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2023年の展望:春以降の円安再起動警戒、上下にぶれる要因は日米金融政策=唐鎌大輔氏

[東京 31日] - 2022年のドル/円相場は、1985年のプラザ合意以降では最大となる円安相場となった。間違いなく為替市場の歴史に刻まれる年になるだろう。

 2022年のドル/円相場は、1985年のプラザ合意以降では最大となる円安相場となった。唐鎌氏による2023年の展望は。2017年6月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)

ちょうど1年前(21年12月)のロイターコラムで筆者は、2022年の為替市場展望に関して「残念ながら本稿執筆時点では『日本回避』というムードが続いてしまうように感じる」と述べた。

円の名目実効為替相場(NEER)は年初来で最大15.5%(10月下旬時点)、円高への揺り戻しを経た本稿執筆時点(12月中旬時点)でも10%近く下落している。よく「円安はドル高の裏返し」というが、これは本質ではない。

ドルのNEERが本格的に上昇し始めたのは4月下旬以降だが、円のNEERが暴落したのは3月初旬だ(3月だけで円のNEERは5%下落した)。今回の円安は日本経済へのネガティブな評価を発火点としており、それ自体は日本回避と言える動きだった。

その後のNEERの急落を見ても、他通貨の動きとは明らかにかい離しており、円安の全てをドル高(要因としては日米金利差拡大)だけで解釈するのは無理筋だと筆者は思う。

こうした歴史的な年を経た23年のドル/円相場に関して、どのようなイメージを持つべきか。現状では「円高の年」と考える向きが優勢と見受けられる。確かに円が変動為替相場で取引される以上、これほどの円安の翌年が円高となること自体に大きな違和感はない。しかし、23年末まで円高だけで駆け抜けることができるのか。

簡単に今後のイメージを描いておくと、1─3月期までは米連邦準備理事会(FRB)の利上げ幅や利上げ停止がテーマ視される中、米金利低下とドル安に応じた円高が促されやすいと考えている。このあたりは多くの市場参加者が共有する問題意識と思われる。

この際、下値めどは2022年の値幅の半値戻しである130円弱だろうか。為替市場はオーバーシュートが常であるため125─130円のゾーンまで落ちてくる可能性はある。

しかし、2022年初頭の112─113円近辺まで戻るのは相応に難易度が高いように思える。上述の通り、今年の円安はドル全面高だけではなく、円全面安も併発した結果だと考えられる。ドル全面高はFRBのハト派転嫁(pivot)とともに修正される余地があるにしても、史上最大の貿易赤字などを背景にゆがんだ円全面安の部分は解消されまい。

直感的にも巨大な貿易赤字を擁する世界で、唯一のマイナス金利採用国の通貨が買われ続けるというイメージはわきにくい。もちろん、23年の貿易赤字は22年よりは縮小するだろうが、赤字自体は解消が難しいだろう。また、為替予約のリーズ&ラグズを踏まえると、22年の赤字は相応に23年にも効くように思う。

<春以降も円高になるのか>

では、4─6月期以降はどうなるか。金融市場ではそのまま円高傾向が続き、22年初頭の水準に戻るという見方もある。本当にそうなるだろうか──。

上述した日本の金利・需給環境も加味すれば、円高の持続性には当然疑義が持たれるが、それだけではない。コンセンサス通りの展開となれば、4─6月期以降はFRBの利上げ停止を確認することになる。だが、「次の一手」としての利下げが現実的に市場予想の範囲に入ってくるのは、23年中の話ではないと筆者は考えている。

もっとも、この点には諸説ある。利下げを見込む向きもあるため、ドル/円相場の展望が分岐するとしたら利下げ可能性の確度をどれほど想定するかなのだろう。

仮に「23年中の利下げは無い」という立場を取ると、金融市場には当面、FRBの大きな政策変更を予想しないで済む穏当な時間帯が生まれる。象徴的にはボラティリティ低下とともに株高という地合いに至る可能性がある。

利下げをするわけではないので、日本から見た内外金利差も相応に高止まりする公算が大きい。これは対ドルだけではなく、対クロス円通貨に対しても同様のことが起きるはずだ。

