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2022年の視点:「悪い円安」の裏に低成長・日本の現実、脱却は可能か=唐鎌大輔氏

[東京 31日] - 2021年の為替市場では「悪い円安」論が跋扈(ばっこ)した。この際、「悪い」には2つの意味が混在していたように思う。1つは「日本の政治・経済への不信が円売りを強めている」という「日本回避」という意味での「悪い」だ。

 12月31日、2021年の為替市場では「悪い円安」論が跋扈(ばっこ)した。この際、「悪い」には2つの意味が混在していたように思う。写真はドルと円の紙幣。2013年2月撮影(2021年 ロイター/Shohei Miyano)

<G7で最後尾の日本>

後述するように、2021年の日本の成長率は先進国でも圧倒的に劣後したが、それが円を手放す一因になったという解釈である。この可能性は確かに否めない。

主要貿易相手国に対する名目実効為替相場(NEER)に関し、主要7カ国(G7)および中国、韓国の動きを比較すると、上昇したのが人民元(プラス8.7%)、米ドル(同4.0%)、英ポンド(同3.4%)、カナダドル(同1.6%)である。

一方、下落したのがユーロ(マイナス3.2%)、韓国ウォン(同5.2%)、円(同7.2%)だった。円の下げ幅は突出している。類似の構図は株式市場でも読み取ることができ、やはりG7の主要株価指数では日本だけがさえない地合いが続いた。

大げさではなく2021年は、成長期待の小ささを理由に金融市場で「日本回避」が進んだ年だった可能性がある。それは端的には、金融政策の格差や金利差として注目されやすいが、元を正せば主要国で珍しくマイナス成長を頻発させた日本への至極当然の反応だったのではないか。

過去、日本が目にしてきた円安局面は日本も含めた世界経済が回復する中、日本以外の金利が上昇基調に入り、国内機関投資家の心理も改善する中で「円を売って外貨建て有価証券(米国債や米国株など)を買う」という流れの中で進むことが多かった。

だから、特に「悪い」という印象はなかった。しかし、2021年の円安は日本経済の出遅れが嫌気されたような結果にも見受けられ、その意味で「悪い」という形容は確かにはまっていたように思う。

<日本経済にとってプラスではなくなった円安>

もう1つの円安に関する「悪い」の意味は「日本経済にとってプラスではない」という意味での「悪い」であった。これは今さら感が強い。

2013年以降、黒田日銀の下で展開された大規模緩和に対しては、リフレ政策の効果を疑問視する論陣が「円安は海外への所得流出を招くだけ」といった反論を展開してきた。それでも「物価が上がってみなければ分からない」という風潮の下、実験的な緩和が継続された。

しかし、2013年以降の大幅な円安も、2021年に見た円安も輸出数量を顕著に増やすことは全くなかった。2021年に関して言えば、原油を筆頭とする資源価格上昇も併発していたため、普通の国民が「円安発・輸入物価経由」の一般物価上昇で、実質所得環境の悪化を感じやすい状況が出現した。

アベノミクス下で「悪い円安」論が盛り上がらなかったのは、まだ超円高の痛ましい記憶が鮮明であったことも影響しているだろうが、そもそも原油価格が今の半分程度だったという事実も大きいはずである

筆者の元にも、今年9─12月に至るまで「なぜ円安が日本経済にとって良くない動きなのか」という取材や寄稿の依頼が非常に多かった。これほど「円安は実は悪いことなのではないか」という社会的な懸念が高まったことは、日本で初めてなのではないかと思う。

実際のところ、この懸念は正しい。そもそも資源輸入国にとって自ら通貨安を望むことは自傷行為であり、国内製造拠点の多くが海外生産移管され、輸出数量が増えないことが分かっている今、資源高と円安の同時進行を前向きに受け入れるのは困難と言わざるを得ない。

国として「高い資源を買って、安い商品を売る」という経済運営を続ければ豊かにならないことは自明である。(理論的には交易条件悪化を通じて実質賃金を押し下げるし、それは統計からも確認可能である)

