する局面が多々あった。それは、米国の株価と金利が逆相関となるときに現れやすい現象である。

例えば、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ期待が高まり、米金利が上昇する一方で株価が下落したときには、リスクオフの円高よりもドル高が優勢となってドル/円が上昇した。

また、米金利が低下する一方で株価が上昇したときには、リスクオンの円安よりドル安が優勢となってドル/円が下落するケースがあった。

ところが、最近は米国の株価と金利が順相関となり、リスクオンでドル/円が上昇し、リスクオフで下落するケースが増えている。米国の株高・金利上昇は円安・ドル高、株安・金利低下は円高・ドル安に作用しやすいからだ。

インフレ期待や利上げ期待が変化する場合には株価と金利が逆方向に動きやすい一方、景気見通しが変化する場合には同じ方向に動きやすいと言える。

最近は新型コロナ感染状況や経済指標によって米国の景気見通しが変化し、株価・金利と同じ方向にドル/円が動きやすい状況にある。

<米実質金利が高まりにくい状況に>

8月に米国の長期金利は反発したが、4─7月の低下に比べ上昇は小幅だ。そして、名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利も低水準のままである。

期待インフレ率は5月をピークに低下しており、インフレ期待の高まりがインフレ連動債(物価変動に応じて元本が調整され、実質的な価値が変動しない債券)への需要を高め、実質金利が低下しているわけではない。景気見通しが実質金利の上昇を抑えている可能性が高い。

米議会予算局(CBO)によると、米国の潜在成長率は1997─2008年平均で3.01%だったが、2009─2020年平均で1.71%へと低下し、今後も同程度の水準が続くと予想されている。

短期的な景気見通しはともかく、長期的な景気見通しは高まりにくいだろう。1997─2008年平均で2.45%だった実質金利(5年インフレ連動債利回り)は、2008─2020年平均で0.0%へと低下したが、その主因は成長期待の低下と見られる。

しかも、新型コロナ問題が加わったため、今年は実質金利がマイナス1.5%以下で推移している。米実質金利は景気指標改善や財政支出法案成立などにより上昇することはあっても、マイナス圏を脱しにくいと考えられる。

<ドル/円は一進一退の展開へ>

今後、米国の短期的な景気見通し次第で実質金利は変動するだろうし、それに伴いドル/円も上下動しやすいはずだ。ただ、新型コロナ問題がほぼ解消されて長期的な景気見通しが回復するまでは、米実質金利は大幅には上昇しにくいだろう。当面、ドル/円相場は108─112円程度のレンジ内で一進一退の展開になると予想している。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*亀岡裕次氏は、大和アセットマネジメントのチーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て現職。

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