「十分な金利差」と「低いボラティリティ」はキャリー取引が行われるための2大条件である。22年中は日米金利差が円売りの材料として注目されたが、本当の意味で円安を駆動するとしたら23年の方が好ましい環境に思える。「円だけマイナス金利」という状況下、貿易赤字大国の通貨が上昇一辺倒という軌道をたどるのは非常に難しく、説明に窮する。

逆に言えば、「十分な金利差」と「低いボラティリティ」があって、株高でリスクオンムードが強い時に、貿易赤字国通貨が上昇一辺倒になるという光景は直感的には想像が難しい。

<FRB利上げ継続なら円安リスク>

以上はメインシナリオだが、リスクは上下双方向に広がっている。主だったものを1つずつ挙げておきたい。

まず、予想外に円安が行き過ぎるリスクだが、これはFRBの利上げ継続の可能性だろうか。米国のインフレ率がピークアウトしていることは自明であるとしても、多くの市場参加者が抱く「1─3月期中に利上げが停止する」という前提は確実なのか。

個人消費支出(PCE)デフレーターはダラス地区連銀が試算するトリム平均指数で前年比4.7%程度、コアベースで5%超、総合ベースでは6%超である。年初3カ月間で安定的に2%程度の軌道に収束したという判断に至るのか。

インフレ率は供給制約の緩和やエネルギー価格の下落を背景に10%から5%へ容易に減速しそうだが、5%から2%へ減速するためには労働力不足やこれに伴う賃金の騰勢の行方にめどが立たなければならない。ここに不透明感が残る。

現状、ターミナルレートのコンセンサスは4.75─5.25%というレンジにあるが、例えば「6月以降は四半期に1度、25bp」というペースで利上げが継続する可能性はないか。そうなった場合、ターミナルレートは6%に接近する。金融市場ではほとんど想定されていないシナリオである。

パウエルFRB議長は1年前(2021年11月末)、「インフレは一時的」という認識を急きょ撤回し、市場に大きなショックを与えた経緯がある。当時の翻意に比べれば、利上げが1─3月期で停止せずに緩やかなペースで持続するという展開はさほど不自然ではない。メインシナリオではないが、円安方向のリスクシナリオとしては検討する価値がある。

<日銀のマイナス金利解除という「大穴」>

片や、想定以上に円高が行き過ぎるリスクもある。これも複数考えられるが、やはり新体制への移行に伴う日銀のタカ派転換だろう。

本稿執筆時点の金融市場では12月19─20日の金融政策決定会合においてイールドカーブコントロール政策(YCC)の許容変動幅が拡大された話題で持ち切りだが、現状のところは「緩和枠組みの柔軟化であって利上げではない」が「大本営発表」である。

これ以上の展開として(恐らくはしかるべき総括的検証などを経て)本当の引き締め、日銀Pivotと呼べるような政策決定も残されている。新体制が一足飛びにそのような決定に至るという見立ては決して支配的ではないが、今回の日銀決定に伴い円相場が急騰したことにも表れるように「しょせん、日銀は引き締められない」という市場予想が覆されると、大きなプライスアクションが起きる。

現状、市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度であり、新総裁の候補者が複数名挙がっているものの、どの候補者になればどういった政策修正に至るのかというコンセンサスはない。それだけにサプライズが起きやすい状況とも言える。

「新体制移行とともに利上げ(=マイナス金利解除)」というような展開は可能性として少し上がっているのかもしれないが、やはり予想としては「大穴」の部類ではないかと思われる。

しかし、13年4月、黒田総裁が就任後初の会合で「量的・質的金融緩和」を決定し強烈なリフレ思想を印象付けた記憶をたどれば、その逆の展開が2023年4月に起きることはないのかは気がかりではある。

もちろん、大きな決定が苦手な岸田文雄政権の特質を思えば、利上げは荷が重く可能性は高くはない。金利上昇は住宅ローン金利などを通じてかなり露骨に家計部門から嫌われるはずだ。

だが、マイナス金利解除に伴う「日銀の利上げ」という展開は為替市場参加者の大多数が想定していないものであるだけに、積極的な円買い材料に乏しいと言われる中、大きな価格変動をもたらすリスクとして念頭に置くべきである。

編集:田巻一彦

*12月21日までの情報に基づいています。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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