<「行って欲しくない方向」に行きやすい金融市場>

2021年の日本社会ではこうした2つの「悪い」が意識された結果、円安に盲従するかつての雰囲気はかなり薄らいだ。2013─15年は円安を万能薬のように崇め奉る政策思想の全盛期であり、その過ちを指摘しても聞いてもらえる雰囲気は全くなかった。だが、今は異なる。ところが、こうした社会規範が固まるほど円安に振れやすくなる懸念は強まる。

というのも、金融市場の取引は得てして政策当局の「行って欲しくない方向」に傾斜しやすいからだ。いったん「円安が日本経済にとって不都合」という認識が浸透すれば、円売りで攻め込む戦略は好まれやすくなる。なぜか──。

本当に円安が日本にとって不都合であれば、いつかは政府・日銀が円安を止めるために何らかのアクションに出ることが期待できるからである。そこで反対売買(この場合は円売りの反対なので円買い)に切り返せば、収益が得られる勝算が立つ。

こうした「うわさで買って事実で売る」という為政者を試すような市場動向は、リーマンショック後の白川日銀体制が逆の円高方向で散々経験した話である。今後、円安で同じような苦境を想定しなければならなくなるとすれば、今は円相場の過渡期とも言えるかもしれない。

<2022年の円相場>

2022年を展望するにあたって重要な視点は、特に前者の「日本回避」という意味での「悪い」である。これが続いてしまうと、結果として付いてくる後者の「悪い」も続いてしまう。残念ながら本稿執筆時点では「日本回避」というムードが続いてしまうように感じる。

12月6日に行われた岸田文雄首相の所信表明演説では「経済社会活動の再開は決して楽観的になることはなく、慎重に状況を見極めなければならない」と述べ、新型コロナウイルス対策が経済正常化に優先する姿勢も合わせて示された。

とは言え、先進国で唯一マイナス成長を頻発させた2021年を踏まえると、経済成長にまつわる視線はもっと切迫すべき状況にあるようにも感じる。

そもそも、ワクチン接種率や犠牲者数を見る限り、日本の感染状況は世界的にも相当抑制されている。それでも「コロナ対策が経済より優先」という姿勢からは結局、いくらワクチン接種率を高め、重症・死亡者数を抑えても「感染は悪で許容できない」という観念が透けて見える。

こうした過剰防衛とも言える観念が働く以上、消費・投資意欲はなかなか上向かないだろう。それが日本社会に根差した空気だとすれば、政府自らがこれを払拭するような情報発信に努めることこそ最高の経済対策であり、「日本回避」を止める一手になると筆者は考える。

本来、「高いワクチン接種率」は手段、「経済・社会の正常化」は目的であったはずであり、2021年の欧米はこれをうまく遂行したが、日本はワクチン接種率が世界トップになってからも「まだ見ぬ第6波」に警鐘を鳴らし続けた。欧米の政策運営と照らし合わせると、文字通り、「手段の目的化」に突き進んだ印象がある。

その結果、2021年は潜在成長率の2倍以上の数字を実現した他の先進国に対し、日本は潜在成長率並みの成長に着地した。

門外漢の筆者が感染対策の是非を論じるつもりはないが、2021年の欧米との成長率格差に関して言えば、日本特有のコロナへの向き合い方に起因した可能性は極めて高い。

2021年はデルタ変異株、供給制約、資源高などの下押し要因が相次いで登場したが、これらは世界共通の足かせであって日本だけ沈む理由には全くならない。

しかし、現実には日本だけが沈んだ。1─3月期から7─9月期の実質国内総生産(GDP)成長率(前期比・年率)を平均して比較すると、米国がプラス5.0%、ユーロ圏が同5.8%、日本がマイナス1.5%だ。

このように低迷した日本経済への評価が、為替市場では「悪い」と呼ばれる円全面安を招き、株式市場では先進国対比で劣後した上昇率となって現れた。これが、2021年の現実だったのではないか。

この経験(失敗)から学ばずに同じことが繰り返されるのならば、2022年のテーマも「日本回避」になってしまうだろう。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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